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【第33話】虚飾の巨竜と破砕の不純物

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


前回、魔剣の呪いからシエラを無事に救出したユーリたち。

しかし、敵頭領ガイゼルが掲げた黒い宝玉から、伝説の魔獣『ヴォルヴァグス』が降臨してしまいます!


大賢者メリッサの指示を受け、腹を括ったルシアンが正面突破の突撃を敢行!

巨竜を一刀両断したかに見えたその時、戦場を覆う狡猾な暗黒結界の罠とは——!?


ルシアンとユーリの連携、正気を取り戻したシエラの抜刀、そして敵の想定外の暴走!

怒涛のバトルが展開する第33話、どうぞお楽しみください!

大賢者メリッサの工房敷地を揺るがす、巨竜ヴォルヴァグスの圧倒的な咆哮。


黒銀の鱗を震わせ、漆黒の炎を喉奥で滾らせる魔獣の威容を前に、ユーリたちの包囲陣は乱れることなく冷徹に状況を見極めていた。


刺客の頭領ガイゼルは、仲間たちの知略と圧倒的な連携に苦々しく顔を歪める。


「バ、バカな! 我らが暗黒結界術を破るほどの規格外のやつがいるとはっ……ッ! やむを得ん、予定変更だ! 宝玉にマナを注げ、力で押し潰せ!」


「しかしガイゼル様、今ここであのマナを使ってしまっては後の計画に影響が……」


部下が蒼白な顔で制止しようとするが、ガイゼルは唾を飛ばして怒鳴り散らした。


「しかしもかかしもあるかっ! 今ここでやつらを足止めしなければ、我らが全滅してしまう!」


「わ、分かりました!」


部下たちが所持していたマナの魔石を、掲げた黒い宝玉へと一斉に注ぎ込む。その様子を横目で見ながら、ガイゼルは邪悪な笑みを浮かべて小さく呟いた。


(それに増幅装置を入手すれば我々の計画は完成したも同然。あんな張りぼて魔獣になんぞ頼ることさえ必要がなくなる)


刺客たちが宝玉の輝きを一気に強めたその瞬間、体内で魔力を完全循環させたルシアンが、地を爆裂させるような勢いで跳躍した。


「でかいだけのデカブツが! 吹っ飛べぇぇっ!」


聖大剣クラドが夜空を裂き、豪快な光を帯びて巨竜ヴォルヴァグスへと叩きつけられる。


——ズバァァァンッ!


強烈な一撃が巨竜の頭部から胴体を真っ二つに両断し、巨大な躯が左右へと分断された。


「やるじゃない、ポンコツ勇者!」


キャシーが歓声をあげる。


「やったな、ポンコツ勇者!」


エリアナが拳を握りしめて称える。


「思ったよりやるわね、ポンコツ」


メリッサも顎を上げて小さく頷いた。


「こらーー、全然ほめてないぞー! っていうか、最後はポンコツになってるぞ! ……それより」


ルシアンが大剣を肩に担ぎ直し、首を傾げた。


「それより?」


ユーリたちが怪訝そうに聞き返す。


「俺、切ってないぞ?」


「……え?」


全員が呆気にとられ、真っ二つになった巨竜の残骸へと視線を戻した瞬間——。


左右に割れたはずの巨竜ヴォルヴァグスの体がドロリとした黒紫色の膜へと融解し、生き物のような速度で広がりながら、ユーリたち全員を丸ごと覆い尽くした。


「こ、これはっ!?」


キャシーが身を屈める。周囲は一瞬にして視界を遮断する暗黒の空間へと変貌していた。


「結界だわ! やっぱり魔獣は幻術で、さっきから攻撃していたのは結界魔法自体だったのね!」


メリッサが叫ぶ。


半透明の暗黒膜の向こう側で、ガイゼルが高笑いを響かせながら、工房内に置かれていた増幅装置へと手を伸ばしていた。


「はっはっは、俺の仕事が終わるまで、その中でゆっくりしてな!」


「くそ、このままじゃマズい! ガイゼルに増幅装置を持っていかれる!」


ルシアンが焦り顔で叫ぶと、隣のキャシーが小声で耳打ちした。


「何言ってるのよ、あれはメリッサが作った偽物よ」


「……あ、そうか」


ルシアンは気まずそうにポリポリと頭をかいた。

だが、偽物とはいえ敵をこのまま野放しにするわけにはいかない。


「よし、偽物だろうが本物だろうが、悪党を逃がすわけにはいかん! ユーリ、合わせろッ!」


ルシアンが全身の筋肉を隆起させ、体内で完全循環させた莫大な魔力を大剣クラドへと一気に集束させた。


「打ち破れぇぇぇッ! 剛刃一閃(ごうじんいっせん)・覇道砕破(はどうさいは)ッ! 」


ズドォォォォォンッ!


ルシアンの放った剛烈無比な一撃が暗黒結界の側壁を捉え、強固な膜に激しい亀裂を走らせる。衝撃を逃がす結界の構造が一瞬にして硬直し、マナの流路が軋み声をあげた。


その完璧な一撃によって生み出された亀裂の隙間へ、ユーリが迷わず肉薄する。

ユーリの【眼】には、激震する暗黒膜の核となる紫色の不純物が、引き裂かれまいと蠢いているのが鮮明に捉えられていた。


素手でその最も太い不純物の結節点を力任せに鷲掴みにする。

手に伝わるのは、頑丈な板に固着した強力なテープを無理やり引き剥がすような、生々しい摩擦の手応え。


「剥がれろぉぉぉーーーーッ!」


全身の力を指先に込め、一気に腕を振り抜く!


——ビリリィーー……ッ!


空間を引き裂く強烈な剥離音とともに、ルシアンの大剣の衝撃波が結界の内側から炸裂した。

二人の連携により、巨大な暗黒結界は粉微塵となって吹き飛び、夜の空気の中へと霧散した。


「そう来ると思ったよ、坊主」


結界を破って飛び出したユーリの正面で、ガイゼルが凶悪な笑みを浮かべて振り返った。


「コイツは俺たちが逃げるまでの時間稼ぎ用のお土産だ。受け取ってくれよな!」


ガイゼルの手から放り投げられたのは、限界まで過負荷にされた赤黒い起爆魔石であった。

急速に膨張する破滅のエネルギーが、結界を破った直後の無防備なユーリの目前へと迫る。


(くそっ……間に合わない……!)


「逃げて、ユーリ!」


キャシーの悲鳴が重なり、ユーリが絶体絶命の窮地に立たされた刹那。


——キィィィィィンッ!


静寂を一瞬で切り裂く、澄み渡った神速の風切り音。

黒い閃光が宙を奔流のごとく駆け抜けた。


ユーリの目の前で、投げつけられた起爆魔石が、爆発の余波を放つ間すら与えられず、寸分違わず一刀両断された。過負荷の魔力は回路ごと切り落とされ、ただの黒い砂となって石畳へ散り落ちる。


煙が吹き払われたその場に、黒刀を引き抜いた姿で静かに佇んでいたのは、シエラであった。

背中越しにわずかに振り返り、涼やかな目元を細める。


「やれやれ、ゆっくりと昼寝もしてられんな」


「またてめぇか、しぶとい奴だな」


ガイゼルは舌打ちしたものの、その表情に焦りはなかった。すでにその手には、工房から強奪した増幅装置が収められていたからだ。


「だが、一足遅かったな」


ガイゼルは増幅装置を掲げ、獰猛な牙を剥き出しにして嗤った。


「これさえあれば、てめぇらは俺の敵じゃねぇぜ」


ガイゼルが装置へと禍々しいマナを一気に流し込む。

 だが——装置は鈍い音を立てて火花を散らしただけで、脈動するはずの増幅回路は沈黙したままだった。


「な……なんだと!? 反応しねぇ……魔力がまったく増幅されねぇぞ!? まさかこれ、ただのガラクタかッ!?」


偽物だと悟ったガイゼルの顔が、屈辱と激怒で真っ赤に染まる。


「謀りやがったな、大賢者ぁッ!!」


ガイゼルは罵声をあげて増幅装置を石畳へと叩きつけ、踏みにじって粉砕した。

 だが、その狂気に濁った瞳から凶相が消えることはなかった。むしろ追い詰められた獣のような、おぞましい笑みを浮かべて自らの胸元へと指を突き立てる。


「だが、舐めるなよ……! 外部の増幅装置に頼れねぇなら、俺自身の命脈を削り、直接マナをこの肉体へ喰らわせるまでのこと!」


ガイゼルが自らの肉体に直接、血文字で禁忌の術式を刻み込みながら、低く禍々しい詠唱を紡ぎ始めた。


「——深淵に眠る原初の脈動よ、我が血肉を糧とし、枷を食い破れ。万象を呑み干し、我が右腕にすべてを破壊する力を与えん!」


刹那、ガイゼル自身の肉体そのものが狂気の触媒となり、周囲の大気から莫大なマナを無理やり吸い上げ始めた。


ゴキン、バキバキバキッ!


骨が軋み、肉が裂ける不気味な音とともに、引きずり込まれた莫大なマナがガイゼルの右腕へと雪崩れ込み、細胞を強制的に破壊しながら異常なまでに膨張していく。血管が赤黒く浮き上がり、筋繊維が幾重にも膨れ上がって鋼鉄の巨木のごとき異形へと変貌を遂げていく。


ユーリの【眼】にははっきりと見えた。


己の寿命すら投げ打つ禁忌の秘術によって、禍々しく汚染された高濃度のマナがガイゼルの右腕の細胞一つひとつと無理やり融合し、常軌を逸した破壊の奔流を生み出しているのが。


暗黒結界から飛び出してきたメリッサたち仲間が工房広場へと合流する。しかし、先ほどの結界の衝撃と連戦により、全員が息を乱し、満身創痍であった。


「な、何なのあの力……! 道具もなしに、自らの肉体を触媒にして無理やり原初の秘術を完成させたというの!?」


大賢者であるメリッサすら、命を削って異形化を強行したその凄惨な光景に顔を引きつらせて驚愕の声をあげる。


「魔法だぁ? もう俺様の力は、魔術なんてちんけな力に頼る必要なんてねぇんだぜ!」


激痛を破壊の快楽で上書きしたガイゼルが、肥大化した異形の右手を鋭く横へとかざした。


「な、何を——!?」


「伏せなさいっ!」


咄嗟にメリッサが多重の古代防護結界を展開し、エリアナが氷の壁を重ね、ルシアンが大剣を構えて前へ出る。

だが——。


ドガァァァァァンッ!


ガイゼルがただ腕を一振りしただけで、空間そのものを圧殺するような超質量の衝撃波が放たれた。


強固な結界も氷壁もまるでガラス細工のように一瞬で粉砕され、ルシアンたち全員が豪快に吹き飛ばされて広場の石壁へと叩きつけられた。


「ぐああぁぁっ!?」


「みんなーっ!」


ユーリの叫びをかき消すように、ガイゼルの下卑た高笑いが響き渡る。


「はっはっはっはっは! 見たかっ! これが超高濃度マナの強制肉体浸食——『原初融合・暴虐の腕』だぁッ!」


ユーリは息を呑んでガイゼルの右腕を見据えた。


だが、その【眼】に映る光景に、全身の血が凍りつく。

暴走した装置から供給され続けるマナの放出量は桁外れであり、凄まじい暴風となって荒れ狂っている。触れることすら拒絶する激しい乱流となって吹き荒れており、これまでのようにつまんで剥ぎ取ろうにも、物理的に掴むことすら叶わない。


「へっ、坊主! てめぇでもこれは止められまい!」


大地を踏み鳴らし、ガイゼルが凶悪な笑みを浮かべて間合いを詰めてくる。あまりの圧力と圧倒的な破壊の気配に、ユーリの足が縫い止められたようにピタリと止まる。


その時——。


「何をしているっ! 避けろ!」


凛とした叫びとともに、横合いから飛び込んできた影がユーリの身体を強く突き飛ばした。シエラだった。

ガイゼルの放った剛腕の風圧が二人をかすめ、ユーリとシエラはもつれ合うように石畳の上を激しく転がった。


「くっ……あの勢い……マナを掴むことさえできない……!」


地面に手をつき、ユーリは悔しそうにギリッと奥歯を噛み締めた。剥ぎ取るための【手】があっても、あの暴風のような乱流の中へ手を差し伸べれば、触れる前に腕ごと消し飛ばされる。

だが、隣で素早く立ち上がったシエラが、ユーリへと力強く右手を差し伸べた。


「諦めるな。まだ手がないわけじゃない」


その涼やかな瞳には、絶望の色など微塵もなかった。かつて帝都屈指と謳われた高潔な剣士の光が、力強く宿っている。


「私が奴の暴風を切り裂き、一瞬の隙を作る。ユーリ、お主はその【手】で奴の不純物を引き剥がせ。……行けるな?」


ユーリは差し伸べられたシエラの手を力強く握り返し、立ち上がった。


「ああ。頼む、シエラ」


肩を並べる二人。王都の命運を賭けた真の最終決戦へ向け、二人の闘志が静かに、そして熱く燃え上がった。

第33話をお読みいただき、ありがとうございました!


巨竜を真っ二つにして「ポンコツ勇者」と称えられたものの、「俺、切ってないぞ?」というルシアンのまさかの一言(笑)。

しかし、暗黒結界に閉じ込められてからのルシアンの『覇道砕破』とユーリの素手剥ぎ取り「ビリリィーー……ッ!」による同時粉砕コンビネーションは最高に熱い連携でした!

増幅装置を奪われて焦るルシアンに、キャシーが「あれ偽物よ」とツッコむ場面もクスリとさせられます。


そして、ユーリの絶体絶命の危機を救ったのは、黒刀を引き抜いたシエラの一閃!

「やれやれ、ゆっくりと昼寝もしてられんな」と涼しい顔で駆けつける姿は、さすが帝都屈指の筆頭剣士です!


ガイゼルの右腕が異形の巨木と化し、触れることすら許さない超高濃度マナの暴風が吹き荒れます。


絶望的な破壊の嵐を前に、ユーリの手を取って立ち上がらせたシエラ。

「諦めるな。私が暴風を切り裂く」


次回、シエラの神速抜刀がマナの暴風を両断!

そして窮地に陥るユーリを救うため、あの敵幹部が『虚無の遮断領域』を纏って戦場に舞い降ります——!


【読者の皆様へのお願い】

もし少しでも

「ルシアンのポンコツ勇者に笑った!」

「シエラの助太刀がかっこいい!」

「二人の共闘にワクワクする!」

と思っていただけましたら、画面下部にある【☆☆☆☆☆】を**【★★★★★】**にして応援していただけると、毎日の執筆の大きな力になります!


次回は明日7時40分頃更新します。

更新と同時に読みたい方や、後から一気読みしたい方は、

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