表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
43/54

第43話「効く薬」

 四層の薬が、できあがった。


 だが、これが本当に病を根から断つのか。確かめるには、実際に病人に試すしかない。


 僕は隣村でいちばん重い、年配の患者のもとへ向かった。高熱でもう何日も起き上がれずにいる人だった。


 一日に三度、四層の薬を飲ませる。


 すぐには変わらない。けれど一日目の夜、わずかに熱が引いた。二日目、腫れが小さくなりはじめた。三日目には、膿の発疹がかさぶたになって落ちていく。


 そして、四日目。


 患者は自分の足で起き上がった。


「……体が軽い。あのだるさが、嘘みたいだ」


 僕は息を詰めて見守った。これまでの薬は、ここで薬が切れるとぶり返した。


 五日目も、六日目も。熱は二度と戻らなかった。


 ──治った。根から断てた。


 患者の家族が僕の手を取って、涙をこぼした。その手の温かさを、僕は忘れないだろう。


 ◇


 一人で効くと分かれば、あとは広げるだけだ。


 ただし、慎重に。一度に大勢へ配るのではなく、容体を見ながら少しずつ。薬の効き目を一人ひとり確かめながら、増やしていった。


 同時に、村では予防が根づいていた。


 ガレオたちがさらえた井戸は、澄んだ水を湛えている。ニナの呼びかけで、どの家も水を煮沸してから使うようになった。新しく病に倒れる者は、日に日に減っていく。


 倒れた人は四層の薬で治る。新しい患者は、きれいな水で出なくなる。


 病が潮の引くように、辺境から退いていった。


 ◇


 そして、僕の薬の値は安かった。


 材料は自分の畑で育てた薬草だ。あとは僕とハンナの手間賃が少し。村人が無理なく払える値で、よく効く薬が手に入る。


 当然、誰もギルドの薬を買わなくなった。


 家一軒分の値がする特効薬を買えるくらいなら、ロイの安い薬を十回でも買える。しかもロイの薬は、ちゃんと根まで治してくれる。


 ギルドの馬車の前には、もう人だかりはなかった。


 ◇


 焦ったのは、ヴァロだった。


 ある朝、僕が薬草園にいると、ヴァロが血相を変えて踏み込んできた。脂ぎった顔が、怒りで赤黒く染まっている。


「おい、最弱! 貴様、いったい、何をした!」


「何も。ただ、薬を、作って、配っただけです」


「ふざけるな! ギルドの薬が、一つも、売れんのだぞ!」


 ヴァロは唾を飛ばしてわめいた。


「いいか、覚えておけ。お前の薬草なんぞ、すぐに、作れなくしてやる。商人に手を回して、お前の薬草の種も、道具も、買い占めてやる。荷車の通る道だって、塞いでやるさ!」


 卑劣な脅しだった。けれど僕は、不思議と落ち着いていた。


「どうぞ、ご自由に」


「なに?」


「種は、もう僕の畑で毎年採れます。道具は、村のみんなが作れます。道が塞がれても、村の人が別の道を知っている」


 一人の力なら、買い占めれば潰せる。けれど村ぐるみで根を張ったものは、そう簡単には枯れない。


 ヴァロの顔から、血の気が引いていった。


 ◇


 ヴァロが捨て台詞を残して去ったあと。


 僕は静かに調合台へ戻った。


 派手な魔法も、法外な値も、力ずくの脅しも。結局、いちばん大事なことの前では無力だった。


 効く薬が、いちばん安いこと。それが、いちばん強い。


 僕はまた薬草を挽きはじめた。ことこと、ことこと。竈の上では今日も、村の誰かのための薬が煮えている。


 ──けれど、ヴァロはこのまま引き下がるだろうか。


 追いつめられたギルドが、次に何をしてくるか。僕はまだ、知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ