↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
17/73

【第17話】:【裏切りの連鎖と、天蓋への跳躍

第17話をお読みいただきありがとうございます!


黒炎を払ったコンマ数秒の隙に響く、冷酷な詠唱――。

明かされた最悪の裏切りと、絶体絶命のコントロールルーム!


しかし、絶望の密室を外壁ごとぶち破り、あの大剣を担いだ「過保護な親友」が豪快に殴り込みをかける――!?

息もつかせぬ逆転と、天蓋へ向けた激闘をお楽しみください!

「――『魔鎖の縛《シギル・バインド》』っす!」


冷酷な詠唱が背後から響き渡った瞬間、足元の石畳から赤黒いマナの鎖が蛇のように跳ね上がった。


「えっ……!?」


ユーリ、メリッサ、キャシーの三人の身体が瞬時に締め上げられ、冷たい床の上へと強引に縫い付けられる。


「くっ……!? 身体が動かない……!」


キャシーが必死にもがくが、鎖は肉を軋ませるほどに強く締め付け、苦悶の声を漏らして膝をつく。


背後から、コツコツと小気味よい足音を立てて歩み寄ってきたのは――先ほどまで怯えた被害者を完璧に演じきっていたはずの、清掃員ロキシーだった。

その表情には先刻までの涙や怯えなど微塵もなく、どこか得意げな小悪党の笑みが浮かんでいる。


「いやー、アジトにいきなり踏み込まれた時はどうなるかと思ったっすけど、うまくここまで誘導できて結果オーライっすね、ディアナ先輩!」


「フン、上出来やロキシー。白亜の塔に入ってからこんな簡単に最先端のセキュリティを解く清掃員がどこにおんねん。少しは怪しめっちゅう話や。ほんま、素直すぎる連中やで!」


ディアナが腰に手を当てて高らかに笑う。

悪役ぶってはいるものの、その表情にはどこか子供がいたずらを成功させたような愛嬌が混ざっていた。


「ま、あんたたちも街を守りたいだけやったんやろ? 今ここで『ごめんなさい、ウチらが浅はかでした』って土下座して謝るなら、痛い目見せずに縄で縛るくらいで勘弁してやらんでもないけどな!」


「誰が謝るかこのペテン師!」


キャシーが牙を剥いて威嚇するが、ディアナは「はいはい、威勢がええのは結構なこっちゃ」と短剣の腹を弄び、身動きの取れないユーリの前へと近づいてきた。


「さて……まずは、この一番目障りな、魔力もないのに妙な手品を使うあんたから、大人しく眠ってもらおか――」


冷たい切っ先が喉元へ突きつけられた、まさにその瞬間だった。


――――ズゴォォォォォンッッッ!!!


コントロールルームの分厚い外壁が、地鳴りのような轟音と共に内側へと豪快に爆砕された。大量の石煙と瓦礫が猛烈な嵐となって吹き荒れる。


「な、なんや!? 何事やっ!?」


「うわっ、壁ごと吹き飛んできたっす!?」


ディアナとロキシーが驚愕に目を丸くし、破壊された壁の開口部へと飛び退く。

立ち込める白い土煙の中から姿を現したのは、巨大な白銀の大剣を、その広い肩の上に無造作に担いだ大柄な男だった。


「へいへい、こんな深夜にお困りかい? 我が親友よ」


吹き荒れる風の闘気が土煙を薙ぎ払い、不敵で頼もしい笑みを浮かべたルシアンの姿を露わにする。


「ルシアン!」


「ちょっと待っててくれよ。すぐにその拘束を解いてやるからな!」


ルシアンは肩の大剣クラドを一閃させた。

放たれた凄まじい物理の衝撃波が、三人を縛り付けていた『魔鎖の縛』の術式核を綺麗に粉々に砕き散らす。


「助かった!」


拘束から解き放たれ、即座に身を起こす。

だが、敵も素早く態勢を立て直していた。ディアナが二振りの短剣を構え、鋭い眼光で立ちはだかる。


「おっと、ここから先は立て込んでるで! 悪いけれど引き返し、脳筋騎士団長さん!」


「言ってくれるな、偽清掃員! もう泣いて謝っても許さんぞ!」


ルシアンの放つ剛腕の太刀筋を、ディアナは重力を嘲笑うような身のこなしで軽々と受け流してみせる。


「あの強烈な太刀を、あんなに簡単に受け流すなんて……!?」


立ち上がったメリッサが驚愕の声を上げる。

ユーリは即座に【眼】を凝らし、交錯する二人の動きを注視した。


「ルシアン! ディアナの短剣の両脇に、薄いマナの膜が展開されている! その膜がクッションになって、クラドの衝撃を外へ逃がしているんだ!」


「あのクソガキ……っ! 魔力もないくせに、余計な真似すな!」


見破られたディアナは焦り、疾風の如き踏み込みで間合いを詰めると、八つ当たり気味にユーリの腹部へ強烈な蹴りを放ってきた。

腕を交差させて受けるが、衝撃で身体が後方へと吹き飛ぶ。


直後――。


「貴様……ユーリに触るんじゃねえッ!!」


ルシアンの瞳が猛烈な怒りに燃え上がった。

大剣クラドを横一文字に全力で薙ぎ払う。凄まじい突風を伴った一撃が、体勢を崩していたディアナの胴体を真正面から捉えようと迫る。


だが、ディアナは身を捻って間一髪でその太刀筋を躱し、大振りになったルシアンの背後へ回り込むと、その背中を鋭く切り裂いた。


「戦闘中に余所見してる場合か、アホが!」


「ぐっ……!」


鮮血が舞う。ルシアンは苦悶に顔を歪めながらも振り返りざまに大剣を振るったが、ディアナはすでに宙を舞って間合いの外へと退避していた。


「……こんな浅い傷で、私が倒れるとでも思ったか?」


「思てへんよ。せやから――全員まとめて退場してもらおう思たんや!」


気絶から辛うじて立ち上がったロキシーが、背後から最後の魔術弾を放とうと腕を突き出してくる。


「や、やられっぱなしは性分に合わないっす!」


迫る紅蓮の魔力塊。

その時、壊れた外壁の隙間から、眩いばかりの氷の刃が閃光となって奔った。


「そこまでですわッ!」


飛来した魔術弾が一瞬にして凍りつき、粉々に砕け散る。

白銀の甲冑を凛々しく纏い、魔法剣を構えた聖騎士団長エリアナが、颯爽と床へと着地した。


「エリアナ!」


「お待たせいたしました、ユーリ様! ……お、お怪我はありませんこと!?」


「ああ、大丈夫」


駆け寄るエリアナに頷く。

ルシアンが大剣を構え直し、痛む背中を押さえながらニヤリと笑った。


「上層部に無理やり従わされそうになってた所を、この氷の女帝が説き伏せてくれたのさ。……匿名で、この塔の危機を知らせる情報が騎士団本部に届いてな」


匿名の情報――あのタートル清掃会社のハリス店長の手回しであることは明白だった。


だが、勇者と聖騎士、そして大賢者が揃い、圧倒的な数的不利に陥ったことを悟ったディアナは、舌打ちをしながら床の一角へと素早く飛び退いた。


「チッ、ぞろぞろと集まりよって……! 多勢に無勢やな! 落ちて頭冷やしとき!」


ディアナが床の隠しスイッチを力任せに踏み抜く。

直後、ガゴンッという鈍い駆動音とともに、ルシアンとメリッサが立っていたフロア手前側の石床が、派手な粉塵を上げて一気に底抜けに崩落した。


「しまっ――!?」


足場を失ったルシアンとメリッサが、大量の瓦礫と共に下の階へと真っ逆さまに落下していく。


「わっはっはっはっは! どーや! いかに勇者級といえど、ウチの仕掛けにかかればたわいも……って、なんでロキシーまで落っこちとんねん!」


高笑いから一転、ディアナが崩れ落ちた大穴を覗き込んで目を剥いた。

階下の瓦礫の山から、埃まみれになったロキシーが痛そうに頭を押さえながら這い出てくる。


「いたたたっす……! 文句を言いたいのはこっちっす! いきなり床を吹き飛ばすなんて聞いてないっすよ!」


「アホ! さっきちょこっと下、見たやろ! あれが合図や!」


「アホはそっちっす! どこの世界に下見ただけで『今から床が吹き飛びます』ってわかるんすか! ……もっと言ったら、そんなんで分かったら相手さんにもバレバレっすよ!」


「だから、それは阿吽の呼吸ゆーてな……!」


「いい加減、漫才はおしまいよ!」


階上で取り残されたキャシーが、牙を剥いて猛然と割り込んだ。

ディアナは即座に口元を吊り上げて煽り返す。


「はっはっは、なんやにゃんこのねーちゃん! トリオ漫才したいんやったら言ってくれたらええねんで!」


「あんたをみじん切りにしたら考えてあげるわ!」


その罵り合いの最中、階下では減速魔法で無傷で着地していたルシアンとメリッサが、大剣を構えて立ち上がっていた。

逃げ場のない下の通路で、大剣を握るルシアンの切っ先が、目の前のロキシーを静かに捉える。


階下のロキシーが大慌てで頭上のディアナを見上げた。


「ちょっと先輩! こいつらどうするっすか!?」


「しゃーない、あんたの真の力を見せたりぃ!」


「し……真の力って……仕方ないっすね!」


覚悟を決めたように拳を握りしめるロキシー。

だが、ルシアンが一歩踏み出した瞬間、ロキシーは脱兎の如く背を向けて猛ダッシュを始めた。


「逃げるが勝ちっす――!!」


「待て貴様ッ!」


風の加護を纏うルシアンの脚力から逃れられるはずもなく、わずか三歩で背後へ追いつかれる。

メリッサが短杖を軽く振りながら、冷ややかに告げた。


「ルシアン、うるさいから大人しくしてやって」


「しゃーねーな」


――ゴォォンッ!!


「ぎゃふんっスーーーッ!?」


鈍く重い衝撃音が階下に響き渡った。

ルシアンの容赦のない重戦車じみた『ヘッドバット』が炸裂し、ロキシーは綺麗に白目を剥いて廊下の奥で昏倒した。


上からそれを見下ろしたディアナが、頬を引きつらせて呟く。


「て……敵前逃亡って……流石はウチの後輩やな……」


だが、ディアナはすぐに表情を引き締めると、残された上層フロアの開口部と部屋の出入口に向けて、懐から取り出した黒紫色の呪符を一斉に投げ打った。


「遊びはここまでや! 『帝立黒禍拒絶陣《ヘクス・カタストロフ》』、展開ッ!」


ドス黒い紫色のマナが壁面を満たし、崩落した穴と出入口を一瞬にして塞ぎ止める。

階下との連絡を完全に断たれ、部屋は外界から孤立した密室へと変貌した。


「これで、下からの邪魔者は上がってこれへん! さて、残ったあんたらを片付けるとしようか!」


「調子に乗るんじゃないわよッ!」


キャシーが地を蹴り、ヒョウの身体能力を爆発させて爪の連撃を繰り出す。

だが、ディアナは短剣の一振りだけでその暴風のような攻撃を涼しい顔ですべて弾き落とし、鋭いカウンターの蹴りをキャシーの腹部へと叩き込んだ。


「がはっ……!」


キャシーが苦悶の声を漏らし、床を転がって気を失う。


「キャシー!」


「終わりですわ、ディアナ!」


即座にエリアナが踏み込み、絶対零度の冷気を纏った魔法剣で目にも留まらぬ高速の突きを放つ。

だが、ディアナは紙一重の身のこなしですべてを躱し、笑い声を上げた。


「ふん、手首の返しは悪ないけど……所詮はお嬢ちゃんの剣やな!」


カチャアン!


エリアナの巧みな小手打ちが決まり、ディアナの手から大きな短剣が弾き飛ばされた。

だが、ディアナは左手の短い短剣を右手に持ち替えると、不敵に肩を揺らした。


「短剣一つで十分や言うたけど……やっぱり二つないと落ち着かへんねん!」


ディアナが両手をクロスさせ、見えない糸を手繰るように強く引いた。


次の瞬間――。

床に転がっていたはずの短剣が、生き物のように跳ね上がり、エリアナの両手首を正確無比に貫いた。


「――っ、あぁぁッ!?」


鮮血が噴き出し、エリアナの手から魔導剣が滑り落ちる。

彼女は激痛に顔を歪め、膝から崩れ落ちた。


「お嬢様と見くびっとったのは謝るけど……これでチェックメイトやな」


ディアナがワイヤーを手元へと引き寄せ、無防備になったエリアナに向けて、冷酷な切っ先を高く振り上げた。


キャシーもエリアナも倒れ伏し、ユーリ一人だけが取り残される。


「いやいや、状況は変わったよ。観念するのは、あんたの方だ」


静まり返ったフロアに、平穏な声が響き渡った。


「はぁ? 何言うてんの。魔力もないあんたに、一体何ができるっちゅうねん」


「こういうことができるよ」


空中に向かって、空間の隙間をつまんで引っ張るような仕草を取る。


「な、何を――」


ディアナが不審げに眉をひそめた、まさにその瞬間だった。


ビリリィーー……ッ!!!


空間が裂けるような透明な破裂音が、部屋全体に響き渡った。


「え……!?」


ディアナは大きく目を見開いた。

エリアナの手首を貫いていたワイヤーに宿っていた、あの不気味な黒いマナの接続――それが、指先が空間を裂いた瞬間、何の前触れもなく完全に「引き剥がされ」、消滅したのだ。


ワイヤーはただの頼りない細糸となり、力なく床へと落ちる。


「う、嘘やろ……!? 専用の魔道具も使わんと、マナを素手で引き剥がした……!? どんなデタラメな力持ってんねん!」


ディアナは激しく動揺して後ずさりした。

ユーリはその動揺を意に介さず、出口を塞いでいる黒紫色の光の壁へとゆっくり歩み寄った。


それを見たディアナが、焦ったように大声を張り上げる。


「無駄やで! その壁は帝都の特製障壁『帝立黒禍拒絶陣《ヘクス・カタストロフ》』や! ケガしとうなかったら、さわらんこっちゃ!」


「やっぱり、これもマナを練り込んだ結界だったんだね。原理が分かれば簡単だよ」


ユーリは警告を意にも介さず、障壁の中央にこびりつくマナの澱みへと迷いなく素手を伸ばした。

強力なテープの端を掴み、力任せに一気に引き抜く。


「剥がれろ――ッ!」


ビリリィーー……ッ!!


パリィィィィィン!!!


特級の強度を誇るはずの帝都製障壁が、薄い氷のように一瞬にして木っ端微塵に砕け散った。


「な、なんで結界まで素手で割れるんよ……! でも、うちの武器はこれだけやない、あんたが追い詰められているのは変わりないんや……!?」


「状況は変わったと言ったはずだ」


静かに告げると、砕け散った結界の破片を払いながら、壊れた扉口の向こうから聞き慣れた声が響いた。


「――こう変わるのよ」


不敵な笑みを浮かべたメリッサ。

そして、その隣で巨大な聖大剣クラドを軽々と担いだルシアンの姿があった。


第17話をお読みいただき、本当にありがとうございました!


豪快に壁をぶち破って乱入したルシアンと、颯爽と駆けつけたエリアナ!

……からの、ディアナの床崩落スイッチによるまさかの漫才劇!

ロキシーの「逃げるが勝ちっす!」からの、ルシアンの容赦ないヘッドバット一撃沈没、お楽しみいただけましたでしょうか?


しかし、残された部屋でキャシーとエリアナが相次いで倒れる絶体絶命の危機!

そこでユーリが見せた、不可視のワイヤー解除と、帝都の特製障壁『帝立黒禍拒絶陣』を素手で木っ端微塵に叩き割る圧倒的デバッグ無双!


「漫才やってる場合じゃないのに笑った!」

「ロキシーの敵前逃亡とルシアンのヘッドバット最高!」

「帝都の特製結界を素手でバリリィするユーリが無双すぎる!」

「いよいよ全員揃って屋上決戦か……早く次が読みたい!」


と少しでも笑っていただけたり、スカッとしていただけましたら、

画面下の【ブックマークに追加】や、評価欄の【★★★★★】をタップして応援していただけますと、執筆の大きな励みになります!


次話【第18話:逆転の引き金】へ続きます。

次回は明日18時40分頃更新します。


もし面白ければブクマ・★評価で応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。