十三話 ドレスの色
森での騒動から数日。
ライオラはハロルドに寮にある応接室に連れて行かれた。
目の前に並ぶ赤と青のドレス。
トルソーに着飾れたそれらに、ライオラはむむむとつい眉間に力が入った。
――贈り物があるって聞いたのだけれど……。
一つは赤い情熱の薔薇を思い浮かばせるような、細身でありながらフリルをふんだんに効かせたローズレッドのロングドレス。スカート部分は幾層にも薄い布が重なり、柔らかな花の形のようなシルエットを生み出している。
もう一つは青を基調をしながらも夜空を思わせる色合いのドレスだ。上から下にかけ布の色は暗くなっていき、腰回りより下はディープブルーに染め上げられている。布地に散らされた細やかな金や透明の宝飾が、まるで星の如く光を放っていた。
――青いのはお父様からよね……そしてきっとこちらは、殿下から。
赤いドレスの方を見る。上半身には無数のビジューで花を描いた装飾。その輝きは、まるで彼の瞳の色を思わせる色と艶めき。大輪の薔薇の花を束ねたような、目を奪われる寳積を縫い込んだ赤の刺繍が輝く。だがその光は、今のライオラにとっては心を刺すいばらのトゲのようであった。
――婚約破棄なされたのに、なぜこんなドレスを私に……?
まだ世間には公表をしていないからか。仮でも正式に破棄されるまでは、隣に立ち婚約者として振る舞えということだろう。
「お嬢様、学園主催のダンスパーティーがございます。公爵様より、お嬢様に一刻も早くお見せしたいと言われましたのでお連れしましたが。もう一つあったとは……アイツのですね」
「やはり殿下からよね。どうしてかしら……」
「ふったくせに未練たらたらですか、あのヘタレは」
「ハロルド。あまり繰り返していると、公の場でいずれ口を滑らせるわよ?」
「ご心配なく。お嬢様とあれの前だけですから」
「もう、昔から貴方と殿下は……。殿下は貴方のことを知っているけれど、他の方はそうではないのよ……? 私、ハロルドが捕まるのはいやだわ…」
「お嬢様の前で無様に捕まるつもりはありません。ご安心を」
「そ、そう」
「あの変なステッキを振り回す奴の為に、お嬢様が悩むことはありませんよ。お好きな方を選べば良いかと」
「好きな……」
目を引かれてしまうのは赤色。
だが赤は彼の、ハルツベルン王家の色だ。
――私が背負うべきは、エーデル。エーデル公爵家の青だわ。
彼の色は纏えない。ちくりと胸に針を刺したような痛みを感じた。
いきなりあの人の全てを断ち切るのは難しい。ライオラの父が騒いでいない辺り、まだ両家間では話が進んでいないということ。彼はいつ婚約を破棄したことを父に伝えるだろうか。表ではまだ婚約状態、その状況で赤を選ばないのは何を意味するか。
――でも、でしゃばりもいけないわ。
青のドレスを見つめる。
例え彼の色を纏えずとも、臣下として側に立つ己が身につけるべきは青く気高きエーデル家の色。
背筋を伸ばし、こう告げる。
「ハロルド。当日はこちらを用意して頂戴」
「……かしこまりました、お嬢様」
視界の端でハロルドが頭を下げたのを確認する。
ライオラはじっと青いドレスを見つめ続けていた。




