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【第39話】酔っ払い亭の昼下がりと大賢者の鑑定

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


今回は、現場から戻った『酔っ払い亭』での賑やかなお昼下がりです。

シエラの大真面目な天然爆弾発言に、エリアナとキャシーの顔面沸騰コンビ……いつもの楽しい日常が描かれます。


しかし、拾った工具から浮上した『ガルディノ魔導重工』と、腕利きの魔道具職人『アレン』の存在。

事件の影が、静かに下町の工房へと繋がっていきます。


それでは、第39話をお楽しみください!

石畳の路地を抜け、見慣れた木造の建物へと足を進める。

 魔導商都グランデールの下町近くに佇む酒場『酔っ払い亭』。一階は昼から陽気な酒乗りたちが集う酒場だが、奥の区画と二階は、この店の常連でもある大賢者メリッサが営む「探偵事務所」の機能を兼ね備えている。そして、ここはこの世界へ転移して以来、住み込みの従業員として働いているユーリの生活拠点でもあった。


カランカラン、とドアベルが軽やかな音を立てる。


「無事でよかったわ、ユーリ! 怪しい奴がいたっていうから心配したのよ!」


店内に足を踏み入れるなり、真っ先に駆け寄ってきたのは看板娘のキャシーだった。

 動きやすいタイトな給仕服に身を包み、頭上のヒョウの耳を心配そうに伏せながら、全身で安堵を表現してくる。


「ありがとう、キャシー。怪我はないよ。それに、エリアナがいてくれたからね」


労いにそう答えると、背後でエリアナが誇らしげに胸を張った。

 だが、キャシーは即座に琥珀色の瞳を尖らせ、エリアナへと鋭い視線を向けた。


「エリアナ! なんでそんな危ない所にユーリを連れ出したのよ! ただ一緒にいたいだけの口実じゃないの!?」


「し、失礼ですわね! 現場の魔力反応がおかしいから、正式にユーリ様へ調査の同行をお願いしただけですわ! ……その、危険な目に遭わせかけたのは反省しておりますけれど……」


珍しく縮こまるエリアナに対し、カウンターの奥からハーブティーのカップを手にした大賢者メリッサが、落ち着いた大人の声音で口を挟んだ。


「キャシー、言い過ぎよ。聖騎士団から正式に私の事務所へ依頼が入って、私がユーリを行かせたのよ」


探偵事務所の所長としてフォローを入れるメリッサ。だが、キャシーは収まらない様子で腰に手を当てた。


「そ、それでも! 公私混同甚だしいわっ!」


「公私混同とは心外ですわ! 私は仕事でユーリ様とご一緒したんですのよ!」


「へぇ。じゃあ、ユーリと一緒で嬉しくないわけ?」


ニヤリと意地悪く口角を上げるキャシーに、エリアナは一瞬言葉を詰まらせ、頬を朱に染めた。


「そ、それは……その……嬉しいですわ」


「ほら、やっぱりそうじゃない!」


「じゃ、じゃあ、あなたはどうですの! ユーリ様と四六時中ずっと一緒だったら嬉しくないんですの!?」


詰め寄られたキャシーは一瞬固まり、何処かへ飛んでいきそうな妄想に浸ると、ふにゃりと頬を緩めた。


「そ、それはー……めちゃくちゃ嬉しいわね」


「そうですわね、嬉しいことこの上ないですわ……」


ふたりしてうっとりと頬に手を当てて溜息を漏らす。

 その背後から、静かに佇んでいた銀髪ショートの女剣士シエラが、至極真面目な顔で言葉を挟み込んできた。


「なるほど。ずっと一緒ということは、風呂もベッドも共にするということだな」


「「「……っ!?」」」


淡々と放たれた天然の極論に、キャシーとエリアナは弾かれたように跳ね上がり、顔面を沸騰させたように真っ赤に染め上げた。


「な、何を言い出すんですのこの天然騎士はぁぁっ!」


「は、破廉恥よ! 大体なんでシエラまで混ざってくるのよ!」


「む? 至極当然の生活動線を推測したまでだが」


大真面目に首を傾げるシエラを見かねて、メリッサがパンパンと小さく手を叩いた。


「はいはい、変態的妄想はその辺にしておきなさいな」


「「「へ、変態って……」」」


声を揃えて抗議する乙女たちを他所に、メリッサは呆れたように肩をすくめてお茶を口に運んだ。

 相変わらず賑やかすぎる出迎えに苦笑していると、今度は店の重厚な木造ドアがバンッと激しい音を立てて開かれた。


「ユーリ! 無事だったか! 怪我はないか! 誰にやられた!? エリアナか!? よーし、俺が叩き切ってやる!」


大剣を背負った衛兵騎士団長のルシアンである。

 荒い息を吐きながら突進してくる過保護ぶりに、即座にエリアナの雷が落ちた。


「誰が怪我させたっていうんですの、このポンコツ勇者! わたくしがその使えない脳みそを叩き割ってあげますわ!」


「な、なんだとこのお転婆騎士! 俺はユーリを心配して――」


「心配の仕方が見当違いと言っているんですのよ!」


いつもの如く火花を散らすふたりを制しながら、ルシアンに向かって問いかける。


「ルシアン、街の方で何かあったの?」


ルシアンはエリアナの視線をかわしつつ、真剣な表情へと切り替えて額の汗を拭った。


「ああ、そうなんだよ。今朝から街の西側や裏路地あたりでさ、妙な低級魔獣がチラホラ現れ始めてるんだ。大害をもたらすほど強い奴らじゃないんだが、魔力がほとんど測定できないくせに、生命力だけがやけにしぶとい。ゲートの防衛結界は正常に動いてるってのに、どこから湧いて出てるのかさっぱり分からなくてな」


「魔力が測定できない魔獣……」


昨夜の礼拝堂爆破事件と同じ構図だった。

 魔法の痕跡を残さず、世界の基盤であるマナの流れを乱して引き起こされる異変。街の表面上は平和を保っているように見えて、その足元では確実に見えない毒が広がり始めている。


「礼拝堂の事件と無関係ではなさそうだな」


そう呟きながら、懐から現場で回収した「あの品」を取り出し、テーブルの上へと静かに置いた。


鈍い銀色の光を放つ、手のひらサイズの特殊な器具。

 極小のガラス小瓶が嵌め込まれ、髪の毛よりも細い加工刃を備えた奇妙な物体に、全員の視線が集まる。


「これは……なんだ? 道具にしては異様に細かくて不気味だな」


ルシアンが覗き込み、眉をひそめる。

 メリッサはハーブティーのカップを置くと、椅子から身を乗り出し、その小さく愛らしい手を器具へと伸ばした。


幼い見た目とは裏腹に、その深緑の瞳には大賢者としての鋭利な光が宿る。

レンズ状の魔道具を目元に当て、器具の細部、加工刃の角度、そしてガラス瓶に残るわずかな液体を慎重に精査し始めた。


「へぇ……これは驚きね」


メリッサの口から、感心と警戒の混ざった低い声が漏れる。


「メリッサ、何かわかったのかい?」


「ええ。これはただの魔道具屋で買えるような代物ではないわ。帝都の極秘技術……それも、十数年前に不穏な噂と共に封印された『ガルディノ魔導重工・アニマギアス工房』の規格品よ」


「ガルディノ魔導重工……」


聞き覚えのない名前に反芻すると、メリッサは器具の側面を指先で優しくなぞりながら説明を続けた。


「表向きは高度な魔道具の開発組織だったけれど、裏では軍事用の異端技術に手を染めていた場所よ。……ユーリはこの道具の『用途』について、何か気づいているようね?」


メリッサからの問いかけに、じっと器具を見つめながら思考を巡らせる。


「……これは、魔道具を一から組み立てるための道具じゃない。完成された魔道具の内部にある、目に見えないほど繊細なマナの導管を、直接『いじる』ための精密工具だ。……回路なんかを、改変するために作られたんじゃないかな」


ユーリの指摘に、メリッサは大人の艶やかな笑みを深めた。


「大正解よ。通常では確認することさえできないマナを直接いじるための、術者用特殊工具ね。これほどの精密器具、そこらのチンピラや並の魔導士が扱えるはずもないわ」


昨夜の礼拝堂で出会ったフードの男。あの男が使っていたマナの不純物、そしてこの特殊な工具。点と点が一つの線で繋がり始めていた。


「メリッサ、この工具の持ち主や、手入れをしている人物を特定することはできるか?」


「そうね……」


メリッサは器具を光に透かし、刃の微細な研磨痕と、ガラス瓶に残る保護オイルの匂いを深く嗅いだ。


「この特殊な精霊油の調合、そしてこの極小刃の研磨精度……王都広しといえど、これほどの工具を維持・メンテナンスできる職人は一人しかいないわ。隣地区で、日用品や魔道具の修理屋を営んでいる男……アレンよ」


「アレンって、あの工房のアレンさんのこと?」


キャシーが思い当たる顔で声を上げた。以前から知っている熟練の魔道具職人だ。

 帝都の極秘規格品を手入れできるほどの超一流の技術を持ちながら、なぜ王都の片隅で、ただの日用品や雑貨の修理屋として正体を隠しているのか。


「アレンさんのところへ行ってみよう。昨夜の爆発のことも、この工具のことも、何かを知っているかもしれない」


そう告げると、ルシアンが大剣の帯を叩いた。


「っと、俺もついていきたいのは山々だが、街にあふれた魔獣駆除の命令が出ているんだ。エリアナ、お前にも出ているぞ」


「なんですって!? 残念ですわ……ユーリ様をお守りしたかったのに……!」


エリアナが悔しそうに肩を落とす。


「へっへー、抜け駆けの罰よ」


キャシーがざまあみろとばかりに笑う。

 しかしそこへ、メリッサが手帳を閉じながら冷静に指示を出した。


「シエラとキャシーにも、探ってもらいたいことがあるから別行動よ」


「えっ、あたしも!?」


驚くキャシーとシエラへ、メリッサは深く頷く。


「シエラには、魔族と帝都の不穏な動きについて裏から探ってもらいたいの。元近衛としての視点が必要よ。そしてキャシーには、最近街で起きた一連の不可解な事件について、情報網を使って集めてちょうだい。……アレンの店には、ユーリ一人で行ってもらうわ」


「承知した。魔族と帝都の動向、速やかに調査して報告する」


シエラが姿勢を正して深く一礼し、キャシーも真剣な表情で頷いた。


「わかったわ。あたしも街の噂や情報を片っ端から洗ってみる!」


それぞれの役割が決まり、仲間たちが迅速に散っていく。

 見えない糸で手繰り寄せられるように繋がっていく陰謀。

その真相を確かめるため、ユーリは一人、アレンの魔道具工房へと足を踏み出した。

第39話をお読みいただき、ありがとうございました!


「ずっと一緒ということは、風呂もベッドも共にするということだな」

シエラさん、大真面目な顔で何を言っているんですか!(笑)

そしてルシアンの安定のいじられ役……シリアスな事件の中でも、この拠点の空気感には癒やされますね!


しかし、明かされた工具の正体は、マナの導管を直接いじるための極秘規格品。

そして手入れができる唯一の職人『アレン』の存在。


次回、ユーリは下町の工房を訪れ、自称「世界一の助手」を名乗る元気いっぱいな少女と出会うことになります!


――――――――――――――――――――

【読者の皆様へのお願い】

「ヒロインたちの掛け合いに笑った!」

「シエラの天然が可愛い!」

「アレンの工房が気になる!」

と思っていただけましたら、


ページ下部にある**【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして応援していただけると、執筆の凄まじい励みになります……!


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【3連休特別企画! 1日5話・怒涛の一挙更新中!】

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いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます!


10月10日(土)〜 10月12日(月・祝)の3連休は、

感謝を込めて【毎日5話ずつ(3日間で計15話)】の超・連続更新でお届けします!


■ 連休中の更新時間(1日5回)

【朝 07:40頃】/【昼前 11:40頃】/【午後 15:40頃】/【夕方 18:40頃】/【夜 21:40頃】


連休のお供に、ユーリたちの熱い戦いと逆転劇をたっぷりお楽しみください!


「更新を見逃したくない!」「面白い!」と少しでも思っていただけましたら、

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次回もお楽しみに!

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