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第46話「偽りの噂」

「あの薬師の薬は、毒だ」


 その噂は、街道沿いに、じわじわと広がっていた。


 無資格の田舎者が、いい加減な薬を売りつけている。あれを飲んで、かえって具合が悪くなった者がいる。死んだ者さえいるらしい。――どれも、根も葉もない作り話だった。けれど、出どころをたどれば、ギルドの息のかかった連中に行き着く。安くて効く薬に、客を奪われた者たちだ。


 たちが悪いのは、噂と一緒に、偽物まで出回りはじめたことだった。僕の薬に似せた、効きもしない粗悪なものを、「これがあの薬師の薬だ」と称して、安く売り歩く。それで具合が悪くなれば、「やはり毒だった」という噂が、また一つ、本物らしくなる。


 隣村でも、不安が広がりはじめていた。せっかく病から救われた人々が、「あの薬は、本当に大丈夫なのか」と、顔を曇らせる。


 腹は立った。けれど、声を荒らげて言い返したところで、噂は消えない。それどころか、「逆上した」と、また悪く言われるだけだ。


「言い争っても、勝てません」


 僕は、ハンナ婆さんに相談した。婆さんは、苦い顔で頷いた。


「ああ。噂ってのは、叩けば飛び散る火の粉さ。下手に手を出すと、こっちに燃え移る」


「だから、隠さないことにします」


 僕が選んだのは、すべてを開けっぴろげにすることだった。


 薬に何の薬草を使い、どう作るのか。なぜ効くのか。その理屈を、隠さず、訊かれれば誰にでも教えた。偽薬は、中身を隠すから偽薬でいられる。本物は、中身を見せても揺るがない。膿出し草はこれ、毒を抜く葉はこれ、こう煮て、こう加減する。その一つひとつを、堂々と明かした。


 そして、何より強かったのは、薬に救われた人たちの声だった。


 ガレオが、太い声で言ってくれた。「僕の足は、この先生の薬で動くようになった。毒だなんてぬかす奴は、僕の前で言ってみろ」と。


 ヨナスじいさんは、相変わらずの仏頂面で、「あの煎じがなけりゃ、わしの腰はとうに曲がったままだ」と、ぶっきらぼうに。トムの母親は、熱を出した幼い娘が助かった話を。羊飼いのザックは、群れを救われた話を。リサは、生まれた我が子を抱いて。


 一人ひとりの、嘘のない言葉が、作り話の噂を、内側から崩していった。噂は、誰かの本当の体験の前では、どうしても薄っぺらに響く。


「先生の薬がどんなものか、あたしらが一番よく知ってる」


 村の人たちが、そう言って胸を張ってくれたとき、噂は、もう村には根を張れなくなっていた。


 ハンナ婆さんも、一役買ってくれた。元宮廷薬師の名で、「この薬は、れっきとした魔導薬草学に基づく、正統な医術である」と、はっきり証言してくれたのだ。宮廷で薬を司っていた者の言葉は、重い。いい加減な噂とは、格が違った。


 偽りの噂は、本物の薬と、本物の声と、本物の知識の前に、行き場を失って、しぼんでいった。


 けれど、それで諦めるようなら、ギルドも苦労はしない。噂で薬の信用を落とせないとわかると、連中は、もっと露骨な手に出てきた。


 薬を作るのに要る道具や、街でしか買えない材料。その仲買を、ギルドが軒並み押さえはじめたのだ。村に物が入らないよう、流通そのものを、締め上げにかかってきた。


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