↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/75

【第23話】捜査の手詰まりと現場の澱み

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


昨夜、敵幹部リタ(リターニア)から極秘の情報と通信具『マギストーン』を受け取ったユーリ。

明けた早朝、平穏な『酔っ払い亭』に、目の下に隈を作った衛兵騎士団長ルシアンが駆け込んできます。


街を恐怖に陥れる「切り裂き魔」の事件。

ユーリの【眼】が捉える現場の真実、そして被害者となった王都屈指の大剣豪が残した「謎の証言」とは——!?


第23話もどうぞお楽しみください!

 朝日が『酔っ払い亭』の木漏れ日となって差し込む早朝。

 ユーリはポケットの中に収めた手のひらサイズの滑らかな石——昨夜リタから手渡された通信魔道具『マギストーン』の感触を指先で確認していた。


 そこへ、奥の部屋からあくびを噛み殺しながらメリッサが姿を現した。


「……ふぁぁ。おはよう、ユーリ」


 寝起きの髪をわずかに跳ねさせつつも、800年以上を生きる大賢者はいつもの落ち着いた足取りでテーブルにつく。

 ユーリが手際よく差し出した具だくさんの野菜スープと焼き立てのパンに目を細め、匙をとった。


「感謝するわ。朝のスープは体に染みる」


 手際よく朝食を胃に納めていくメリッサの向かいに腰掛け、ユーリも静かに朝の時間を過ごす。

 その静寂を破るように、重厚な扉が勢いよく開け放たれた。


「すまん! 朝早くから邪魔するぞ!」


 入ってきたのは、衛兵騎士団長のルシアンだった。

 数々の修羅場を共に潜り抜けてきた男の精悍な顔立ちには、珍しく深い隈が刻まれている。


 ルシアンはテーブルのメリッサを見ると、真摯な眼差しで声をかけた。


「メリッサ殿、朝食中にすまないが……少々知恵を貸してくれないか。捜査が完全に手詰まりを起こしているのだ」


 メリッサはスープの匙を置くと、腕を組んで脚を組む。


「ルシアン、顔色がひどいわね。例の『切り裂き魔』の件かしら? 衛兵団の警戒網をすり抜けて、毎夜被害が出ているという」


「ああ、その通りだ。被害者の身元に共通点はなく、現場には魔力の残光すらほとんど残されていない。影が通り過ぎたかのように一瞬で命を絶たれている。我が衛兵団の巡回網も、まるで見透かされているかのようでな……」


 ルシアンが苦々しく拳を握りしめたその時、外から荒々しい足音が響き渡った。


「隊長! 隊長ーーッ!」


 飛び込んできたのは、息を荒らげた衛兵のメンフィスだった。


「どうしたメンフィス、落ち着け」


 ルシアンが制するが、メンフィスは悲壮な声をあげる。


「出ました! 例の切り裂き魔です! 貴族街外れで新たな被害者が!」


「何だと……!?」


 ルシアンの目元が険しく光る。メリッサは迷わず椅子から立ち上がった。


「ユーリ、行きましょう。現場の空気を直接確かめた方が早いわ」


 ユーリは静かに頷く。

 大賢者としての鋭い表情を取り戻したメリッサに付き従い、一同は現場へと急行した。




 現場となったのは、グランデールの貴族街の境界に位置する静寂な石畳の路地だった。

 すでに周囲は封鎖され、重厚な甲冑を纏った騎士たちが緊迫した雰囲気を漂わせている。


 その中心で部下にテキパキと指示を出していたのは、聖騎士団長エリアナであった。

 冷酷無比と恐れられる氷の剣士は、ユーリたちの姿を視界に捉えた瞬間、ぴんと背筋を伸ばした。


「ユーリ様……お越しくださったのですか」


 エリアナの瞳にパッと温かな光が宿り、白皙の頬がほんのりと朱に染まる。


 かつて命を救われて以来、ユーリへ深い信頼と想いを寄せる彼女だが、今は公務の場。凛とした聖騎士長としての品格を保ちつつ、ユーリの隣へと一歩歩み寄った。


「お見せするのも痛ましい現場ですが……状況をご説明いたしますわ」


 エリアナは胸元に手を当て、気を引き締めて語り始める。


「現場には凄まじい戦闘の跡が残されております。空間に散り散りとなった強力な魔法の残光……間違いなく、高度な魔術士同士が激しく刃を交えた痕跡ですわ」


 エリアナやルシアン、そしてメリッサの目には、空間に漂う「拡散した魔力の光」しか映っていない。


 だが、ユーリが【眼】の焦点を切り替えると、世界の見え方が一変した。

 一般的な魔力の残光など比較にならないほど異質なものが、ユーリの視界に鮮明に浮かび上がる。


 空間のあちこちに、ドロリとした粘着性を帯びた【紫色の澱み】が、幾重もの不気味な帯となって残されていた。

 空間そのものが腐食したかのような、醜い紫色の歪みとなって空中にへばりついている。


(……間違いない。人間が使う魔力じゃない。リタが言っていた魔族のマナ……それも、禍々しく汚染されている)


 ユーリはエリアナに軽く会釈をすると、紫色の澱みが最も濃く残る壁際へと歩み寄った。


「ユーリ様? 何かお気づきになりましたの?」


 エリアナがすさかず寄り添い、真剣な眼差しで見つめてくる。

 ユーリは紫色の歪みの軌跡を指先でなぞるように見つめた。


「ああ。ここにも残っている」


「何が残っているのだ? 俺たちには散々になった魔力しか見えんが……」


 ルシアンが不思議そうに身を乗り出す。メリッサはユーリの【眼】の能力を熟知しているため、腕を組んでユーリの横顔を見つめた。


「ユーリがそう言うのなら、私たちが知覚している『魔力』とは別の痕跡があるのね。前回の暴走事故のようなものかしら?」


「いや」


 ユーリは首を横に振った。


「それなら騒ぎはこんなもので終わらない。この紫色の澱みは……明確な意図を持って残されている。あきらかに特定の相手を目標にして交戦し、何かを確認するように、あるいは極めて精確に相手の急所を狙って叩き込んだ痕跡だ」


「交戦……? 単なる無差別の切り裂きではないということか!?」


 ルシアンが目を見開く。

 ユーリの指摘によって、現場の空気が一気に張りつめた。


「だとすると、今回の事件……ただの通り魔の犯行などではないな」


 ルシアンは声を潜め、重々しい口調で続けた。


「今回襲われたのは、ただの市民でも油断していた衛兵でもない。グランデールで一、二を争う大剣豪——ミラード殿だ」


「ミラード殿が……!?」


 メリッサが眉をひそめる。

 王都屈指の剣術家が、闇討ちとはいえ手も足も出ずに倒されたという事実。


「幸いにも一命は取り留められたが、意識が混濁しておられる。そして……気絶する間際にミラード殿が残した証言が、我々の捜査をさらに混迷させているのだ」


「証言?」


 ユーリが問いかけると、ルシアンは深々と苦み走った表情で頷いた。


「ああ。ミラード殿はこう仰ったのだ……『自分を襲ったのは、単独の斬り手などではない。手練れの部隊——複数の集団であった』とな」


 世間を揺るがす「単独の切り裂き魔」の噂と、被害者である大剣豪の「手練れの部隊」という証言。


 二つの事実の食い違いに、ユーリの手のひらにある『マギストーン』が、静かに冷たさを増した気がした。




第23話をお読みいただき、ありがとうございました!


現場の凄惨な魔力の痕跡から、誰も気づかない【紫色の澱み】を見つけ出し、事件の本質(無差別の辻斬りではなく、明確な意図を持った交戦)を瞬時に見抜いたユーリ。

相変わらずの観察眼の鋭さに、頼れるバディ・ルシアンや、凛とした聖騎士長エリアナもますますユーリへの信頼を深めています。


しかし、襲われたのは王都屈指の大剣豪ミラード。

しかも「手練れの部隊(集団)に襲われた」という衝撃の証言……!

世間の噂と食い違う事件の裏で、一体何が動いているのか?


次回、酔っ払い亭で作戦会議! ユーリの知略がさらに冴え渡り、隠された事件の共通点が暴かれます!


【読者の皆様へのお願い】

もし少しでも

「ユーリの推理が冴えてる!」

「エリアナの反応が可愛い!」

「続きの展開が気になる!」

と思っていただけましたら、画面下部にある【☆☆☆☆☆】を**【★★★★★】**にして応援していただけると、毎日の執筆の大きな力になります!


ブックマーク登録や「いいね」もよろしくお願いいたします。

次回更新もどうぞお楽しみに!

次回は本日19時10分頃更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。