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第11話「薬草園を広げる」


 朝、畑へ行くと、もう人が集まっていた。


「先生、今日は開墾だってな。腕が鳴るぜ」


 ガレオが、鍬を肩に担いで笑った。足はすっかりいい。あの古傷で引きずっていたのが嘘のようだ。


「あたしも手伝う! どこ掘ればいいの?」


 ニナが袖をまくる。その後ろには、ヨナスが、ばつの悪そうな顔で立っていた。


「……腰が、楽になったからな。たまには、体を動かさんと、なまる」


 トムの母も、近所の女たちと水や道具を運んできてくれた。


 一人で石を拾っていた、あの最初の日を思い出す。あのとき、この荒れ地には僕しかいなかった。


 薬で返してきたものが、今、人の手になって返ってきている。


 ◇


 開墾は、やはり骨が折れた。


 ガレオが力任せに鍬を振るう。硬い土がごろりと起きる。ニナと女たちが出てきた石を拾って運ぶ。ヨナスは慣れた手つきで土の塊を崩していく。


 僕一人なら何日もかかった広さが、昼を過ぎる頃には見違えるほど広がっていた。


 起こした土に、顔を近づける。深い、黒い匂い。指で握ると、ほろりと崩れる。最初の畝を作ったときと同じ手応えだ。


 ──いい土だ。


 何度味わっても、この瞬間がたまらなく好きだった。


 ◇


 広がった畑に、僕はいくつもの薬草を植えていった。


 山藍の苗を、日陰になる隅へ。温めの根を、水はけのいい高い畝へ。それぞれの草には好む土も日当たりも違う。その性質に合わせて場所を選んでいく。


 これまでは、薬草の多くを、自生のものやハンナに分けてもらったものでまかなってきた。けれど、それではいつまでもよそ頼りだ。採りつくせば終わるし、季節が過ぎれば手に入らない。


 村の薬を、村の土から、自分でまかなう。そのためには自分で育てるしかない。


 ◇


 最後に、僕は家からあの鉢を持ってきた。


 月見草だ。


 王都を出るとき、たった一つ持ってきた草。旅のあいだ何度も枯らしかけ、辺境の窓辺でずっと一緒に暮らしてきた。トムの軟膏のとき、その種が初めて人を救った。


 もう、窓辺の鉢では、狭すぎる。


 僕は、畑の一角にていねいに穴を掘った。鉢をそっと傾ける。根を傷めないよう、土ごとまるく抜き取る。白い根が、鉢の形のままぎっしりと張っていた。


 その根を、新しい土の穴に静かに収める。隙間に、やわらかい土をかぶせ、手のひらで軽く押さえた。


 最後に、水をやる。


 月見草が、辺境の土に初めて根を下ろした瞬間だった。


 ──おまえも、ここに根を張るんだな。


 ふと、自分のことのように思った。王都を追われ、何もないこの村に来て。それが今、畑を広げ、村の人と土を耕している。


 僕も、この草も、もう鉢の中の根無し草じゃない。ミルドの土に根を張って生きていく。


 ◇


 日が暮れる頃、開墾を終えた畑を、みんなで眺めた。


「広くなったなあ」


 ガレオが満足げに汗をぬぐう。


「ここが、ぜんぶ薬草でいっぱいになったら、すごいね!」


 ニナの言葉に、僕はうなずいた。


「ええ。村じゅうの薬を、ここでまかなえるように」


 けれど、一つ気がかりもあった。冬だ。寒さに弱い草は、辺境の冬を越せない。せっかく根づいても、雪が来れば枯れてしまう。


 ──季節を、越えて育てる方法は、ないだろうか。


 ガラスの壁で日の光を集めて、中だけを暖かく保つ小屋。書庫で読んだ、温室、という仕組みが頭をよぎった。


 やりたいことは、まだまだ尽きない。


 次は、冬でも薬草を育てられる、温かい小屋を作ろう。


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