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第48話「ギルドのなかの良心」

ギルドの使者ヴァロが、隣村に乗り込んできたとき、その一行の中に、一人、若い薬師がいた。


 ミハイルという、生真面目そうな青年だった。ヴァロの鞄持ちとして、付き従っている。ヴァロが、家一軒分の値で特効薬を売りつけ、ロイの薬を「毒だ」と罵るあいだ、ミハイルは、ずっと、落ち着かない顔をしていた。


 ある日、誰も見ていないところで、ミハイルが、そっと、僕に近づいてきた。


「あなたの、四層の薬を……見せてもらえませんか。薬師として、どうしても、知りたいのです」


 僕は、隠す理由もなかったから、薬の作り方を、ミハイルに見せた。膿を出し、熱を冷まし、毒を抜き、肉を再生させる。一つひとつの層の、役割と、加減を、説明していく。


 ミハイルは、食い入るように、それを見ていた。そして、薬が出来上がると、深い、ため息をついた。


「……完璧だ。これは、本物の医術です。ギルドの薬より、ずっと、理にかなっている」


 ミハイルの声は、震えていた。


「僕は、ギルドで、薬を学びました。けれど、ギルドが教えるのは、いかに高く薬を売るか、いかに製法を秘密にするか、そればかりだ。病に苦しむ人を救うはずの薬が、金儲けの道具になっている。……ずっと、おかしいと、思っていました」


 僕は、黙って、ミハイルの言葉を聞いた。


「あなたは、薬の作り方を、惜しげもなく、村人に教えている。儲けにならないのに。……それが、本来の、薬師の姿なんでしょうね。僕は、それを、忘れていた」


 ミハイルの目に、宿っていたのは、薬師としての、純粋な良心だった。ギルドという組織に染まりきれない、本物を見抜く目。僕は、その目に、かつての自分や、ハンナ婆さんの面影を、見た気がした。


「ミハイルさん。あなたは、いい薬師になれますよ。本物を、本物だと、見抜ける目がある。それが、一番大事なことだ」


 ミハイルは、はっとした顔をして、それから、深く、頭を下げた。


 その後、ミハイルは、ギルドの中で、静かに、声を上げはじめたという。ヴァロのやり方は、薬師の道に反する、と。家一軒分もの値で薬を売り、安く効く薬を毒と偽る。それは、薬師の風上にも置けない行いだ、と。


 一人の若い薬師の良心が、ギルドという、巨大な組織の中に、小さな、けれど確かな、ひびを入れた。


 ギルドは、一枚岩ではなかった。中にも、ミハイルのように、本物の医術を志す者がいる。ヴァロの強引なやり方に、疑問を抱く者がいる。その良心が、やがて、ギルドの内側から、ヴァロを追い詰めていくことになる。


 力で、ねじ伏せたわけではない。ただ、本物の薬を、隠さず、作り続けただけだ。その姿が、敵の中にいた一人の良心を、目覚めさせた。


 僕は、ミハイルと、固く、握手を交わした。立場は、違う。けれど、薬師として、目指すものは、同じだった。病に苦しむ人を、救う。ただ、それだけのために。


 いつか、ミハイルのような薬師が、増えていけば。ギルドも、変わるかもしれない。知識を独り占めし、薬を金に換えるだけの組織から、本当に、人を救う組織へ。それは、遠い夢かもしれない。けれど、その芽は、確かに、ここに、芽吹いていた。


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