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【第27話】闇夜の遭遇

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


前回、圧倒的な神速の剣技でユーリたちを救い、颯爽と姿を消した謎の女剣士シエラ。

無事に帰宅したユーリのもとへ、通信魔道具『マギストーン』を通じてリタから極秘の警告が届きます。


帝都の極秘暗殺部隊『漆黒の影』、そしてシエラが背負う危険な影とは——?

お馴染みの魔道具屋での賑やかな一幕から一転、静まり返る廃屋街で息詰まる遭遇が幕を開けます!


第27話もどうぞお楽しみください!

 駆け込んできた聖騎士たちの手によって、救護活動が迅速に行われた。

 倒れていた少女の父親は腹部を切られて重傷を負っていたものの、幸いにも命に別状はないと判明し、少女は心底安堵した様子で涙を流し、ユーリへ何度も頭を下げて感謝を伝えていた。


「ユ、ユーリ様の手肌にこのような傷を負わせるなど万死に値しますわ! 今すぐ私めが包帯となり、永久にユーリ様の腕に巻き付いてお守りいたします……っ!」


 ユーリの腕の浅い掠り傷を見つけるなり、エリアナは血相を変えて詰め寄ってきた。


「かすり傷ひとつで大袈裟なのよ! 過保護な粘着騎士ね!」


「ね、粘着って。 人を絆創膏のように! あのね、ユーリ様はあなたのように唾つけて治るような雑な体ではありませんわ」


「雑って何よ!超回復力って言ってほしいわ」


「ほっほっほ。自慢の回復力ではおつむの悪さまで回復してくれないのが残念ですわ」


「それはあんたも同じでしょ!」


「なんですってーーー!」


「はぁ、やっぱりこうなるんだよな」


 ため息をつきながら簡単な手当てを済ませたユーリは、騒がしい現場をあとにして『酔っ払い亭』へと戻った。




 自室に戻り、一人になったユーリが服を脱ぎかけようとしたその時、ポケットの中に忍ばせていた通信魔道具『マギストーン』が、仄かな赤い光を帯びて微細に震え出した。

 表面のくぼみを軽く押すと、石からリタの艶やかで落ち着いた声が密やかに響く。


『無事でよかったわ、ユーリ。街での騒ぎを聞いて心配していたのよ』


「リタか。まるでこちらの動きが見えているみたいだな」


『ふふ、私って結構できる女なのよ。それより、あなたが直面した事件について情報が入ったわ。王都を脅かしているあの襲撃部隊の正体は、帝都の極秘暗殺部隊——『漆黒の影』よ。ちなみに部隊長はガイゼル。また面倒なやつが出てきたものね』


「漆黒の影とガイゼル……」


『ええ。そして、途中で割り込んできたフードの女剣士の名は『シエラ』。彼女は元・帝都の筆頭剣士よ。ただ……シエラがなぜ単独でそんな危険な行動をとっているのか、私にも理解できないわ』


 マギストーンの向こうで、リタが微かに不審そうな吐息を漏らす。


『それとこれは、確定の情報じゃないんだけど。ターゲットとして魔道具屋『アレン魔導工房』を狙ってくると思うわ』


 リタは最後に『気を付けてね』と告げると、通信は静かに切れた。ユーリはマギストーンを握りしめ、明日訪れるべき場所を心に決めた。




 翌日。ユーリとキャシーは、街の路地裏に店を構える『アレン魔導工房』を訪れた。

 木製の扉を押して店内に足を一歩踏み入れると、カウンターの奥から元気な声が飛び出してきた。


「ようこそいらっしゃいませ! って、あれ? ユーリおにーちゃん買い物?」


 出迎えてくれたのは、店を切り盛りする少女、リリィだった。

 ユーリはメリッサから頼まれるお使いで時々魔道具のパーツを買いに来ており、キャシーもバイマンの使いで料理を届けに訪れる間柄だった。


「ごめんね、今日はアップルパイ持ってきてないの。今度特製の巨大アップルパイ持ってくるからね」


「やったーー! そういえばユーリたち二人して何しに来たの? あっ! わかったー!! デートってやつでしょ!」


 リリィがニシシと無邪気に笑うと、キャシーが頬に手を当てて乗っかった。


「きゃー! リリィちゃんよく知ってるわね! そうなの、この商店街でこの噂いっぱい流してね。このまま外堀を固める作戦もなかなか有用だと思うの」


「お、おい、キャシー。リリィが本気にするからやめろよ」


「何言っているのよ。私はいつでも本気よ。婚姻届だっていつもポケットに入っているんだから」


「な、何の話をしているんだ?」


 ユーリが首を傾げていると、店の奥の引き戸が開き、精悍な顔立ちだがどことなく疲れた表情を浮かべた男が現れた。工房の主、アレンだ。


「やぁ、ユーリ。娘がうるさくてすまんね」


「うるさくありません! これは『せったい』というのです」


「わかった、わかった。ついでにみんなの分のお茶も頼めるかな。昨日食べたいと言っていたオレンジジャムのクッキーを添えてくれると嬉しいよ」


「わかったーー!」


 リリィは元気いっぱいに返事をすると、ダッシュで店の奥へと走っていった。

 アレンは苦笑しながらユーリたちを椅子へ促し、温かいお茶を煎れてくれた。


「それで? 約束のパーツを取りに来るのは来週だろう? 今日はどうしたんだい?」


「実は……」


 ユーリは静かな口調で、最近王都で起きている怪しい集団による魔道具屋や優秀な技術者への襲撃事件について話した。


「ははは、私の店を優秀な魔道具リストに入れてくれるのは嬉しいが、こんな小さい店多分襲ってこないよ」


「アレンさん、あなたの腕は街中の人が知っています。とても危険な連中なんです」


「ああ、ありがとう。別にお茶を濁すつもりはなかったんだが。特に思い当たる節は……」


 アレンが困り顔で首をひねっていたところへ、お皿に乗ったクッキーとお茶を運んできたリリィが口を挟んだ。


「『あやしいしゅうだん』はわからないけれど、逃げるように言ってきたキレイなおねーちゃんの事じゃない?」


 その言葉に、ユーリとキャシーは顔を見合わせた。


「キレイなお姉さん?」


「うん。昨日の夕方ごろに来てね、急に『ここは危険だ、すぐに店を閉めて街を出ろ』って言ってきたの。背中にね、真っ黒な細身の長剣を差していたよ」


 間違いない。昨晩ユーリ達を助けてくれた『シエラ』の特徴と完全に一致している。


「彼女だったら、確か廃屋街の方へ向かったよ。何かを探しているみたいだったな」


 アレンから貴重な足取りを得たユーリたちは、礼を言って店をあとにした。




 アレン魔導工房を出て、二人はシエラが向かったという旧市街の廃屋街へと足を向ける。道中、キャシーが提案するようにユーリの顔を見上げた。


「清掃業者のハリス店長に聞くのはどう?」


「できれば極力ハリスにはかかわりたくないんだ」


「どうして?」


「んーー……なんとなく」


「じゃあしょうがないね」


「ゴメン」


 ハリスの底知れなさを、ユーリは本能的な直感で察知していた。理由を深追いせず納得してくれるキャシーに感謝しつつ、二人は静まり返った廃屋街の路地へと足を踏み入れた。


 打ち捨てられた石造りの建物が立ち並び、日差しすら届かない廃路地の奥。

 急激に周囲の空気が重く沈み込み、冷ややかな緊張感が肌を刺した。

 路地の突き当たり、崩れた日よけの影から、深編み笠とフードを目深にかぶった女性——シエラが姿を現す。


 だが、昨夜ユーリたちを救った時の凛とした気配とは一変していた。今の彼女は全身から禍々しい威圧感を垂れ流している。


 ユーリの【眼】が捉えたのは、彼女が手に握る刀身にへばりつく、ドロリとした黒紫色の【マナの不順物】だった。

 生き物のように蠢くノイズが、彼女の手首から腕へと不気味に侵蝕している。


「……消えろ」


 感情の失われた冷酷な声とともに、シエラが刀を抜いた。


 ——キィンッ!


 空気を切り裂く澄んだ高音が響いた瞬間、激しい衝撃波が弾けた。


「くっ……!?」


 キャシーが間一髪でクナイを交差させて受け止めるが、神速の居合が放つ圧倒的な質量の前に、石畳を削りながら数メートルも後方へと弾き飛ばされる。

 その手からクナイがガラガラと零れ落ちた。


「キャシー!」


 刀身にへばりつく黒紫色のマナを剥ぎ取らなければ、彼女の異常は止まらない。

 ユーリは果敢に踏み込み、シエラの刀身へ向けて素手を伸ばした。こびりついたマナの端を捉え、一気に引き剥がすために肉薄する。


 だが——相手は帝都1・2を争うと言われた至高の剣士。

 シエラの身体軌道は常人の動体視力を遥かに超えていた。ユーリが手を伸ばすよりも早く、風を置き去りにするような脚さばきで間合いを外され、逆に無防備な懐へと冷酷な切っ先が潜り込んでくる。


(速すぎる……っ! 手を伸ばす隙すら作れない……!)


 物理的な運動速度の圧倒的な差。剥ぎ取るための【手】があっても、相手の間合いに触れさせることすら許されない絶望的な現実。


 一瞬で背後に回られ、キャシーを庇う位置に立ったユーリの背中へ、シエラの銀光が容赦なく振り下ろされる——丸腰のユーリには、それを防ぐ術など存在しない。

 絶体絶命の刹那。


「……つっ……! ぐ、ぁぁぁっ……!」


 頭上から振り下ろされかけた刃が、直前でピタリと動きを止めた。

 シエラが突如として激しい頭痛に耐えるように刀を振り払い、左手で頭を強く抱え込んで苦悶の声を漏らす。

 全身を震わせ、赤く血走った瞳から涙を零しながら、シエラは絶叫に近い掠れた声を絞り出した。


「……引け……っ! 頼む……逃げなさい……! 私は……巻き込みたくない……っ!」


 刀を振り下ろそうとする狂気的な破壊衝動と、目の前の二人を殺させまいと死に物狂いで抗う彼女自身の自我。


 その凄絶な葛藤と、刀身から溢れ出る黒紫色のマナのノイズを前に、ユーリとキャシーは息を呑んで立ちすくむのだった。



第27話をお読みいただき、ありがとうございました!


アレン魔導工房でのリリィちゃんとの可愛らしいやり取りや、キャシーの「婚姻届はポケットに入っている」宣言など、前半の微笑ましい日常から一変……!


後半の廃屋街では、帝都屈指の神速を誇るシエラとの息を呑む死闘へ突入しました。


ユーリの【手】をもってしても、あまりの圧倒的なスピード差に触れることすら許されない絶望的な現実。

しかし、刃を振り下ろそうとする破壊衝動に抗い、涙を流しながら「引きなさい……巻き込みたくない……!」と絶叫するシエラ。

彼女自身が魔剣の呪いに蝕まれている被害者であることが浮き彫りになりました。


丸腰のユーリと倒れたキャシー、そして暴走しかけるシエラ。

この絶体絶命の窮地に、あの頼れるバディが壁を粉砕して駆けつけます——!


【読者の皆様へのお願い】

もし少しでも

「アレン工房のやり取りが和んだ!」

「シエラの苦悶とサスペンスに引き込まれる!」

「次回の激突が待ちきれない!」

と思っていただけましたら、画面下部にある【☆☆☆☆☆】を**【★★★★★】**にして応援していただけると、毎日の執筆の大きな力になります!


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次回は明日18時40分頃更新します。

更新と同時に読みたい方や、後から一気読みしたい方は、

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