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第33話「山羊の乳」

牛のお産を助けて以来、村の家畜のことでも、相談を受けるようになった。


 今度は、山羊だった。子を産んだばかりの牝山羊が、乳の出が悪く、子山羊が、ひもじそうに鳴いているという。飼い主のおかみさんは、おろおろしていた。


「このままじゃ、子山羊が育たない。けど、母山羊も、痩せちまって」


 僕は、母山羊を診た。お産で力を使い果たし、すっかり弱っている。乳が出ないのは、母体が弱り、乳を作るだけの力が、残っていないからだ。これは、子山羊に乳を飲ませる前に、まず、母山羊を、元気にしてやらなければならない。


「母山羊の身体を、立て直しましょう」


 僕は、滋養のある薬草と、乳の出を促す薬草を、選んだ。後者は、昔から、乳の出ない母親に使われてきた草だ。人の母親にも、山羊の母にも、同じように効く。これを、よく煮出して、母山羊に飲ませた。それから、栄養のある餌を、たっぷりと。


 弱った母体を、内側から養う。あの、リサの産後の手当てと、同じ考え方だった。母が元気にならなければ、乳は出ない。だから、まず、母を養う。


 数日して、母山羊は、目に見えて元気を取り戻した。痩せていた身体に、肉がつき、毛づやも戻ってきた。そして、張ってきた乳房から、子山羊が、ごくごくと、乳を飲みはじめた。


「出た! 乳が、出るようになった!」


 おかみさんが、手を叩いて喜んだ。子山羊は、母の乳を、夢中で飲み、みるみる、元気になっていった。小さな尻尾を、嬉しそうに振っている。


「先生は、人だけじゃなく、山羊の母乳まで出させちまうのかい。たいしたもんだ」


 僕は、少し笑った。


「乳を出すのは、母山羊の力です。僕は、その力が戻るよう、母山羊を養っただけですよ」


 乳の出を促す草は、人の母親にも使える。それを知っていたのは、ハンナ婆さんの教えのおかげだった。宮廷では、乳母の乳の出が悪いとき、この草を使ったのだという。失伝した知識の一つひとつが、こうして、辺境の暮らしの中で、生き返っていく。


 人も、牛も、山羊も。命を育む仕組みは、根っこのところで、繋がっている。一つの知識が、種を越えて、役に立つ。学べば学ぶほど、その繋がりの妙に、感じ入った。


 子山羊が、元気に育つ。それは、村のささやかな、けれど確かな、喜びだった。来年には、この子山羊も、乳を出すようになるだろう。命が、また命を繋いでいく。その手伝いができたことが、僕には、嬉しかった。次は、村の鶏が、卵を産まなくなったという話を聞いている。


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