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四十一話 濃い霧


「ライ、オラ……」


 彼の声が揺れている。

 ライオラはゆっくり黒狼から降りた。マルクトを囲むように立っていたムーンベアに向きう。


「あなた方もどうか怖がらないでください。大丈夫です、必ず森に帰れるわ」


 ライオラの声に呼応するように、黒狼がムーンベアとの間に立ち塞がる。マガツ森での力関係は黒狼の方が上なのだろうか。ムーンベアが近づいてくる様子はない。


「ライオラさん! おうじさま! あれをみてくださいですの!」


 ハルの声が空から聞こえた。見上げると、噴水の上空に黒いモヤをまとった紫色の光の玉が浮かんでいた。


「あれはなんですの」

「あれはこの霧の、魔王の魔力の塊だ」

「ではあれが!」

「ああ。何度浄化を試みても晴れない」


 大広間で魔王の魔力を浄化せしめた彼が晴らすことができない魔力の塊。魔王の格に違いを思い知らされる。


「まおーさま、やりすぎですのォ……」

「ハル、戻りましたら今の言葉を言ってやってくださいな!」

「は、はい! ぜーったい、いってやるですの!」

「ライオラ、危ない!」

「え」


 マルクトに呼ばれたかと思うと、地面にうつぶせに押し倒された。何があったのかと思う間もなく、ドカンとした落雷のような音が鼓膜を打ち付ける。

 音が落ちた先を見れば、黒い稲妻模様が石畳の上を描かれている。ばちばちと上空の魔力の塊から聞こえ、今まさにどすぐろい光の線が放たれようとしていた。

 周囲はまた徐々に暗くなっていく。

 この辺りは霧が薄かった。それはマルクトが浄化を試みたからであろう。だんだんと暗くなっていく周囲。肺に重い空気が入り込んでくる。むせ返りそうな不快感。ライオラは思わず口元を覆った。


「……うっ」

「ライオラ! くっ、瘴気が濃くなったからか……」

「ライオラさん!」

「大丈夫……このまま放っておいては、きっとこの子たちにも影響が。マガツ森はこんなに濃くないもの」

「ライオラ、君は自分の心配を」

「本当に大丈夫ですのよ、マルクト様。はやく霧を晴らしましょう! 私のことはあとで心配してください!」

「まったく……」


 庇ってくれていた彼の体を押しのけ立ち上がると、再び魔力の塊に目を向けた。

 その時、コツコツと石畳を歩く足音が聞こえて来た。暗闇からぬらりとコートを着た男の姿が現れる。魔王だ。


「見つけたか、マルクト王子」

「魔王……!」


 ライオラもマルクトと共に魔王を振り返る。


「石の浄化魔法を試したようだな。だが無駄だ。諦めるといい」

「お言葉ですが魔王様? 諦めるには早いと思いましてよ」

「貴様らの力では晴れぬさ、この闇は」


 魔王の言葉が冷たく心を侵食していく。彼はなぜここまで来たのか、ただ見物しに来ただけなのだろうか。


「何度でも試せばいいことですわ! マルクト様、私も共に! 浄化魔法を!」

「ああ」


 ライオラ達の周りを風が包み込む。風は淡く緑に光り、魔力の塊に向って吹き上げていった。周囲の霧は薄くなるが、やはり完全に晴れることはなく、塊に変化もない。だがピシリとガラスが割れるような音が聞こえた。雷鳴のような音が空に轟き始める。


――周囲の霧が……!?


 まるで嵐でも起こるかのように黒い霧の風が、噴水の周辺を渦を巻くように吹き荒れ始めた。あまりの強さに吹き飛ばされそうになる。


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