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第24話「火傷の手当て」

パン焼きのカミルが、左の前腕に、ひどい火傷を負った。


 村の竈を預かる、気のいい若者だ。朝まだ暗いうちからパンを焼き、村じゅうの腹を満たしてくれる。その日は、焼けた鉄板を運ぶとき、手元が狂って、熱い縁に腕を押し当ててしまったのだという。


 ニナが、青い顔をしたカミルを連れて、駆け込んできた。


「ロイさん、早く! カミルが、火傷を!」


 カミルの前腕は、手首から肘の手前まで、赤くただれ、ところどころ、水ぶくれができていた。本人は、痛みに脂汗を浮かべ、歯を食いしばっている。


「まず、冷やします。すぐに」


 火傷の手当ては、何をおいても、冷やすことが先だ。熱は、その場で止めなければ、皮膚の奥へ奥へと、じわじわ染みていく。表面が冷えても、内側で焼け続けるのだ。僕は、カミルの腕を、井戸の冷たい水に、長いあいだ浸からせた。


「冷たい……けど、楽になってきた」


 充分に熱を取ってから、ようやく、薬の出番だった。


 火傷は、段を追って手当てする。これは、ハンナに教わった、層を重ねて効かせる三層の薬の考え方と、同じだった。まず、炎症と熱を鎮める層。次に、傷ついた皮膚を、外の汚れから守る層。そして、新しい皮膚の再生を助ける層。順を追って、効かせていく。


 最初に、月見草の冷やす力を使った。よく冷えた月見草の汁を、ただれた肌に、そっと含ませる。火照りが、すうっと引いていく。次に、血止め草の透明な汁。これが、傷の表面に薄い膜を張り、汚れや、ばい菌の侵入を防ぐ。水ぶくれは、潰さないように気をつけた。あれは、傷を守る、天然の覆いだからだ。


 最後に、癒し草を、ごく薄くのばした軟膏。これが、新しい皮膚が生まれてくるのを、後押しする。ただし、厚く塗りすぎてはいけない。傷も、息をする。塞ぎすぎれば、かえって膿む。薄く、薄く。


 これらを、清潔な布で、ふんわりと覆った。きつく巻いては、血のめぐりを止めてしまう。傷を守りつつ、空気は通す。その加減が、肝心だった。


「痛みは、どうですか」


「……さっきまでの、焼けるような痛みが、嘘みてえだ。じんじんはするけど、我慢できる」


 カミルが、ほっと息をついた。


 火傷は、手当てを誤ると、ひどい痕が残る。だから、毎日、薬を取り替えることにした。傷の様子を見ながら、炎症が引けば守りの層を厚く、皮膚が再生しはじめれば癒しの層を厚く。傷の治り具合に合わせて、薬の配分を変えていく。


 幾日も通ううちに、カミルの火傷は、目に見えて良くなっていった。水ぶくれは自然に引き、赤みは薄れ、その下から、薄紅色の、新しい皮膚が現れてきた。痕も、思ったより、ずっと軽く済みそうだった。


「これなら、また竈に立てる。村のみんなに、パンを焼いてやれる」


 カミルは、再生してきた自分の腕を、しみじみと眺めた。


「火傷ってのは、痕が残るもんだと思ってた。それが、こんなにきれいに治るなんて」


「冷やすのが、早かったからです。火傷は、最初の手当てで、その後が決まる。もし、また誰かが火傷をしたら、何をおいてもまず、水で冷やすこと。それを、村のみんなに伝えてください」


 カミルは、大きく頷いた。


 知識は、一人で抱えていても仕方がない。火傷をしたら、まず冷やす。その簡単な一事を、村じゅうが知っていれば、僕がいないときでも、誰かの腕が、誰かの肌が、守られる。薬を配るのと同じように、知恵を配る。そのほうが、ずっと多くの人を、救えるのだ。


 層を追って手当てする考え方は、火傷にも効いた。きっと、ほかの傷や病にも、応用できるはずだ。一つの考え方が、いくつもの場面で生きてくる。学んだことが、こうして繋がっていく手応えが、僕には何よりの喜びだった。明日は、村の子供たちに、火傷をしたときの冷やし方を、教えに行こう。


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