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第47話「安く、遠くまで」

 ギルドは、物の流れを止めにかかった。


 薬作りに要る道具、村では採れない材料。それを商う仲買たちに、ギルドが圧力をかけた。あの村には売るな、と。逆らえば、ギルドとの商売を切る、と。仲買にとって、大口のギルドは怖い。村への道は、じわじわと細くなっていった。


 買い占めと、兵糧攻め。力ずくの妨害だ。


 だが、僕には焦りはなかった。なぜなら、薬の元になるものの大半は、もう村の畑と、辺りの山で採れるものだったからだ。膿出し草も、月見草も、癒し草も。自分たちの手で育て、自分たちの手で摘む。よそから買わなければ作れないものなど、ほとんどない。


「買い占めで枯れるのは、独り占めした薬だけです」


 僕は、村のみんなに言った。


「うちの薬は、村の土から生えてる。畑がある限り、道を止められても、枯れやしません」


 むしろ、ここからが攻めどころだった。ギルドが流通を締めるなら、こちらは、こちらの流れを作ればいい。


 ちょうど、ダレンが戻ってきていた。あの旅商人だ。事情を話すと、ダレンは膝を打った。


「そういうことなら、まかせときな。おれたち行商は、ギルドの息のかからねえ道を、いくらでも知ってる」


 ダレンが、村と村を結ぶ、薬の運び手になってくれた。幅広の車輪をつけた荷車は、ぬかるんだ辺境の道もよく進む。雪の上を行くかんじきの理屈で作った、あの荷車だ。村人たちが整えた道を、薬が、集落から集落へと渡っていく。


 けれど、運ぶだけでは、まだ独り占めと変わらない。僕は、もう一歩先をやることにした。


 行く先々の村に、薬の作り方そのものを、分けて教えたのだ。


 この薬草は、こう育てる。この薬は、こう煮て、こう加減する。一つの村が、自分たちで薬を作れるようになれば、もう誰にも止められない。買い占めようにも、買い占める元がない。村ごとに根を張った薬草は、ギルドがどう手を伸ばしても、枯らしようがなかった。


 安くて、よく効く薬が、辺境のあちこちで、土から芽吹くように広がっていく。


 ギルドの高い特効薬は、もう、誰も買わなくなっていた。家一軒分の値をつけた薬が、見向きもされない。安く、確かに効く本物が、すぐ隣の村にあるのだから、当たり前のことだった。


 力で締め上げようとしたものが、するりと手のひらからこぼれていく。ギルドは、自分たちのやり方が、根本から通じない相手に、初めて気づいたはずだった。薬は、独り占めするほど儲かる。その当たり前が、ここでは通じない。分けるほどに、強くなる薬だったのだから。


 ハンナ婆さんが、薬の渡っていく街道のほうを見て、目を細めた。


「知識ってのは、本来こういうものだったんだろうね。抱え込んで腐らせるんじゃなく、こうやって、いろんな手に渡って、根を張っていく」


 僕は、頷いた。失伝した魔導薬草学が、辺境の村々で、もう一度、息を吹き返しはじめている。それは、僕一人の手柄ではなかった。育てた村人、運んだ行商、証言した人々――たくさんの手が、薬を生かしていた。


 もっとも、ギルドが、このまま黙って引き下がるとは思えない。


 案の定だった。商売で勝てないとなると、連中は、最後の切り札を持ち出してきた。――王国の、法だ。「無資格の者が薬を売るのは、国の法に背く」。そう言って、ギルドの使者ヴァロが、役人を引き連れて、村にやってこようとしていた。


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