三話 魔物
ステッキと妖精に導かれ、駆け出したライオラ達が辿り着いたのは学校の正門の前であった。一人の背の低い男子生徒が狼に狙われていた。狼は黒いモヤを全身から漂わせており、その目元は青く鋭く発光し、男子生徒を捉えている。
「マルクト様、あれは……!」
「黒狼だと……魔界との国境地帯にしかいないはずだ。なぜ学園に?」
ライオラが覚えている限りで、マルクトの父である六代目ハルツベルン国王が納める都市に、魔物が現れたことはない。
マルクトの周りを妖精が飛び回った。
「魔法少女さま! あれです! ステッキがはんのうしているのは、あのまものです!」
「あれか……そこの君!」
「ひっ……え、で、殿下と、ライオラ様?」
男子生徒はマルクトの声に気付くと驚いたように振り向いた。顔には恐怖の色が濃く見える。
「貴方はフィオーネの……今助けますわ! そこから動きませんよう」
彼はフィオーネの従者、エリオットだ。フィオーネはライオラの幼馴染の令嬢で、寮も隣室で学園内でも仲良くしている子だ。彼が傷付いたらあの子は泣いてしまうだろう。助けなければと、体が動く。
「エリオット、大丈夫ですわよ! 私が」
「ライオラ、危険だ! 君はそこにいろ」
「! ですが殿下」
身を乗り出したのを、マルクトに片手で止められる。行く手を阻まれ、思わず彼の顔を見上げた。
――早くしなければ、エリオットが襲われてしまう……!
どうすれば黒狼を刺激せずにエリオットを助けられるだろうか。焦る気持ちだけが増していく。
すると妖精が宙を浮いていたステッキを両腕で抱え始め、よいしょと言いながらマルクトの前まで移動させた。
「魔法少女さま! 魔物はこのステッキでマガツ森におくりかえせますですの! さあ、魔法少女さまのほんき、みせてください!」
「だから俺は男なんだが! 魔法少女魔法少女と何なんだ……が、どうやればいい? 普通の魔法では倒せないのか」
「えっと、たおせます。たおせますけど……このステッキなら、きずつけないでおうちにかえせるんですよ!」
マルクトは妖精の説明に眉間に皺を寄せている。ライオラは彼の背後から出ると、妖精に顔をぐいと近づけた。
――ステッキの魔法なら魔物を傷つけないと言っていたわよね?
通常の魔法では魔物を傷つけてしまうが、ステッキの魔法なら違うと。いくらエリオットが狙われているとはいえ、黒狼の命を奪うことまではしたくない。
「妖精様、ステッキの魔法はあの魔物を傷つけないと、そう仰いまして?」
「はい! びっくりはしちゃうとはおもいますが! いたくはないはずですよ!」
「さようでございますね……では、どのようにすればよろしいのですか!」
「それはですね……」
妖精はふふんと鼻を鳴らしながら顎に手を当てると、マルクトの顔を笑みを浮かべながら見た。妖精に見つめられたマルクトが目を細めて睨み返す。妖精はマルクトのステッキをずいと彼の顔の近くに押し上げた。
「ささ、魔法少女さま! つよーく掴んでください!」
「こ、これをか……?」
ぐいぐいと迫ってくる妖精に、マルクトは訝しそうにステッキを見やる。ステッキの宝石の赤い輝きがマルクトの礼服を照らした。
「はぁい! では、ワタシにつづいて魔法のじゅもんを! マジカル・ラブ・サンダー! ……です!」
「マジカル……は? なんだと」
妖精の紡ぎだした呪文が聞こえた瞬間、マルクトの顔が引き攣ったように見えた。




