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【第19話】古代遺物クロノスの猛威と、散りゆく名誉

第19話をお読みいただきありがとうございます!


天蓋に響く地鳴りと、現れた古代の巨神――『巨鋼兵クロノス』。

魔力を封じられた絶望の嵐の中、仲間たちが血塗れの盾となる。


そして、聖騎士団長エリアナに突きつけられた、あまりにも残酷な「魂の選択」とは――。


どうぞお楽しみください!

「あたしが行く! ユーリを一人で行かせられるわけないでしょ!」


 キャシーが地を蹴り、前に躍り出た。

 ヒョウの獣人としての身体能力を極限まで引き上げる。


「標的はあたしたちが引き受ける! ルシアン、死んでもその大剣を離さないでねっ!」


「言われ……なくてもだ……ッ!」


 キャシーは夜風を切り裂き、クロノスの砲門の前へと自ら身を躍らせた。


 直後、嵐のような一斉掃射が屋上を焼き尽くす。


 ドガガガガガガガガッ!!!


 無数の魔導弾が雨あられと降り注ぐ。

 キャシーは極限の身のこなしで瓦礫を蹴り、弾道を逸らしながらルシアンの盾となった。


 だが、その代償はあまりにも重い。

 かすめた弾丸が彼女の柔らかな皮膚を裂き、服を朱に染め、鮮血が夜風に散る。


「くっ……あぁぁッ!」


「キャシー!」


「振り返らないで、ユーリ! 絶対にあれを止めて……ッ!!」


 血を流しながらも、キャシーは牙を剥き、誇らしげに耳を跳ねさせて叫んだ。


 ルシアンとキャシーが、己の命を盾にして、放射機への唯一の直進ルートをこじ開けている。

 唇を噛み締め、石畳を蹴った。


 だが――その進路上、放射機の直前で、冷酷な光を宿した極細のワイヤー短剣を両手に構えたディアナが立ち塞がった。


「行かせるわけないやろ! 魔力もないただのガキが、英雄気取りでしゃしゃり出るんやないわ!」


 蛇のようにうねる不可視のワイヤーが、四肢を切り刻まんと宙を裂く。


 魔力を持たない身体能力では、この致死の結界を潜り抜けることは不可能だった。

 万事休す――その瞬間。


「――そこを、退きなさいッ!!」


 凛とした、しかし激痛に震える悲痛な叫びが響いた。

 階下で手首を貫かれ、地に伏していたはずのエリアナだった。


 彼女は折れそうな身体を意志の力だけで立ち上がらせ、血塗れの右手で細身の魔導剣を握りしめ、ふらつきながらもユーリの進路を塞ぐディアナの前へと割り込もうと踏み出していた。


 その背中へ、メリッサの鋭く、残酷な制止が突き刺さった。


「待ちなさい、エリアナ! 私たちは王宮の命で調査のために動いているけれど、あなたは違う! あの装置とこの塔を守ることこそが、あなたの任務でしょうが! 防衛責任者であるあなたがそれを物理的に破壊すれば、完全な命令違反……聖騎士団長の地位もキャリアも、すべて失うことになるのよ!?」


 エリアナの足が、ピタリと止まった。

 夜風が、彼女の乱れた金髪を激しく揺らす。


(地位……名誉……私の、人生……)


 メリッサの言葉は、冷酷な現実の刃となってエリアナの胸を抉った。

 脳裏の奥底から、走馬灯のように過酷な過去の記憶が噴き出してくる。




 名門貴族の家に生を受けながら、幼くして実母を亡くした。


 屋敷に入り込んできた継母から執拗な虐待を受け、罵倒され、やがて不要なガラクタのように家を追われた幼少期。


「この世に自分を守ってくれる者などいない」と悟り、誰の温もりも信じず、寄宿学校で掌の皮が擦り切れるまで血のにじむような努力を重ねて、ようやく手にした騎士の称号。


 だが、運命は嘲笑うかのように彼女を打ちのめした。

 実父が裏組織の人間に殺されたのだ。さらに追い打ちをかけるように、実父がその裏組織の汚職に関与していた決定的な証拠が白日の下に晒され、彼女には『犯罪者の娘』という消えない烙印が押された。

 その後、身寄りを失った彼女を引き取ってくれたのは、実父の弟夫婦だった。二人は腫れ物に触る風でもなく、実の娘のようにとても優しく温かく迎え入れてくれた。


 だが――優しくされればされるほど、胸の奥で『犯罪者の娘』という暗い負い目が疼いた。

 迷惑をかけてはいけない、自分のような存在が甘えてはいけないと自らを縛り、彼女は自ら心を固く閉ざして、温かな家庭から距離を取ってしまったのだ。


受けるはずだった叙勲はすべて剥奪され、追放されるように送られたのは、泥と血にまみれた最前線の戦場だった。

 死体の山を越え、嘲笑と蔑視の視線に晒されながら、五年間、ただ前だけを見て泥水をすすり続けた。


 そうして己の力だけで這い上がり、ようやく辿り着いたのが――この王都の防衛を預かる『白亜の塔総責任者』という、現在の聖騎士団長の地位だったのだ。




 この放射機を守り抜くこと。


 王命に従い、完璧な規律の騎士として職務を全うすること。

 それだけが、奪われ続けてきた己の尊厳を、血を流して積み上げてきた人生の正しさを証明する、唯一無二の光だった。


 もし、この手で王都の最重要機密を破壊すれば――。

 彼女は再び、すべてを剥奪された『罪人の娘』へと転落する。


 これまで築き上げてきた名誉も、地位も、未来も、完全に灰燼へと帰す。


(壊せば……私は、すべてを失う……)


 心臓が早鐘を打ち、激痛の走る手首からボタボタと鮮血が石畳へ滴り落ちる。


 眼前では、クロノスの砲火を浴びてキャシーが血に染まり、ルシアンが骨を軋ませて絶叫している。

 そして、その地獄の只中を、武器も魔力も持たない少年が、ただ真っ直ぐに、傷だらけになりながら未来を掴もうと走っている。


 エリアナの瞳が、ユーリの背中を捉えた。

 魔力を一切持たず、最初は怪しい侵入者として冷酷に追い払おうとしたあの少年。


 それなのに、自分が魔獣の奇襲を受け、死の淵に立たされたあの時――少年は命の危険も顧みずに飛び込んできて、その不思議な手でマナの不純物を引き剥がし、命を救ってくれた。


 恐怖に震えていた自分に、泥にまみれた頬を拭いながら、少年は言ったのだ。


『もう大丈夫。・・・一人で立てる?』


 あの温もり。

 名門の血筋も、犯罪者の娘という過去も、冷徹な騎士団長という仮面すら関係なく。

 ただ一人の傷ついた人間として自分を見つめ、救い、その存在を心の底から肯定してくれた、唯一の手のひら。


 六歳のあの日から、何重もの氷の鎖で固く閉ざしてきた心が、疼くように熱を帯びる。


(あの人のいない世界で……彼が笑ってくれない冷たい玉座で……守り抜いた名誉に、一体何の意味があるというの……?)


(けれど……これを壊してしまえば、私の人生は……本当に……!)


 守るべき己の過去と栄誉か。

 それとも――すべてを投げ打ってでも掴みたい、目の前の少年の命と未来か。


 激しく軋む魂の天秤の上で、エリアナは震える手で魔導剣の柄を握り直した。


 傷口から噴き出す血の熱さが、彼女の凍てついた心を灼き尽くしていく。


 吹き荒れるマナの嵐の中、聖騎士団長エリアナは、運命を分かつ究極の選択へと視線を上げた――!



第19話をお読みいただき、本当にありがとうございました!


古代兵器クロノスの圧倒的な装甲と、マナのジャミングによる魔力封殺……!

ルシアンが挟まれ、キャシーが傷だらけになりながらユーリへの道を切り拓く中、立ち上がったエリアナ。


「壊せば、積み上げてきた地位も名誉も、人生のすべてが終わる――」


『犯罪者の娘』という消えない烙印を押され、泥水をすすりながら血のにじむ努力で掴み取った聖騎士団長の座。

そのすべてを捨ててでも、自分を一人の人間として認めてくれたユーリのために剣を抜くのか――!?


果たして、極限の葛藤の果てにエリアナが下す決断とは……!?


次話、ついにエリアナの魂が覚醒する――!


「エリアナの過去が重くて泣ける……!」

「キャシーとルシアンの献身が熱すぎる!」

「エリアナの覚醒が見たい、早く次へ!」


と少しでも胸を熱くしていただけたり、ハラハラしていただけましたら、

画面下の【ブックマークに追加】や、評価欄の【★★★★★】をタップして応援していただけますと、執筆の大きな力になります!


次話【第20話:散りゆく名誉と、天蓋の黒き閃光】へ続きます。

次回は明日12時10分頃更新します。


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