九話 魔物の気配?
制服のスカートが翻り、彼女の素足を撫でる。
あの人の後ろ姿を見つけると、速度を上げて追いかけた。
赤いバラの波を抜け、白い花の植木を通り過ぎる。
庭園の端まで追いかけ、学園の外に繋がる森の手前でマルクトにやっと追いついた。
少し上がった呼吸を整える。肺には新鮮な空気が取り込まれ、滲んでいた汗が引いていく。
「……殿下!」
「ライオラ!?」
「あー! おねえさーん!」
堂々と声を張りマルクトを呼べば、驚いたように彼は振り向いた。彼の肩に乗っていた妖精がライオラに向かい手を振ってくる。
「なぜここに」
「殿下がいるのが見えまして。ユーゴもご一緒よね? 皆さまそろってどちらに向かっていましたの?」
「あのですねぇ! このさきに、くっろーいけはいをかんじるですの。魔法石もひかってますですよ!」
鼻をすんすんと鳴らしながら妖精が言う。
「ハル、本当にこの先なんだな。ここから先は、授業以外で生徒の立ち入りは禁止になっている場所だ。俺達が勝手に入ることは出来ない」
「そうね、この先は……あら貴方、ハルと言うのね」
「はい! ハルっていいます、おねえさん!」
「ふふ、ハル。私はライオラよ」
「ライオラさん! なんだかつよそうなおなまえですねぇ!」
「おい、令嬢の名に対してなんだその感想は」
「構いません、殿下。それで、森の奥ですが……」
視界の先にあるのはうっそうと生い茂った森。
丁寧に整備された学園の庭とは違い、草木が奥の景色を覆い隠している。日の光が遮られ、昼なのに夜が広がっているかのようだ。
――ハルの言うことが本当なら、放置はできないわ。
エリオットが襲われた時のように、学園内に現れれば危険だ。
「殿下」
「なんだ」
彼の瞳をじっと見つめる。一陣の風がライオラの横髪をふわりと攫った。
「変身してください」
「んなっ!」
「お、お嬢様、変身ってなんの話ですか?」
ハロルドの疑問そうな声が聞こえた。そう、ハロルドは知らない。昨晩は彼に婚約破棄されたことについてしか話していない。だが今は説明している暇はない。
――後で話さないと……。
ライオラはマルクトの瞳を見つめ続ける。
「この森は実習で使います。もしこの先に本当に魔物がいるのなら、傷つけずマガツ森に送り帰せるのは殿下、貴方様だけです。どうかご変身くださいまし」
「ラ、ライオラ」
「安心してください……私もおそばにおりますから」
「違う。そうじゃなくてだな」
マルクトは頭を掻くと、ライオラから目を逸らしユーゴとハロルドを何度も見比べ始めた。
不安なのだろうか。
「殿下、魔法石を。大丈夫です、お一人ではありません」
戦う時は一緒だと、彼の目を見て伝える。
「おお、ライオラさん、やる気まんまんですね!」
「魔物に対して、良い印象は持っていません。ですが私は、傷つけないで済むのならそれに越したことはないと思うの。ハル、貴方がお持ちになられたあの石は、争いが続くこの王国と魔界の隔たりを無くすきっかけになるかもしれないわ」
「わああっ、そうですね! なんだかライオラさん、アイシアさまみたい!」
「頼む、俺を置いて二人で話さないでくれ。魔法を使うのは俺なんだ」




