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【第26話】破られた結界と不退転の誓い

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


絶体絶命の窮地に立たされた職人の少女。

合理的な判断を振り捨て、ユーリは迷わず強固な防御結界へと駆け出しました。


魔力も持たず、戦闘技能もないはずの少年が魅せる、世界の理を覆す力。

そして、命がけで戦うキャシーの前に現れる、夜闇を切り裂く一閃の刃とは——!?


第2章の熱いカタルシスが炸裂する第26話、どうぞお楽しみください!

「無駄よ、ユーリ! そんな強力な結界、絶対に破れないわ!」


 背後から響くキャシーの悲痛な叫びを置き去りにし、ユーリは全速力で石畳を蹴り抜けた。

 結界の内部では、冷酷な光を宿す刃が、蹲る少女の細い首筋へと容赦なく振り下ろされようとしている。


 思考を巡らせる暇などない。ユーリの【眼】には、半透明の膜の表面にべったりとへばりつく、ドロリとした【紫色の不純物】が鮮明に映り込んでいた。

 世界の理を歪め、空間を遮断する禍々しいマナの澱み。


 ユーリは勢いそのままに結界へ肉薄し、剥き出しの両手を伸ばして紫色の澱みの端を素手で鷲掴みにした。

 指先に伝わるのは、頑丈な壁に強固に張り付いた強力なテープの端を捉えたような、生々しく硬質な抵抗感。

 全身の筋肉を軋ませ、体重のすべてを後ろへ預けながら、ユーリは喉が裂けんばかりに吼えた。


「間に合えっーーーー!」


 強引に、力任せに、世界の歪みを引き剥がす。


 ——ビリリィーー……ッ!


 空間そのものが引き裂かれるような凄まじい剥離音が、夜の静寂を粉砕した。

 何者にも侵されないはずの特級防御結界が、まるで乾燥して破れた薄紙のように一瞬で粉微塵となって霧散する。


「なっ……結界が素手で消されただと!?」


 刺客の動揺を突くように、ユーリは滑り込みざまに少女の前に己の身体を割り込ませた。

 振り下ろされた刃の切っ先を腕を張って強引に外側へと弾き飛ばす。鋭利な鉄が衣服を裂き、浅い傷口から血が滲んだが、ユーリの足は一歩たりとも退かなかった。


 転生する前、屋上で立ちすくんでいた無力な日々の記憶が胸を灼く。

 手を差し伸べることすらできなかったあの惨めな悔恨。


(もう二度と、見過ごすものか……! 戦う術を持たない者を、この街の住人を……体を張ってでも絶対に守り抜く!)


 不退転の誓いが、ユーリの魂を芯から支えていた。


「お……お兄ちゃん……」


 恐怖に涙を浮かべ、すがるように見上げてくる少女。

 そこへ、風を切り裂く足音とともにキャシーが追いついた。


「余計なところにしゃしゃり出てきやがって! 正義のヒーロー気取りか?」


 刺客は持っていた剣を大きく振り上げて、ユーリへと 狙いを定める。


「あの世で仲良くごっこ遊びでもしていろ!」


 ユーリは、少女をしっかりと抱きしめる。


(もう逃げない……逃げないって決めたんだ!)


 ガキィィィィンッ!


 いつの間に現れたのか、キャシーが刺客が振り下ろした剣をはじき飛ばしていた。

 キャシーは背中越しにこちらを見下ろしながら、怒った表情を作っている。


「まったく、分からず屋! あれほど危ないって言ったのに!」


「ご、ごめん。でもどうしても……」


 ユーリが庇い続ける少女の怯えた瞳を見て、キャシーは怒り顔から一転、どこか誇らしげな苦笑を浮かべて微笑んだ。


「分かっているわよ、ユーリが見過ごせない人だってことは」


「キャシー……ありがとう」


「お礼なんていらないわっ。何せ私はあなたのボディーガードなんですからね!」


 飛び退いた刺客たちが即座に銃口を向け、一斉に弾丸を撃ち放つ。

 だが、キャシーの動きは常人の域を遥かに凌駕していた。

 ヒョウの獣人特有のしなやかな跳躍で弾道をすり抜け、両手から無数のクナイを投擲する。


「寄ってたかって無粋な奴らねっ。我が忍術の極意を、とくと見せてあげるわっ!」


 キャシーの指先が複雑な印を結ぶ。


「忍法——影分身・乱れ爪!」


 石畳を蹴ったキャシーの姿が一瞬で三重の残像へと分裂した。

 鋭い鉤爪に風の魔力を纏わせ、先頭の刺客二人へ疾風の如く肉薄する。


 ガキンッと鋼を切り裂く鋭利な音が響き、刺客たちの分厚い胸当てが一撃で両断され、巨体が吹き飛んだ。

 さらに背後から斬りかかってきた刺客の長剣を、キャシーは身を沈めて回避しつつ、足払いで体勢を崩す。


「遅いっ!」


 空中で一回転しながら放たれた鋭い踵落としが刺客の顎を正確に捉え、石畳へと叩き伏せる。煙幕弾を足元に叩きつけて視界を奪い、闇の中から放たれる電光石火の連撃で瞬く間に四人の手練れを戦闘不能へと追い込んでみせた。


「ふふん、見たか私の実力を!」


 だが、相手は訓練された部隊であった。

 煙幕が晴れると、倒れた仲間を踏み越えるように、さらなる黒装束の集団が無言で包囲網を再構築する。

 一切の感情を排した冷徹な連係で、長槍と暗器を隙間なく繰り出し、キャシーの退路を瞬時に塞ぎにかかった。

 鋭い刃がキャシーの衣服をかすめ、防戦一方へと追い込まれていく。


「くっ……! こ、これは本当にヤバいわね……」


 額に脂汗を浮かべ、肩で息をするキャシーは、背後にいるユーリと少女を振り返った。そして意を決したように、鋭く指示を飛ばす。


「私が合図したら、来た道を二人で走って!」


「で、でもおねーちゃん……」


 少女が涙目でキャシーの袖を掴む。キャシーは無理に満面の笑みを作り、ポンと少女の頭に手を置いた。


「大丈夫! おねーちゃんは強いんだから!」


 そして真剣な、一切の妥協のない眼差しでユーリを真正面から見据えた。


「分かっているわね。全力で走ってエリアナを呼んできて!」


「キャ、キャシー……」


「そんな顔しなさんな。さっきも言ったけど、キャシーちゃんはめちゃくちゃ強いんだから!」


 キャシーが再び身を挺して敵の包囲を受け止める瞬間、ユーリは少女の手を引いて駆け出した。

 少女を路地裏の出口、聖騎士団の篝火が見える大通りの手前まで送り届けると、ユーリは迷うことなく踵を返した。

 少女は無事に逃げ切れる。だが、あの場に残ったキャシーは——確実に限界を迎える。


(見捨てるわけがないだろう……!)


 路地裏の奥では、刺客たちの波状攻撃に耐えかねたキャシーの武器が弾き飛ばされ、膝をついていた。冷酷な刺客の刃が、無防備なキャシーの喉元へと迫る絶体絶命の瞬間。


「剥がれろーーーーッ!」


 駆け戻ったユーリが猛烈な勢いで飛び込み、刺客の武器に施されていた強化回路のマナの不純物を素手で力任せに掴んでむしり取った。


 ——ビリリィーーッ!


 マナの供給を断たれた武器が一瞬だけ硬直する。


「ユーリ!? なんで戻ってきたのよバカーーッ!」


「ボディーガードを見捨てる依頼人がどこにいる!」


 だが、訓練された敵は怯まない。別の刺客が即座に踏み込み、無防備なユーリとキャシーの二人をまとめて両断すべく、冷酷な切っ先を振り下ろした。

 もはやユーリにもキャシーにも、それを防ぐ術は残されていない。


 その刹那——。


 夜空の静寂を一刀両断する、圧倒的な神速の風切り音が鳴り響いた。


 キィィィィィンッ!


 甲高い澄んだ金属音とともに、振り下ろされていた刺客たちの刀剣が、根元から一瞬にして粉々に砕け散った。

 目にも留まらぬ超絶的な衝撃波が路地裏を吹き抜け、取り囲んでいた刺客たちが一斉に壁際へと吹き飛ばされる。


 舞い散る火花と土煙の中、ユーリとキャシーの目の前に、ひとりの女性剣士が立っていた。

 深編み笠とフードを目深にかぶり、黒色の長い刀身を静かに鞘へと納めるその背中。

 女性剣士は肩越しにわずかに視線を向け、凛とした声で呟いた。


「勝ち目のない戦いに自ら身を投げ出す……お前も少年を注意できんぞ」


 起き上がった敵の刺客たちが、その姿を認めて戦慄の声をあげる。


「ま、また貴様かッ! どこまでも我らの邪魔を……!」


「いけません、ガイゼル隊長! 衛兵の警笛が近づいています! 撤退を!」


 遠くから響く聖騎士団の呼子と重厚な足音を察知し、刺客たちは煙のように闇の中へと姿を消していった。

 静まり返った路地裏で、キャシーが呆然と口を開く。


「あなたは……?」


 女性剣士はゆっくりと振り返り、深編み笠の下から冴え冴えとした涼やかな瞳を覗かせた。


「私はシエラ。……人に無謀と言われるお主たちの行動、私は嫌いではないよ」


 シエラと名乗った女剣士は、ユーリの傷口を一瞥すると、音もなく屋根の上へと跳躍し、夜の闇の彼方へと消え去っていった。


 駆け込んできたエリアナたちの声が響く中、ユーリはポケットの中の『マギストーン』が微かに熱を帯びているのを感じていた。

 理不尽な悪意と、それを追う孤高の刃。魔導商都グランデールの街を揺るがす真の戦いが、いま幕を開けようとしていた。

第26話をお読みいただき、ありがとうございました!


何者にも破れないはずの特級結界を、素手で力任せに「ビリリィーー……ッ!」と剥ぎ取ってしまうユーリの規格外の異能!

そして、かつて手を伸ばせなかった悔恨を乗り越え、自らの身を挺して少女を庇うユーリの不退転の誓いが胸を熱くさせます。


キャシーの怒涛の忍術アクション、そして絶体絶命の危機に駆け戻ったユーリを救ったのは……深編み笠の女剣士『シエラ』の圧倒的な神速居合でした!


「私はシエラ。……人に無謀と言われるお主たちの行動、私は嫌いではないよ」


鮮烈な名乗りを残して夜の闇へ消えたシエラ。

彼女がなぜ単独で動いているのか、そして手にする剣に宿る不穏な気配とは……?


次回、手元の『マギストーン』が仄かに震え、リタから重大な極秘情報がもたらされます!

そしてシエラの足取りを追うユーリたちですが……?


【読者の皆様へのお願い】

もし少しでも

「結界の剥ぎ取りがスカッとした!」

「ユーリの覚悟とキャシーの奮闘が熱い!」

「シエラがかっこいい!」

と思っていただけましたら、画面下部にある【☆☆☆☆☆】を**【★★★★★】**にして応援していただけると、毎日の執筆の大きな励みになります!


ブックマーク登録や「いいね」も大歓迎です。

次回は本日19時10分頃更新します。

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