第43話「効く薬」
四層の薬が、できあがった。
だが、これが本当に病を根から断つのか。確かめるには、実際に病人に試すしかない。
僕は隣村でいちばん重い、年配の患者のもとへ向かった。高熱でもう何日も起き上がれずにいる人だった。
一日に三度、四層の薬を飲ませる。
すぐには変わらない。けれど一日目の夜、わずかに熱が引いた。二日目、腫れが小さくなりはじめた。三日目には、膿の発疹がかさぶたになって落ちていく。
そして、四日目。
患者は自分の足で起き上がった。
「……体が軽い。あのだるさが、嘘みたいだ」
僕は息を詰めて見守った。これまでの薬は、ここで薬が切れるとぶり返した。
五日目も、六日目も。熱は二度と戻らなかった。
──治った。根から断てた。
患者の家族が僕の手を取って、涙をこぼした。その手の温かさを、僕は忘れないだろう。
◇
一人で効くと分かれば、あとは広げるだけだ。
ただし、慎重に。一度に大勢へ配るのではなく、容体を見ながら少しずつ。薬の効き目を一人ひとり確かめながら、増やしていった。
同時に、村では予防が根づいていた。
ガレオたちがさらえた井戸は、澄んだ水を湛えている。ニナの呼びかけで、どの家も水を煮沸してから使うようになった。新しく病に倒れる者は、日に日に減っていく。
倒れた人は四層の薬で治る。新しい患者は、きれいな水で出なくなる。
病が潮の引くように、辺境から退いていった。
◇
そして、僕の薬の値は安かった。
材料は自分の畑で育てた薬草だ。あとは僕とハンナの手間賃が少し。村人が無理なく払える値で、よく効く薬が手に入る。
当然、誰もギルドの薬を買わなくなった。
家一軒分の値がする特効薬を買えるくらいなら、ロイの安い薬を十回でも買える。しかもロイの薬は、ちゃんと根まで治してくれる。
ギルドの馬車の前には、もう人だかりはなかった。
◇
焦ったのは、ヴァロだった。
ある朝、僕が薬草園にいると、ヴァロが血相を変えて踏み込んできた。脂ぎった顔が、怒りで赤黒く染まっている。
「おい、最弱! 貴様、いったい、何をした!」
「何も。ただ、薬を、作って、配っただけです」
「ふざけるな! ギルドの薬が、一つも、売れんのだぞ!」
ヴァロは唾を飛ばしてわめいた。
「いいか、覚えておけ。お前の薬草なんぞ、すぐに、作れなくしてやる。商人に手を回して、お前の薬草の種も、道具も、買い占めてやる。荷車の通る道だって、塞いでやるさ!」
卑劣な脅しだった。けれど僕は、不思議と落ち着いていた。
「どうぞ、ご自由に」
「なに?」
「種は、もう僕の畑で毎年採れます。道具は、村のみんなが作れます。道が塞がれても、村の人が別の道を知っている」
一人の力なら、買い占めれば潰せる。けれど村ぐるみで根を張ったものは、そう簡単には枯れない。
ヴァロの顔から、血の気が引いていった。
◇
ヴァロが捨て台詞を残して去ったあと。
僕は静かに調合台へ戻った。
派手な魔法も、法外な値も、力ずくの脅しも。結局、いちばん大事なことの前では無力だった。
効く薬が、いちばん安いこと。それが、いちばん強い。
僕はまた薬草を挽きはじめた。ことこと、ことこと。竈の上では今日も、村の誰かのための薬が煮えている。
──けれど、ヴァロはこのまま引き下がるだろうか。
追いつめられたギルドが、次に何をしてくるか。僕はまだ、知らなかった。




