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【第25話】夜の静寂と獣の直感

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


事件の共通点を暴き、独自に工房街の捜査へと乗り出したユーリとキャシー。

頼もしいボディーガードを自負するキャシーですが、潜入の場面でお約束のアレが発動してしまいます……!


そして訪れる夜の静寂。

獣人特有の鋭い感覚が捉えた「血の匂い」の先で、ユーリたちが目撃した残酷な光景とは——?

ユーリの胸に眠る過去の後悔が、静かに燃え上がります。


緊迫の第25話、どうぞお楽しみください!

 作戦会議を終えたユーリとキャシーは、先日襲撃を受けた魔導回路工房が立ち並ぶ区画へと向かった。


 石畳の裏路地を並んで歩く中、隣を歩くキャシーがふと視線を上げてユーリの横顔を覗き込んできた。


「ユーリっていつも冷静なのに、時々なりふり構わないような行動に出るよね」


「ん? そうかな。キャシーたちと違って戦闘が出来ないから、逃げ惑ってるけど」


「そんなことないわ。それを言ったら、私たちの方が自分の限界を知っているから、慎重にどこまで行動できるかって常にどこかで考えながら行動しているわ」


「そういう『戦闘のカン』みたいなものがないから、キャシーから見たら危なっかしく見えるんだろうね。気を付けるよ」


「そうよ、戦闘に関しては私の方が上なんですからね。ちゃんと私の言うことを聞いてよ」


「わかった、キャシーの言うこと聞くから。ちゃんと守ってね、頼もしいボディーガードさん」


「ふふん、任せなさい!」


 誇らしげに胸を張るキャシーに苦笑しつつ、目的の職人街へと足を踏み入れた。


 事件から数日が経過しているものの、現場周辺にはいまだ物々しい空気が漂っている。


 焦げた木材の匂いが残る工房の跡地に入ると、ユーリは周囲を慎重に見回した。


「焦げた匂いの中に、変な薬品みたいな臭いが混ざってる……」


 キャシーが鼻をピクピクと動かし、眉をひそめる。


「ああ、そうだろうね。周りにある価値のありそうな道具や資料ではなく、目的の場所まで一直線に向かっている形跡がある。それに……」


 ユーリは焦げた壁の一部に視線を止めた。ユーリの【眼】にだけ、崩れた石壁の亀裂にへばりつくような紫色の澱み——マナの痕跡がくっきりと映し出されている。

 ここで凄まじい戦闘が行われたか、あるいは強引に突破された証拠だ。


「単なる乱入や略奪じゃない。明確な目的を持った集団の仕業だ」


 さらに深く情報を探るため、ユーリたちは近隣の管理施設へと足を運んだ。

 だが、すでに封鎖されている建物には見張り用の警衛が配置されている。


「ここで何をしている!」


 巡回中の警衛の鋭い声が響き、ユーリとキャシーはすかさず近くの物陰へと身を潜めた。

 足音が近づき、緊張が走る。


 その時、物陰の反対側から堂々とした足取りで一人の男が歩み出ていった。

 身の丈を超える大剣を背負った、重厚な甲冑姿の男——衛兵騎士団長ルシアンだった。


「やあやあ、申し訳ない。実は捜査の洗い直しをしていてね」


 豪快な笑みを浮かべて手を振るルシアンに、警衛は目を見開いて腰を落とした。


「こ、これはルシアン隊長でしたか! ですが、ここに入るには事前に申請が……」


「わかっているよ。申し訳ない、至急確認したいことがあったんでね」


「そうですか……では、今後は気を付けてください」


 警衛は恭しく一礼すると、疑問を抱くこともなく立ち去っていった。

 警衛の背中が見えなくなると、ルシアンはニヤリと口角を上げ、胸を張って見せた。


「ほらな。やっぱ俺って頼りになるだろう?」


 ユーリは物陰からゆっくりと歩み出ると、小さく溜息をついた。


「ああ、そうだね、キャシー」


「な、なんで!? 何で見抜いちゃうかなーっ!?」


 次の瞬間、ルシアンの姿がポンと軽い煙とともに弾け、キャシーの姿へと戻った。

 変身の術は完璧だったはずなのに、わずか一秒で看破されたことにキャシーは頭を抱えて地団駄を踏んだ。


 やがて陽が傾き、魔導商都グランデールの街に夜の静寂が訪れる。

 街の主要な交差点には、冷徹な雰囲気を纏った聖騎士たちが立ち並び、厳重な警戒網が敷かれ始めていた。


 通りを歩いていると、部下に指示を出していた聖騎士団長エリアナがユーリの姿に気づいた。


「ゆ、ユーリ様……っ!」


 エリアナの冷酷な氷の表情が一瞬で崩れ去り、頬を鮮やかな朱に染めてモジモジと駆け寄ってくる。


「このような夜更けにお会いできるなんて……! もしや私を案じて来てくださったのですか? ええ、このエリアナ、ユーリ様のお気持ちに応えるためなら、今すぐにでもこの甲冑を脱ぎ捨てて私生活のパートナーとして——」


「ちょっとー!あんたどさくさに紛れてなんてこと言ってるかなっ!」


「ま、まあまあ。二人とも落ち着いて」


 またいつものようにキャシーとエリアナの口論が始まりそうだったので素早くユーリが止めに入る。


「そういえば、ルシアンと一緒に警備に当たってるんじゃないの?」


 ユーリが尋ねると、エリアナは胸の前でギュッと手を握りしめたまま、品格のある言葉遣いで答えた。


「ルシアンでしたら、南の大通りを中心に警備しているはずですわ。あちらの警戒も万全です」


「ああ、そうか。二手に分かれてるって事だね。夜間の厳戒態勢は任せるね」


 ユーリが苦笑いを浮かべながらそう告げると、エリアナは「任せるね……任されましたわ! ユーリ様から愛の言葉をいただきましたわ……っ!」と瞳を輝かせ、深々と一礼した。


「『任されましたわ!』って。あんた、絶対意味誤解してるでしょ!」


「ま、まあまあ。早くいかないと今日中に予定の場所まで調べられないから」


 ユーリは憤慨するキャシーの背中を押しながらその場を後にする。


 ユーリとキャシーは警備の手薄な裏通りの区画へと足を進めた。

 街全体がしんと静まり返る中、ふいにキャシーの脚が立ちすくんだ。ぴんと立った耳が不気味に震え、獣人特有の鋭い感覚が警鐘を鳴らす。


「……ユーリ、風の匂いが変わった」


「匂い?」


「うん……濃い、血の匂いがする。すぐ近くだよ!」


 ユーリが【眼】の焦点を切り替えた瞬間、路地裏の奥に異様な光景が広がっていた。


 石畳の上に、半透明の歪んだ膜——極めて強力な防御結界が張り巡らされている。その結界の内部には、倒れている職人の姿があった。


 そして、倒れた職人をかばうように後ろに蹲り、恐怖に声を上げている少女の姿が見えた。職人の娘と思われるその少女に向かって、黒いフードをかぶった影が冷酷に刃を振り上げている。


「駄目よ、ユーリ。敵は複数人いる上にかなりの手練れよ。私たちでどうにかならないわ! いったん戻ってエリアナに応援を頼みましょう」


 キャシーがユーリの腕を強く引き、必死の形相で制止の声をかける。


 その判断はあまりにも合理的で、正しかった。魔力を持たず、戦闘技能もない身で飛び込めば、待っているのは命の保証のない無謀な結末だけだ。


 だが——。

 応援を呼びに戻れば、戻ってきた頃にはあの少女の命はない。確実に奪われる。


 絶望に震える少女の瞳を見た瞬間、ユーリの脳裏に、かつて屋上で繰り広げられていた光景が焼き付くように蘇った。

 恐れに足をすくませ、理不尽に晒されていた幼馴染に手を差し伸べることすらできず、ただ見過ごしてしまったあの日の惨めな後悔。取り返しのつかない悔恨の記憶が、激しく胸を締め付ける。


(頭ではわかっている。引き返すべきだ。危険すぎる)


「ユーリ、ダメよ、ここはいったん堪えて。体勢を立ててからじゃないといけないわ」


 キャシーの強い口調は耳に入るが、どこか遠くの無機質な意味のない音のように通り過ぎる。


(……ここでまた見過ごしたら、一生後悔する……!)


 合理的な計算も、己の無力さへの恐れも、すべてを塗りつぶす強い衝動が身体を突き動かす。


「それでもっ……!」


 ユーリはキャシーの手を振りほどき、強力な結界が展開された路地裏へと迷わず駆け出していた。


「ちょっと、ユーリ!ダメだってば!」




第25話をお読みいただき、ありがとうございました!


道中のキャシーとの微笑ましいやり取りや、完璧に変身したはずなのにユーリに「わずか1秒」で見抜かれて地団駄を踏むキャシー、そして相変わらずユーリの何気ない言葉に大歓喜するエリアナなど、前半のコメディから一転……!


後半は、息を呑むようなサスペンスと緊迫の展開へ突入しました。


展開された強固な結界の中で、絶望に震える職人の娘。

合理的な撤退を促すキャシーの言葉を振り切り、かつて屋上で手を伸ばせなかった悔恨を胸に、ユーリが迷わず駆け出しました。


次回、常識外れの【手】が、絶対に破れないはずの特級結界を捉えます!

そして、夜の闇を切り裂く「謎の人物」の一閃が——!?


【読者の皆様へのお願い】

もし少しでも

「キャシーの変装1秒見破りに笑った!」

「ユーリの覚悟が熱い!」

「次回の展開が待ちきれない!」

と思っていただけましたら、画面下部にある【☆☆☆☆☆】を**【★★★★★】**にして応援していただけると、毎日の執筆の大きな力になります!


ブックマーク登録や「いいね」もよろしくお願いいたします。

次回は本日12時40分頃更新します。

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