三十九話 追いかけて
「ハル……? 先程のが、愛の魔法……?」
黒狼を包んだ光が、愛の魔法だというのか。
ワフワフと上機嫌そうに鼻息を荒げ、頭をぶつけてくる黒狼を撫でながらハルに尋ねる。
「私、魔法石は持っていないわ。マルクト様の手元にあるはずよ」
「もしかして、もしかしてですけど……おうじさまといっしょにいたからかもなのです! さっきおしろでライオラさんは、おうじさまの魔法につつまれていたですの!」
「先ほど……? まさか、魔王の魔力が濃くなった時のことかしら。もしかして、マルクト様の魔法が私を守って……?」
両方の手のひらを見つめる。彼に守られている、そう思うとぎゅっと胸が苦しくなった。
――城下町に魔物がいることがわかったわ。こんな周りも見えない場所で……はやくマルクト様と合流しなければ。他にも魔物がある可能性がある。もし囲まれてしまったら……いくらマルクト様が魔法石の魔法が使えるといっても危険よ。
ゴクリと唾を飲み込む。
駐屯地で負った怪我も治っていない。
――マルクト様を失うわけにはいかないわ!
ライオラは立ち上がると暗闇の先を見据えた。だがスネにぶつかる感覚がし、視線を落とすと足元を見遣る。黒狼がスカートのすそを鼻先でつついて来ていた。
「そうですの! ライオラさん! いい考えがあるですの!」
ハルが耳元に飛び囁いた。
「このこにおうじさまの魔力をかがせるですの!」
ハルの提案には、すぐにピンときた。
黒狼にマルクトの跡を追わせるのだ。
「……貴方なんて天才なの!」
「えっへん、こーみえてもハルは、ようせいおうさまのいちばんでしなのですよ!」
「まあ、そうだったのね。ですが、マルクト様の魔力を……どうしたら良いのかしら」
「ワタシが通訳するですの! かくかくしかじかでですねー、こんな人をさがしててですねー……」
「そ、それで通じるの……?」
不安になり黒狼を見下ろすと、元気良く「ヴォウ!」と鳴き声を上げた。尻尾を振りながらライオラを見上げている。こうしているとただの大きな犬にしか見えず、黒狼に抱いていた獰猛で危険だという認識を改めた。
「わかったっていってるですの!」
「そのようね……貴方、お願いできるかしら」
黒狼が軽やかな足取りで暗闇の中へと飛び込んでいった。通った後には炎のように青い光が淡く浮かび、道しるべになっている。
――あの人の魔力の匂いを辿っているのね……どうか何事もありませんように……マルクト様!




