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第5話「薬草を探して」


 翌朝、僕はニナを連れて、村のまわりを歩いた。


「薬草って、こんなとこに生えてるの? ただの草っぱらじゃん」


 ニナは、不思議そうに足元を見回した。


「ただの草に見えるのが、半分は薬草なんです。見分け方を知らないだけで」


 僕は、道ばたにしゃがんだ。背の低い、ぎざぎざした葉の草を指さす。


「これ、知ってますか」


「えっと……雑草?」


「血止め草です。茎を折ると、ねばつく汁が出る。傷口に塗ると、血が固まりやすくなる」


 試しに茎を折ってみせると、断面から透明な汁が、とろりと糸を引いた。ニナの目が、まんまるになる。


「すごっ。ほんとに薬なんだ」


 ◇


 そこから先は、宝探しのようだった。


 朝露に濡れた草はらを、一歩ずつ進む。湿った草の匂い。足の裏に伝わる、やわらかい土の感触。僕は目当ての草を探して、地面に顔を近づけていく。


 川べりの、日陰の岩場。そこに、探していたものがあった。


 山藍だ。葉の裏が、うっすらと紫がかっている。指でそっと一枚摘むと、やわらかく、ひんやりとした感触が返ってきた。香りを確かめる。青くさい中に、かすかな苦みがまじっていた。間違いない。


 これを温めて患部に当てると、血のめぐりを助けて、こわばった筋をほぐす。ガレオの足の湿布には、欠かせない草だった。


「ニナ、これと同じ葉を、傷つけないように摘んでください。爪を立てると、汁が逃げてしまうから」


「はーい。……あ、こっちにもいっぱい生えてる!」


 ニナが、岩のむこうを指さした。日陰の群落だ。僕一人では、見落としていたかもしれない。


 二人で、籠いっぱいに山藍を集めた。


 ◇


 けれど、肝心のものが足りなかった。


 湿布には、山藍だけでは弱い。痛みそのものを抑える、鎮痛の草がいる。あの、ハンナの家で挽いたものだ。村のまわりを探したが、この季節には見当たらなかった。


 僕は、ハンナの家を訪ねた。


「また来たのかい。今度は何の用だね」


 ハンナは、相変わらずの仏頂面だった。けれど、追い返しはしない。


「鎮痛の草を、少し分けていただけませんか。ガレオさんの足の、湿布を作りたくて」


 僕がそう言うと、ハンナの眉が、ぴくりと動いた。


「ガレオの足……あの古傷を、湿布で?」


「はい。山藍で血をめぐらせて、鎮痛の草でうずきを抑える。温めて当てれば、固まった筋がほぐれるはずです」


 ハンナは、しばらく僕の顔を見ていた。それから、ふんと鼻を鳴らして、奥の棚へ向かった。


「……持っていきな。けちけちせず、たっぷり使うんだよ。中途半端な湿布は、かえって患者を落胆させる」


 差し出された乾いた草の束は、僕が頼んだ量の、倍はあった。


 辛口だが、誰よりも患者のことを考えている。この人は、本物の薬師だ。


「ありがとうございます。必ず、いいものを作ります」


「口より、手で見せな」


 ハンナは、そっぽを向いた。けれど、その口元が、ほんの少しだけゆるんでいた。


 ◇


 家に戻り、僕は明日の段取りを整えた。


 山藍は、しおれないよう、濡れた布で包んで日陰に置く。鎮痛の草は、使う直前に挽いたほうがいい。香りの成分は、挽いてから時間が経つと飛んでしまうからだ。


 湿布の作り方は、頭の中で組み上がっている。まず鎮痛の草を、転がすように優しく挽く。山藍は刻んで、湯せんでじっくり温め、成分を引き出す。それを混ぜて、布に薄く伸ばす。


 火加減が、肝心だ。煮立てては駄目。山藍の薬効は、熱に弱い。湯気がふわりと立つくらいの温度で、ゆっくりと。


 一晩で、慌てて作るものではない。


 棚の月見草の鉢に、軽く水をやる。窓辺の葉は、今日も静かに息づいていた。


「明日、ガレオさんの足に、答えを返そう」


 採った草の籠を見下ろして、僕は呟いた。


 失伝した魔導薬草学が、この辺境で初めて、人のために形になる。その手応えを思うと、自然と背筋が伸びた。


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