六話 魔法の歴史
授業を担当する初老の男性、カロスの話は面白かった。
ライオラにとっては幼い頃に何度も教わった内容ではあったが、改めて歴史という物を学ぶのは楽しいものだった。
『かつて魔法とは、妖精界の物であった。われわれ人間が使えるようになったのは、今から約三百年前。魔族との争いを鎮めるべく、妖精界が力を貸したのがきっかけであった』
その時妖精の女王は魔法石を一人の人間の少女に託したと、カロスは話す。
教科書に載っている、石を託されている場面の少女の肖像画を見る。少女の手に握られている小さな赤い石。昨日見た石にそっくりだ。
あの妖精の子はどうしているだろう。
ライオラはマルクトの横顔を眺める。彼は真剣そうな表情で先生の話を聞いているようだ。
『魔法石を託された少女は光の戦士に生まれ変わる。見事、魔族を退かせた彼女の魔法は誰にもまねできない程の輝きを持っていたそうだ。彼女はその魔法を〈愛の魔法〉と呼んだ』
カロスの話が続く。
『石の力はやがて人間界に散らばり、そして我々にも魔法が使えるようになった』
「愛の魔法……」
ライオラは殆ど音にならない声で呟く。
脳裏には昨日の光景が思い浮かぶ。妖精の少女が言っていた、「あいで、せかいをすくいましょー!」の言葉。
――妖精と魔法石。本当なら、私が魔法少女? という物になるはずだったのよね。
カロスの授業は進んでいく。
やがて少女は当時の王子と結ばれ、王子が即位し国の母となる。それはこのハルツベルン王国、約三百年前の歴史だった。
「魔法とは便利なものですが、我々は授かったこの力を正しく使わねばなりませんぞ。皆様はくれぐれもこのことを念頭に置いて、実技の授業に励まれますように」
そう言ってカロスは授業を終えた。タイミングよく、終わりのベルが鳴る。
次の授業に向かわねば。立ち上がったところをマルクトに呼び止められた。
「ライオラ、話が」
耳馴染みのいい声。反射的に振り返ろうとしてしまう。その時だった、
「お嬢様、次は天文学ですよ」
彼女の目がマルクトと合う前に、ハロルドの声が割り込んだ。
従者が目上の人間の言葉を遮るなど、本来許されざる行為。ライオラは驚き固まった。
「あ。で、殿下、……」
「お嬢様、遅れてしまいます。参りましょう。マルクト殿下も遅れますよ? では」
「えっと、ハロルド、待って。ごめんなさい殿下、失礼いたしますわ」
「お、おい、ライオラ」
困ったような彼の声。ハロルドに促され、とりあえず頭を下げると、後ろ髪引かれる思いで彼の側を立ち去った。
――そうよ……婚約者ではないのだから、一緒に行く必要はないのよ……。
前のように四六時中側にいなくて良いのだ。彼の側には、彼の従者が付き添う。
去り際、すぐ後ろを歩いているハロルドからフッと笑うような声が聞こえた気がした。




