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【第37話】乙女たちの感謝祭と青い一輪

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


街中が華やかで穏やかな雰囲気に包まれる年に一度の「感謝祭」。

想いを寄せる女性を誘うというこの特別な日に、『酔っ払い亭』のリビングでは朝から乙女たちがソワソワと落ち着きを失っていました……!


ユーリの外出を巡り、机の下に潜伏したキャシー、エリアナ、シエラの三人が決死の尾行作戦を開始!

カフェや花屋を巡るユーリが向かった先は、かつてこの異世界にやってきた「あの場所」でした。


シエラの切れ味抜群な天然ボケ、そしてユーリの胸に秘められた祈りと、手渡される『青い一輪』。

【第2章:魔剣ヴェルグレイヴと漆黒の暗影】のフィナーレを飾る心温まるエピソード、どうぞ最後までお楽しみください!

 年に一度、魔導商都グランデールの街中が華やかで穏やかな雰囲気に包まれる「感謝祭」の日のこと。

 この日は、男性から想いを寄せる女性へ声をかけ、一緒に特別な一日を過ごすのが、この国の古い習わしであった。


『酔っ払い亭』の一階リビングでは、朝から異様な緊張感が漂っていた。

 ソファに深く腰掛け、分厚い魔導書をめくっていた大賢者メリッサが、呆れたような視線を手元から上げる。

 部屋の中では、ヒョウの獣人であるキャシーが、頭の耳をピクピクと揺らしながら右へ左へと落ち着きなく歩き回っていた。

 そのすぐ横では、聖騎士団長エリアナが幾度目か分からない剣の検分を繰り返し、カチャカチャと重厚な甲冑の音を響かせている。


 そしてもう一人——元・帝都筆頭剣士であるシエラが、一人だけ畳の上に正座し、背筋をピンと伸ばした姿勢で真剣な面持ちで腕を組んでいた。


「さっきから何なのよ、あんたたち」


 メリッサが半目になって溜息を吐く。


「だって……! 今日がどういう日か分かっているでしょ!?」


「そうですわ! ユーリ様が今日、どう過ごすつもりなのか心配で夜も眠れませんでしたのよ!」


 キャシーとエリアナが必死の形相で身を乗り出す。その横で、シエラも静かに頷いた。


「ふむ……ユーリ殿が今日、私を『第一側室』として指名してくださるならば、私はいつでも出陣の準備は整っているのだが」


「「出陣じゃなくてデートよ/側室って何ですの!!」」


 キャシーとエリアナの息の合った叫びが部屋に響き渡る。

 二人の剣立った剣幕にも、シエラは「然り。武人たる者、どのような指名であれ全力を尽くすのが礼儀だな」と大真面目な顔で頷くだけだった。

 メリッサは呆れたように紅茶に口をつけ、ぽつりと呟いた。


「ユーリなら今日はたぶん出掛けるわよ」


「「それ本当(本当ですの)!?」」


 ガタァン! と、キャシーとエリアナが同時に椅子を蹴飛ばす勢いで立ち上がった。シエラもまた「む、出撃の刻か」と目を見開く。

 まさにその時、二階からトントンと軽やかな階段を下りる足音が聞こえてきた。


「……? あれ、誰か来ていたの?」


 部屋に顔を出したのは、身なりを整えたユーリだった。今まさに外出するところらしい。


「え? あ、あはは……そんなことないわよ! 魔法の詠唱の練習!」


 メリッサが引きつった顔で棒読みの嘘をつく。

 ユーリの視線からは死角となる大テーブルの下——そこには、口を極限まで引き結び、身を小さく縮めて潜んでいるキャシーとエリアナの姿があった。

 さらにその隣には、「素早い潜伏は武人の基本だな」とばかりに、正座のまま真顔で身を低くしているシエラの姿もあった。


「そう? じゃあ、ちょっと出かけてくるから」


 ユーリが扉を閉め、靴音が遠ざかっていく。

 足音が完全に消えたことを確認すると、テーブルの下から「はあぁぁっ」と重々しい溜息とともに、三人揃って這い出てきた。


「なんで急に隠れるのよ?」


 エリアナは服の埃を払いながら、頬を真っ赤にして胸を張る。


「堂々と目の前に現れたら、まるで『私を誘ってください』と催促しているみたいではありませんか! 乙女のプライドが許しませんわ!」


「然り。戦において自ら敵の術中にハマるなど下策中の下策だ」


 シエラが真顔で深く同意する。キャシーが頭を抱えて叫んだ。


「戦じゃないってば! こうしちゃいられない、ユーリが誰を誘うのか見届けるわよ!」


「「異論はありませんわ/追撃を開始しよう!」」


 メリッサの制止を聞く耳も持たず、脱兎のごとく部屋を飛び出していく三人。

 ソファに残されたメリッサは、「まったく……好きにすればいいわ」と呆れ顔で再び魔導書へ視線を落とすのだった。




 三人で後を追った末、ユーリが最初に向かったのは、街で一番人気のある洒落たカフェだった。

 建物の影や街頭の陰から覗き込む三人。キャシーがヒョウの耳をピクピクさせて声を潜める。


「あのウェイトレス、街でも評判の可愛さよ!? ひょっとしてあの子にアタックする気かしら!?」


「そ、そんなの許せませんわ! 私というものがありながら……っ!」


 エリアナが握りつぶしそうな勢いで壁を掴む。それを見たシエラは、静かに顎に手を当てて鋭い眼光を給仕へ向けた。


「案ずるな。あの給仕の腰の落とし方、只者ではない。身のこなしの軸がブレておらん。おそらく敵の暗殺者だ。ユーリ殿は探りを淹れているのに違いない」


「「(絶対ただのお昼ご飯でしょ……)」」


 キャシーとエリアナの呆れた視線を余所に、店内ではユーリがただ静かにサンドイッチを食べ、お会計を済ませて店を出てきた。


「……本当にお昼ご飯を食べに来ただけでしたわね」


「なーんだ、紛らわしいわね。あ、私もお腹空いてきた……」


 拍子抜けする二人だったが、次にユーリが寄った場所を見て再び身体を硬直させた。


「は、花屋……!?」


「あの子、街一番の美人で有名な花屋の娘ですわ! やっぱりあの子に告白するために花束を……!?」


 だが、ユーリは出来上がった綺麗な青い花束を受け取ると、店主に爽やかに礼を言って通り過ぎていった。そのまま足を止めず、どんどん街の外れ——人通りの少ない旧市街の小高い丘へと歩を進めていく。


「こんな静かなところへ行って、一体誰に会うのかしら……」


 三人で顔を見合わせながら、ユーリの背中を追って丘の階段を登っていく。




 丘の頂上、一本の大きな木の下。

 ユーリは風に吹かれながら静かに佇み、抱えていた綺麗な青い花束を胸の前で重ね、深く手を合わせて祈っていた。

 木の陰から見守る三人の後ろから、不意に声がかけられる。


「あら、やっぱりあなたたち、こんなところまでユーリをつけてきたのね」


 キャシーが跳ね上がるように振り向いた。


「メリッサ!? どうしてここに!?」


「どうしてって、ここに用事があるからよ。……正確には、ここに用事があるユーリを見に来たってところかしら」


 メリッサは呆れ半分、温かさ半分といった眼差しで、遠くで祈るユーリの背中を見つめた。

 エリアナが不思議そうに問う。


「ユーリ様は……何をしておられますの……?」


「手を合わせて祈っているのよ。……あいつ、この世界に来る前、向こうの世界でとても悲しいお別れがあったらしいのよ」


「悲しい、お別れ……?」


 キャシーが耳を落とす。

 ユーリがかつて見過ごし、差し伸べることができなかった幼馴染の記憶。後悔と、二度と繰り返さないという強い誓い。


「大切な人の記憶を抱えて、前に進むために、忘れないようにここで祈っているのよ」


 メリッサの静かな言葉に、三人とも息を呑んだ。

 風に揺れるユーリの後ろ姿は、どこか儚く、けれど言葉にできないほど強くて優しかった。自分たちが抱いていた下心や些細な嫉妬が急に恥ずかしくなり、三人は静かにその背中を見つめ続けた。


 やがて祈りを終えたユーリがゆっくりと振り返り、どこか申し訳なさそうな苦笑いを浮かべた。


「……通りで、後ろから幾つもの気配がついてきていると思ったよ」


「気付いておられましたの!?」


 エリアナが顔を真っ赤にする。

 ユーリは静かに歩み寄ると、抱えていた青い花束から一輪ずつ綺麗に抜き取り、少女たちへ差し出した。


「はい、これ。いつもお世話になっているお礼。余り物で悪いんだけど」


 手渡された、一輪の青い花。

 澄み切った秋空のように美しいその色を、乙女たちは息を呑んで見つめる。


「あ……綺麗……」


「……ありがとう、ございます……っ」


 キャシーとエリアナが愛おしそうに花を抱え込む中、シエラは手渡された青い一輪を真顔でじっと見つめていた。


「……ユーリ殿からの初拝領物か。甲冑の胸元に飾って、我がヴァルヴェット家の家宝としよう」


「「だから家宝とかしなくていいから!」」


 キャシーとエリアナの息の合ったツッコミが飛ぶ。シエラは不思議そうに「む、家宝にするのは不敬なのか?」と首を傾げていた。


 照れ隠しに声を張り上げる二人だったが、ふとメリッサの手元を見て目を見開いた。メリッサの胸元にも、すでに一輪の青い花が綺麗に挿されていたのだ。


「「ってお前(あなた)ももらってるじゃないですの!!」」


「なっ……! べ、別に私は渡されたからもらっただけで——!」


 顔を真っ赤にして弁明するメリッサを見て、ユーリは嬉しそうに声を上げて笑った。


 雲ひとつない秋晴れの空の下、青い花を手にした乙女たちの賑やかな歓声が丘の上に優しく響き渡る。


 その透き通るような蒼い花の名は——『ネフィリア』。


『忘れない記憶』、そして『寄り添う光』という花言葉を持つその一輪は、少女たちの胸元で誇らしげに揺れていた。


 決して解けない確かな絆と、かけがえのない日常。

 魔導商都グランデールの穏やかな風とともに、ユーリたちの物語はさらなる明日へと向かって続いていくのだった。

第37話をお読みいただき、本当にありがとうございました!

そして、これにて【第2章:魔剣ヴェルグレイヴと漆黒の暗影】が堂々の完結となります!


前半の机の下潜伏や、カフェの給仕を見て「暗殺者だ、探りを入れているに違いない」と真顔で分析するシエラの天然っぷり、そして息の合いすぎたエリアナ&キャシーの全力ツッコミには思わず笑ってしまいますね。


ですが、後半の小高い丘でのシーン。

過去の悲しい別れと悔恨を忘れず、前に進むために静かに手を合わせるユーリの後ろ姿と、それを優しく見守るメリッサの言葉が深く胸に沁みます。


そして、照れくさそうにユーリから全員へ手渡された、透き通るような蒼い花『ネフィリア』。

花言葉は——『忘れない記憶』、そして『寄り添う光』。

「家宝にしよう」と真面目に喜ぶシエラや、ちゃっかり先に貰っていたのがバレて真っ赤になるメリッサなど、少女たちの笑顔とともに深まった絆がとても温かい締めくくりとなりました。


次回より【第3章】開幕!

ユーリの規格外の【眼・手】による知略と無双、そしてさらに賑やかになった仲間たちとの物語は、新たな大舞台へと突入します!


次回からの新章も、どうぞお見逃しなく!


【 第2章完結記念! 読者の皆様へのお願い 】


ここまでユーリたちの物語を追いかけてくださり、本当にありがとうございます!


もし少しでも……

「第2章、最高に面白かった!」

「シエラの天然ボケが可愛すぎる!」

「ネフィリアの花言葉とラストにグッときた!」

「第3章の開幕が待ちきれない!」


と感じていただけましたら、画面下部にある【☆☆☆☆☆】を**【★★★★★】**にして応援評価していただけますと、今後の執筆の何よりの力になります!


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【3連休特別企画! 1日5話・怒涛の一挙更新中!】

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いつも本作をお読みいただき、本当にありがとうございます!


10月10日(土)〜 10月12日(月・祝)の3連休は、

感謝を込めて【毎日5話ずつ(3日間で計15話)】の超・連続更新でお届けします!


■ 連休中の更新時間(1日5回)

【朝 07:40頃】/【昼前 11:40頃】/【午後 15:40頃】/【夕方 18:40頃】/【夜 21:40頃】


連休のお供に、ユーリたちの熱い戦いと逆転劇をたっぷりお楽しみください!


「更新を見逃したくない!」「面白い!」と少しでも思っていただけましたら、

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次回もお楽しみに!

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