【第31話】引き寄せられた暗影と三つ巴の決戦
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ハリスが裏ルートで流した「超古代の魔力増幅装置」の噂。
その決定打を奪うため、大賢者メリッサの工房へと帝都の暗殺部隊『漆黒の影』の全戦力が音もなく雪崩れ込みます。
飛び込んできた敵に対し、大賢者のハッタリ罠が一斉起爆!
ルシアンの豪快な大剣、エリアナの氷結聖剣、キャシーの変幻自在の忍法による総力戦が開幕します!
しかし、完全優勢に思われた戦場に、屋根を粉砕して降り立ったのは——魔剣ヴェルグレイヴに自我を侵食された、あの美貌の剣士でした。
怒涛のアクションと三つ巴の乱戦が交錯する第31話、どうぞお楽しみください!
深夜、王都グラシアの静寂を破り、大賢者メリッサの魔導工房の敷地内へ無数の黒い影が躍り出た。
帝都が誇る極秘暗殺部隊『漆黒の影』。その全精鋭が集結し、音もなく敷地を取り囲む。
彼らの視線の先、工房の中央広場に鎮座していたのは、莫大なマナの偽装光を煌々と放つ『超古代の魔力増幅装置』——メリッサが仕掛けた完璧な『張りぼて』であった。
「ハハハ! これだ! これさえ奪えば王都グラシアの防御結界など一瞬で灰燼に帰す! 奪えッ!」
刺客の頭領が狂喜の声をあげ、手練れの暗殺者たちが一斉に装置へと群がる。
その瞬間、工房の屋根の上に小柄な影が立ち上がった。
「まんまと引っかかったわね、愚か者ども! 大賢者のハッタリを舐めるんじゃないわよ!」
高らかに笑うメリッサが、パチンと小さな指を鳴らす。
次の瞬間、広場全体に仕掛けられていた無数の防衛魔導陣が一斉に起爆した。
——ドカァァァァンッ!
雷撃と爆炎が渦を巻き、群がっていた刺客たちを容赦なく吹き飛ばす。陣形を崩され、大混乱に陥る『漆黒の影』。
「いまよ! 王都を脅かす悪党どもを一網打尽にしなさい!」
メリッサの号令とともに、周囲の暗がりから重厚な甲冑の足音と刃のきらめきが押し寄せた。
ルシアン率いる衛兵騎士団と、エリアナ率いる聖騎士団による完全な挟み撃ちであった。
「衛兵騎士団の意地を見せてやる! 一人たりとも逃がすなッ!」
体内で魔力を完全循環させたルシアンが、身の丈を超える聖大剣クラドを豪快に振り抜いた。生み出された莫大な衝撃波が、刺客の集団を壁ごと吹き飛ばしていく。
ルシアンは血煙を巻き上げながら、すかさず後方のユーリへ向けて得意げに大声を張り上げた。
「ユーリ! 見ろッ! 俺のこの大剣の一閃を! お前さんの頼れるバディとして、恥じぬ戦いぶりだろう!?」
「過保護な忠犬が調子に乗るんじゃないわよ!」
即座に突っ込んだのはキャシーだ。忍法で三重の分身を生み出し、疾風のごとき足さばきで刺客たちの急手を正確に撃ち抜いていく。キャシーもまた、ユーリへ向かって自信満々に胸を張った。
「ユーリ! 私の忍術の方がすごいでしょ! どんな敵が来ても、あなたのボディーガードは私なんだからね!」
さらに、その横から猛烈な氷の冷気を纏ったエリアナが割って入った。
「おふたりとも公私混同がすぎますわ! ユーリ様、ご覧あそばせ! 私の冷徹かつ可憐なる聖騎士の舞を……! この戦いが終わりましたら、ぜひとも私のお屋敷にて祝勝会という名の結納を——!」
エリアナが氷の聖剣を一閃させると、数十人の刺客が一瞬で可憐な氷柱へと変わり、打ち砕かれた。
「ははは、みんな余裕だね」
ユーリは仲間の戦いっぷりにひきつった笑いを浮かべる。
あまりにも圧倒的な戦力と完璧な奇襲。
『漆黒の影』の刺客たちは見る影もなく追い詰められ、誰の目から見ても「このまま完全に殲滅できる」と思えるほどの圧倒的優勢であった。
だが——。
ズガァァァァァンッ!
戦闘の熱気が最高潮に達したその瞬間、工房の巨大な屋根が異様な衝撃音とともに内側から豪快に破砕された。
飛散する瓦礫と土煙を突き破り、中央広場の石畳へと凄まじい質量が落降する。
——ドォッ!
「……なっ!?」
ルシアンが息を呑み、エリアナの動きが止まる。
立ちこめる黒煙の中から現れたのは、全身からドロドロとした【黒紫色のマナの不順物】を不気味なノイズとともに撒き散らす人物——シエラであった。
だが、その姿は以前交戦した時とは比べものにならないほど痛ましく、そして凶悪に変貌していた。
『魔剣ヴェルグレイヴ』から溢れ出す呪いの不順物が、彼女の右腕を完全に侵蝕している。黒紫色の不気味な皮膚が腕から肩、そして首筋や顔面にまで物理的にへばりつき、まるで右腕そのものが長剣と不気味と同化・固着しかけていた。
深編み笠の陰から覗く瞳は真っ赤に血走り、苦悶のあまり血の涙を流している。
「……殺……せ……壊……せ……ッ!」
人間としての言葉すら失いかけた凄絶な叫び。
次の瞬間、シエラを中心に禍々しい衝撃波が弾けた。
——キィィィィィンッ!
一瞬だった。
神速を超える連撃居合が嵐となって広場を吹き荒れる。
「ぐああぁぁぁっ!?」
「ひ、ひぃぃっ! なんだこのバケモノは——!?」
逃げ場を失っていた『漆黒の影』の残党たちが、敵味方の区別なく一瞬で数十人規模で弾き飛ばされ、悲鳴をあげて倒れていく。
「あ、あれがシエラ……か」
ユーリは今の状況を忘れ、足を止める。
先日あった時の、気高き雰囲気をまとった女性剣士は、そこにはいなかった。
「魔剣の力が身体の半分を覆っている……あれでは、もう」
足元から崩れ落ちそうな所に、ルシアンの大声が耳に入る。
「全員、下がれぇぇッ!」
ルシアンが大剣クラドを構えて割り込むが、シエラが放つ異常な質量の斬撃を受け止めた瞬間、メリメリと腕の骨が鳴るほどの重圧に押し込まれた。
「くっ……なんという強さだ……!? 以前とは圧力が違いすぎる!」
「氷結の陣、展開——くっ!?」
エリアナが放った極大の氷結魔導も、シエラの刀身から放たれる黒紫色のノイズによって強引に破砕され、エリアナ自身も衝撃波を受けて石畳を滑るように後退させられた。
ほんの一瞬前まで完全な優勢を保っていた戦場が、たった一人の暴走によって瞬く間に絶望的な窮地へとひっくり返されたのだ。
「……滅……せよ……っ!」
赤く光る瞳が、広場の後方に立つユーリを完璧に捉えた。
シエラの身体が地を蹴り、無防備なユーリに向けて一直線に突進してくる。
「ユーリには——行かせんッ!」
膝をつきかけたルシアンが、歯を食いしばって立ち上がった。血を吐きながら大剣クラドを横一文字に振るい、シエラの突進軌道を強引に削りとる。
「ユーリ様の未来を……ここで途絶えさせはいたしませんわ!」
エリアナが己の身を挺して氷の盾を展開し、シエラの凶刃を正面から受け止める。甲冑が弾け、鮮血が舞う。
「ユーリ! 行ってーーーッ!」
キャシーが命がけの身代わりの術でシエラの視界を乱し、わずかな間隙を作り出した。
仲間たちがボロボロになりながらも体を張り、作ってくれたたったひとつの道。
そうだ、ここで足を止めるわけにはいかない。
ユーリはポケットの中のリタの魔石を強く握りしめ、前へと踏み出した。
ユーリの【眼】には、シエラの右腕と魔剣ヴェルグレイヴを固着させている、太く醜い黒紫色のマナの不純物が、はっきりと見えていた。
物理運動の圧倒的な速度差、吹き荒れる狂気のノイズ。
だが、過去の屋上での後悔と、仲間たちの想いを背負ったユーリの足が一歩たりとも怯むことはない。
ユーリの両手が、右腕と同化しかけている醜い不純物目掛けて、まっすぐに伸びる——!
第31話をお読みいただき、ありがとうございました!
前半はメリッサの知略ハッタリが見事に決まり、ルシアン、キャシー、エリアナの無双劇!
激戦の最中にもかかわらず、「俺の活躍を見ろ!」「私の忍術の方がすごいでしょ!」「私と結婚を……!」とユーリへ猛烈にアピール合戦を繰り広げる仲間たちには思わず笑ってしまいますね。
しかし、後半は一転して絶望の窮地へ……!
右腕と魔剣が一体化し、人ならざる狂気の力を放つシエラの圧倒的な乱入。
一瞬で戦場がひっくり返る中、仲間たちが血を流し、身を挺してユーリのために切り開いた「一本の道」。
ユーリの伸ばす手が、シエラを蝕む黒紫色の不純物へと迫ります!
次回、ついに魔剣ヴェルグレイヴへの物理剥ぎ取りが炸裂!
**「ビリリィーー……ッ!」**の強烈な剥離音とともに、シエラを呪縛から解き放てるのか!?
そして追い詰められた敵頭領ガイゼルが繰り出す、次なる凶悪な切り札とは——!?
【読者の皆様へのお願い】
もし少しでも
「仲間たちのアピール合戦に笑った!」
「シエラの乱入にゾクッとした!」
「ユーリの突撃が熱すぎる!」
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