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【第22話】裏路地の密会と通信のマギストーン

いつもお読みいただき、本当にありがとうございます!


今回から、物語は**【第2章:魔剣ヴェルグレイヴと漆黒の暗影】**へと突入します。


白亜の塔の事件を解決したユーリたちの前に、今度は街を脅かす「謎の切り裂き魔」と「呪われた魔剣」の影が迫ります。

そして深夜の裏路地、ユーリを呼び出したのは……敵組織の幹部・リターニアでした。


第2章も知略サスペンス、爽快な無双剥ぎ取り、そして個性豊かな仲間たちとのギャップコメディ全開でお届けします!

ぜひ最後まで楽しんでいただけると嬉しいです!


 魔導商都グランデールの喧騒が遠のき、静寂が支配する深夜の東地区。

 立ち並ぶ石造りの建物の隙間に潜む裏路地は、街灯の光も届かない深い闇に包まれていた。


 ユーリはその暗がりの中、ゆっくりと足を進める。

 普通の人間の目には単なる闇にしか見えない空間だが、ユーリの【眼】には、気味が悪いほどの【紫色のマナの乱れ】が、水面に浮かぶ不気味な油膜のように歪んで揺らめいているのが捉えられていた。


「……遅かったわね」


「久しぶりだね、リタ」


 闇の奥から、滑らかな足取りでひとりの女性が姿を現した。

 洗練された美しい顔立ちに、知性的な瞳。表向きは人間の女性へと姿を変えているが、その正体は魔族の幹部、リターニアであった。


「リタ……?」


「リタって呼んだ方が呼びやすいと思って。気に入らなかった?」


 不意に投げかけられた愛称に、リターニアの身体が一瞬硬直した。

 いつもの余裕に満ちた笑みが消え、その白い頬がほんのりと朱に染まる。


「べ、別にそんなわけじゃないわ。突然だったから、お、驚いただけ。……全然、呼んでくれて構わないから」


 一瞬だけ口ごもり、視線を泳がせたものの、リターニアは慌てて指先で髪を撫でつけ、コホンと小さな咳払いをした。

 元の大人の笑みを無理やり作り直し、ユーリへと向き直る。


「声をかけておいてなんだけど、よく私の話を聞く気になってくれたわね」


「迷ったさ。でもそれを見越した上で重大な話があると思ったから」


「そう言ってくれると私も助かるわ」


「それに」


「それに?」


 リターニアが首を少し傾げる。

 ユーリは揺れる紫色のマナの残光を見つめたまま、淡々と言葉を継いだ。


「その気になれば、あの時あの距離から簡単に狙撃できたはずだ」


 ユーリは白亜の塔屋上で、『魔導広域共振波放射機』を破壊した後のことを思い出しながら目を細めた。


「あら、私の腕をそこまで認めてくれるの。とても光栄だけど、その根拠は?」


「あれだけの距離からルシアンの大剣をはじき飛ばした。あの激しく動いているルシアンの手首の甲を正確に狙って弾いたんだ。なのに、その後はすべて足元に狙撃している。あれだけ精確な狙撃の腕を持っているということは、こちらに危害を加えることなく、仲間を救出する……そういう明確な意図に見えた」


「……っ」


 リターニアの喉が、息を呑んでかすかに鳴った。

 敵幹部としての完璧な隠密と狙撃。

 それを、魔力を持たないはずの目の前の少年が、何食わぬ顔で完璧に見破っていたのだ。


 背筋を冷たい悪寒と——それ以上の猛烈な高揚感が駆け抜ける。


「へえ……あれだけのことで、そこまで分かったの。すべて推測にすぎないかもしれないけれど……ふふ、及第点どころか満点ね。怖いくらいだわ」


「お褒めに預かりどーも」


「そんな冷たい言い方しなくても、本当に素直に感服しているのよ」


 リターニアはくすりと艶やかな笑みを漏らした。だがユーリの表情は崩れない。


「こっちは正直助かったけど、なぜ? 言いたくないが、排除した方が、そっちの行動にとって都合が良いように思える」


「フフフ、まさかあなたの口からそんな言葉を聞けるとは思わなかったわ」


「茶化さないでくれ。こっちもいっぱいいっぱいなんだから」


「まあ、そういうことにしておいてあげましょう。確かにあなたの言う通り、危害を加えないようにわざと足元を狙ったのは事実よ。理由は簡単。あなたたちに根に持たれると、後々厄介だと思ったのが素直な回答よ」


「根に持つ?」


「言葉通りの意味よ。もし私の狙撃に対して仲間の一人が大怪我をしたり、命に関わるようなことになったとしたら、あなたたちは私達を地の果てまで追ってくるでしょ。そうなるととても面倒だと思ったからよ」


 少し間を置いて、リターニアは言葉を加えた。紫色の瞳を妖しく光らせる。


「もうちょっと正確に言うと……あなたに追ってこられると、一番面倒で恐ろしいと思った、ってところかな」


 ユーリは小さく肩をすくめた。


「買いかぶりすぎだ。でもまあ、こちらには凄腕が何人もいたからね。彼らに狙われたら面倒だというのは頷ける」


「そうね、あなたの仲間たちはとても面倒。でも、あなたの悪いところは自身を過小評価しているところ。あなたの能力は本当に厄介よ。あの強固な結界を物理的に剥ぎ取ってしまうのだから。あの大賢者——名高いメリッサ殿も、噂に聞く通りあなたの価値をよく理解しているのではないかしら」


「メリッサのことを知っているのか」


「直接会ったことはないけれど、大賢者の噂くらいは耳に入っているわ。彼女ほどの存在があなたを側に置いている理由……それは単なる気まぐれではないはずよ」


 リターニアは表情を引き締め、雰囲気を一変させた。裏路地の空気が一瞬で張りつめる。


「さて、本題に入りましょうか。ここ最近、巷で話題になっている切り裂き魔の件って知っているかしら」


「ああ。夜中に何人もの人間が犠牲になっているって話題のやつだ。やられたのは皆、相当な手慣れで、奇襲を兼ねた腕試しだっていう話もある」


「実はその切り裂き魔なんだけど……帝都出身、はっきり言って私達魔族の関係者である可能性が高いの」


 ユーリの目元がわずかに険しくなるのを制するように、リターニアは手をかざした。


「そんな顔しないでよ。本当に申し訳なく思っているわ。あなたたちに誤解を持たれたくないというのは事実なんだけど、こんな状況じゃ公に協力を仰ぐわけにもいかないでしょ。こっちで極秘に捜査をしているんだけれど、どうも奴の尻尾をうまく掴みきれなくて困っているところなの。身分を隠しながらこの街で捜査しなきゃいけないから制限が多くてね。そこで、あなたに声をかけたってわけ」


「誤解しているみたいだけど、そんな権限は持っていない。確かにルシアンやエリアナみたいに捜査協力してくれそうな人物に知り合いはいるけど、独自捜査なんてしても些細なことしか分からない」


「誤解じゃないわよ。私はこの街の衛兵たちに協力を仰ぐつもりはないわ。あなた個人にお願いしたいと思ったから声をかけたのよ」


「それこそ大きな誤解だ。魔力すら感じられないのに捜査なんて無理だ」


「そうかしら? あなたは本当に過小評価しすぎているわ。あなたは——マナを感じ取り、視認することができるでしょう?」


 ユーリが沈黙すると、リターニアは満足げに深く微笑んだ。


「フフフ、とぼけるのが下手ね。もうそれってイエスと言っているようなものよ。まあ、私も深く追及するつもりはないけれど、その能力を貸してもらいたいの。実はね、今回の犯人が所持している魔剣には、私達魔族だけが扱う特殊なマナが使われているの」


「魔族のマナ……」


「ええ。人間が使う一般的な魔力とは根幹の構造が違うわ。そして、この街で魔族が使う特殊な魔道具を使わずに、素でそのマナの痕跡を直接視認できるのは、私が知る限り世界で唯一、あなただけよ。だからこそ、お願いしたいの」


「一緒に捜査するってことか?」


「とても魅力的なお誘いだけど、残念ながらさっきも言った通り、私は表を堂々と歩けるような立場じゃないから。だから陰ながら、あなたに情報提供をするわ」


「確かにルシアンたちからも、近いうちに捜査協力の声がかかるかもしれない」


「ええ、近いうちにあなたにも声がかかるわ」


「どうも手のひらで転がされている気がするな」


「そんなことないわよ。私ね、これでも男を見る目があるのよ」


「その『見る目』ってのが唯一の欠点な気がするよ」


 リターニアはクスクスと愉しそうに笑うと、夜風に乱れた髪を耳にかけた。


「時間ね。名残惜しいけれど、そろそろ行くことにするわ」


「連絡はどうするんだ?」


「不定期になるけれど、私の方から連絡するわ。……前に渡した『マギストーン』を持っているでしょう?」


 リターニアの問いかけに、ユーリはポケットの奥にある滑らかな手応えを指先で確かめた。


 初めて出会ったあの時、リターニアから手渡された、赤い革の意匠が施された小さな通信魔道具。


「あの時、渡されたやつか。『気まぐれ』と言っていたが、最初からこうやって連絡してくるつもりだったの?」


「フフフ、どうかしらね。……言ったでしょう? 『また会う必要がありそう』って。あの時言った言葉に嘘はないわ」


 金属とは思えない温もりを宿すマギストーンを指先で弄りながら、ユーリは不敵な笑みを浮かべるリターニアを見据えた。


「じゃあね、ユーリ。期待しているわ」


 リターニアの身体は、まるで夜の闇に溶け込むかのようにすっと静かに消え去った。


 路地裏に残されたユーリは、ポケットの中のマギストーンの温もりにそっと触れながら、静かに息を吐き出した。




第22話をお読みいただき、ありがとうございました!


敵の幹部でありながら、ユーリに「リタ」と呼ばれて思わず赤面してしまうリターニア……普段の妖艶な姿とのギャップがたまりませんね。

そして、リタの射撃の意図を完璧に見抜いていたユーリの観察眼にも、リタはますます惹きつけられているようです。


街で頻発する不穏な辻斬り事件。

果たして魔族の関与する「魔剣」の正体とは……?

次回、衛兵騎士団長ルシアンが血相を変えて駆け込んできます!


【読者の皆様へのお願い】

もし少しでも

「リタのデレが可愛い!」

「ユーリの洞察力がかっこいい!」

「第2章の展開が気になる!」

と思っていただけましたら、画面下部にある【☆☆☆☆☆】を**【★★★★★】**にして応援していただけると、執筆の大きな励みになります!


ブックマーク登録や「いいね」も大歓迎です。

次回更新もどうぞお楽しみに!

次回は本日12時40分頃更新します。

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