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第32話「冬の関節」

 冬が深まると、村の年寄りたちが、口々に、節々の痛みを訴えるようになった。


 寒さが厳しくなると、古傷や、年老いた関節が、うずく。指が思うように曲がらない、膝が痛んで歩きづらい、朝、手がこわばって動かない。一人や二人ではない。冬の冷えは、村の老人たちみなを、等しく苦しめていた。


「これは、一人ひとりに薬を出すより、まとめて手を打ったほうがいい」


 僕は、そう考えた。同じ原因で、同じように苦しむ人が、大勢いる。ならば、その大勢に届く方法を、考えるべきだった。


 関節の痛みの元は、冷えだ。冷えて、血のめぐりが滞り、こわばる。だから、温めて、めぐりを良くしてやれば、痛みは和らぐ。ガレオの足を治したときの、あの考え方が、ここでも生きた。


 僕は、温め根と、血のめぐりを助ける山藍を使った、温め薬を、たっぷりと作った。一人分ずつではなく、村の年寄りたちみなに行き渡るよう、大きな鍋で。以前、煎じ薬を三つの鍋でいっぺんに仕込んだ、あのやり方を思い出しながら。


 この温め薬は、二通りに使えるようにした。一つは、湯に溶いて飲む、内側から温める煎じ。もう一つは、布に染み込ませて、痛む関節に当てる、温湿布。冷えの度合いや、痛む場所によって、使い分けてもらう。


 それから、薬だけではなく、暮らしの工夫も伝えた。


 朝、起きたら、すぐに動かず、布団の中で、ゆっくり手足を動かして、身体を温めてから起きること。痛む関節を、冷やさないよう、羊毛で巻いておくこと。湯を沸かしたら、その湯気で手を温めること。薬で痛みを抑えるだけでなく、そもそも、冷やさない暮らしをすれば、痛みは、ずっと軽くなる。


「先生、あんたの温め薬を飲むと、芯から、ぽかぽかするよ。指が、動くようになった」


 ヤニおじいが、しわだらけの手を、握ったり開いたりして見せた。あの、目を手当てした老人だ。曲がりにくかった指が、ずいぶん、滑らかに動いている。


「歳には勝てんが、痛みが和らぐだけで、冬が、ずっと楽になる」


 村の年寄りたちが、温め薬を手に、口々に礼を言ってくれた。冬は、年寄りには、つらい季節だ。寒さで動けず、家にこもりがちになる。けれど、痛みが和らげば、外にも出られる。人と会い、話し、笑える。薬は、ただ痛みを取るだけでなく、その人の冬の暮らしを、明るくする。


 一人の痛みを取ることから始まった手当てが、村じゅうの年寄りを、温めるものになった。ミクロから、マクロへ。一人のために考えた薬が、多くの人を支える形に育っていく。その手応えが、僕は、好きだった。


 ハンナ婆さんにも、いちばん上等な温め薬を、届けた。背中の具合は、すっかり良くなっていたが、冬の冷えは、年寄りの大敵だ。婆さんは、温め薬を飲んで、「極楽、極楽」と、目を細めていた。


 村の冬が、少しだけ、暖かくなった。僕は、それで、充分だった。次の冬までに、もっと効く温め薬を、もっとたくさん作れるよう、温め根を、来年は多めに育てよう。畑の隅に、その区画を、増やしておかなければ。


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