【第28話】刀身の修正と過保護な忠犬
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廃屋街で暴走しかけるシエラと対峙したユーリとキャシー。
帝都屈指の神速居合を前に、剥ぎ取るための間合いにすら入れず、丸腰のユーリへ絶命の刃が迫ります!
この絶体絶命の危機に、壁を粉砕して現れたのは……覚醒を経たあの頼れるバディ!
帝都一の剣技vs王都の衛兵騎士団長の激突、そして事件の裏で暗躍する不気味な影とは——!?
熱いバトルと知略サスペンスが交錯する第28話、どうぞお楽しみください!
「……つっ……! ぐ、ぁぁぁっ……!」
頭上から振り下ろされかけた閃光のような刃が、ユーリの首筋一寸手前で不自然に静止した。
シエラは全身を激しく震わせ、左手で自らの頭部を強く抱え込んで絶叫に近い呻き声をあげている。
ユーリはその一瞬の硬直を逃さず、【眼】の焦点を極限まで絞り込んでシエラの全身を凝視した。
ユーリの視界に映し出されたのは、あまりにも凄惨で異様な光景だった。
シエラの右腕から彼女の持つ刀身にかけて、まるで生き生きとした寄生虫のようにへばりつく【黒紫色のマナの不純物】。
ドロドロとした醜いノイズが、彼女の神経や脳へと直接浸食し、元々の高潔な人格を殺戮衝動で強引に塗りつぶそうと蠢いている。
(あの刀身から放たれる不純物が……彼女の意識を狂わせているんだ。自分を失うまいと必死に抵抗している……!)
二人を巻き込みたくないと叫ぶシエラ自身の真の意志と、魔剣から溢れ出す狂気的な破壊衝動。
二つの存在が、彼女の肉体の中で激しく衝突していた。
だが——。
「……ガ、ァァアアアッ!」
刀身を包む黒紫色のノイズが急激に濃さを増し、シエラの苦悶の叫びが突如として不自然に途切れた。
深編み笠の陰から覗く瞳から光が消え、血のように禍々しい赤色の残光が宿る。
自我が魔剣の不純物に完全に呑み込まれ、完璧な「殺戮マシーン」へと変貌を遂げてしまったのだ。
シエラの足元が石畳を揺らした。音もなく間合いを詰め、無防備なユーリの首元に向けて神速の居合が放たれる——!
直撃すれば一瞬で両断される絶体絶命の刹那。
——ズガァァァァンッ!
廃路地の横手にある石造りの壁が、暴風のような衝撃とともに豪快に粉砕された。
飛散する石屑と土煙を突き破り、膨大な魔力を全身から滾らせた影が乱入する。
「見つけたぜぇ! 辻斬りさんよ!」
雷鳴のごとき叫びとともに叩きつけられたのは、身の丈を超える無骨な身の聖大剣クラド!
——キィィィィィンッ!
廃屋街全体を激震させるほどの澄んだ金属音が鳴り響いた。シエラが放った絶対の初太刀が、強大な剛力によって正面から叩き折るように完璧に破砕される。
吹き荒れる衝撃波の中、ユーリの前に仁王立ちとなったのは、衛兵騎士団長ルシアンだった。
かつて魔剣の補助回路に依存していた己の脆弱さをユーリに打ち砕かれ、自らの体内で魔力を完全循環させる真の強さに覚醒した男。
ルシアンは大剣クラドを肩に担ぎ、鋭い眼光で刺客を睨みつけた。
「気を付けろっ、ルシアン! 奴は帝都の筆頭騎士だ!」
後ろから飛ばされたユーリの切迫した忠告に、ルシアンはニヤリと口角を上げた。
「帝都の筆頭騎士か何か知らんが、ユーリたちに刃を向ける者は誰であろうと容赦せん!」
シエラの赤く光る瞳が不気味に蠢き、一瞬にして踏み込みの姿勢をとる。言葉の途切れた瞬間、すでに彼女の身体は消えていた。
——シュィィンッ!
一瞬にしてルシアンの死角へと回り込み、閃光と化した三連撃の居合が襲いかかる。
「甘い!」
ルシアンは大剣クラドの巨躯をまるで羽毛のように軽々と振り回した。
体内で完全循環させた莫大な魔力を全身の筋肉に爆発させ、巨大な刀身の腹を正確に合わせる。
ガガガギィンッ!
目にも留まらぬ速度で放たれた神速の連撃が、すべて大剣クラドの腹によって完璧に叩き弾かれた。熟練の武人にとって、飛来する刃や弾丸を剣の腹で受け流し弾くのは当然の技術。
覚醒したルシアンの動体視力と反応速度は、帝都屈指の剣技すら完全に見切っていた。
「ぬんっ!」
弾かれたシエラの体勢がわずかに崩れた瞬間、ルシアンは一歩踏み込み、大剣の柄頭でシエラの胸元へ強烈な打撃を打ち込んだ。
ドンッ!
「……ぐ、ぁっ!?」
空気が弾けるような衝撃に、シエラの華奢な身体が石畳を削りながら数メートル後方へと滑り込む。
「これで終わりだ!」
追撃の手を緩めず大剣を振りかざすルシアン。だが、その頭上で再びシエラの不純物が黒紫色の光を強く明滅させた。
「……くっ……これ以上は……っ!」
激しい頭痛が再びシエラの肉体を襲う。
魔剣の侵食とルシアンの圧撃により、肉体の許容量を超えたシエラは胸を強く押さえ、苦悶の声を漏らしながら足元へ魔術的な煙幕を叩きつけた。
——ポンッ!
「まるで魔物と戦ってるみたいだったな」
濃厚な黒煙が路地裏を一瞬で包み込む。
煙が晴れた時には、シエラの姿はすでに屋根の上へと消え去っていた。
敵の気配が完全に途絶えたことを確認すると、ルシアンは即座に大剣クラドを背中の鞘へと納めた。
そして凄まじい勢いでユーリのもとへ駆け寄ってくる。
「ユーリ! 怪我はないか!? どこか痛むところはないか!? あいつにおかしな真似をされなかったか!?」
ガシガシとユーリの肩や腕を掴み、全身を擦り傷ひとつ見落とすまいと過剰なまでの検分を始めるルシアン。
「落ち着け、ルシアン。怪我はない」
「まったく……過保護なんだから……」
呆れ顔で息を吐くキャシーの横で、ユーリは呼吸を整えながらルシアンに問いかけた。
「それにしても絶妙のタイミングで助けに来てくれたな」
ルシアンは胸を張り、得意げに鼻を鳴らした。
「ああ、タレコミがあったんだ。廃屋街でユーリ達が危険だって。ハリス店長がな」
ルシアンのその言葉に、ユーリは無言で息を飲んだ。
先ほど自分たちが「なんとなく」と関わりを避けたタートル清掃会社のハリス店長。
彼はユーリたちの足取りを完全に把握した上で、裏から完璧なタイミングで助け舟を出してきたのだ。
表向きは苦労人の店長を装いながら、裏では魔導商都グランデールの街の動向を掌握しているハリスの底知れぬ手腕。
助けられた事実への感謝以上に、ユーリは人知れず奥歯を強く噛み締めた。
「ユーリ、どうしたんだ?」
「……いや、なんでもない」
ユーリは意識を切り替え、シエラが逃走した屋根の上へと視線を向けた。
「それよりルシアン。あの剣士は辻斬りなんかじゃない。彼女自身が……あの剣が放つ『マナの不純物』に操られている被害者だ」
「何だと……!?」
「彼女は『漆黒の影』の暴挙を止めるために動いていたが、持っている剣の不純物に精神を侵食されている。……助け出さなきゃならない」
ユーリの言葉に、ルシアンとキャシーは真剣な面持ちで頷いた。
第28話をお読みいただき、ありがとうございました!
壁を豪快に叩き破って参戦したルシアン!
かつて魔剣の補助回路に依存していた己を捨て、体内で魔力を完全循環させた彼の剛力は、帝都屈指と謳われたシエラの神速居合すら大剣の腹で完璧に叩き弾いてみせました。さすがは頼れる忠犬バディです!
戦闘後の過保護すぎる検分には思わずクスリとさせられますが……見逃せないのはハリス店長の存在。
関わりを避けようとしていたユーリたちの動向を完全に把握し、完璧なタイミングで助け舟を出してくるスパイの手腕に、ユーリも人知れず奥歯を噛み締めました。
シエラ自身が魔剣の不純物に操られている被害者だと看破したユーリ。
果たして彼女を救い出し、街を守る手立てはあるのか——?
次回、舞台は翌朝の『酔っ払い亭』へ!
敵の狙いが「都市全域のインフラ壊滅」と判明し、頭を抱える一同に対し、キャシーの閃きと大賢者メリッサの知略が炸裂!
「超古代の魔力増幅装置」を巡る、痛快な囮作戦が動き出します!
【読者の皆様へのお願い】
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「ルシアンの乱入がかっこいい!」
「過保護な忠犬っぷりに笑った!」
「サスペンスの続きが気になる!」
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