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3本目:便利だよね。え? そうでもない? そうなんだ


「そろそろ〜じゃないの〜」


バサッ、バサッ!


意気揚々と草木を斬りながら歌う貴子。

歩き始めてから、20分が経過しようとしていた。


確実に傘で飛んだ方が早かったぞ貴子。


「お、お?」


ついに、貴子の目の前から木々が消えた。


貴子は森の中に佇むその建物の招待に、目を丸くした。


「……コンビニ?」


どういう訳か、

そこにはコンビニエンスストアが建っていた。


(こんなところにあっても、売り上げでなくない……?)


それ以前の問題である。


「まあでも、らっきー」


貴子は深く考える事を止めた。

いや、そもそも初めから考えてはいないが。


コンビニの入り口に向かっていく貴子。

風除室の扉を開け、自動ドアの前に立った。


〜♪


「いらっしゃせ〜……!?」


レジにいる青年が、貴子を見て目を大きく見開いた。


青年の手元には、分厚い漫画本。

恐らく、暇を持て余していたのだろう。

本は端々がボロボロになっていた……


何故、店員がいる。


「えー! 人に会うとか超久しぶりなんだけど!!」


青年は目を輝かせて、ドタバタ音を立てながら貴子に駆け寄った。


「お兄さん、ここどこですか」


「俺も分かんない! あっはははー!」


青年は陽気に笑った。


「お兄さんも急にここに来たんですか?」


「そうそう! 夜勤中にさ、ちょーっとうとうとしちゃって。お客さんいないからと思って数分の仮眠をしたら、いつの間にか森の中ってね」


どうやらこの青年も、貴子と同じくいつの間にか転移していたようだ。


「立ち話もなんだし……ささっ、バックヤードでお茶でも飲みながら話そうよ」


「年頃の乙女ですが」


「!? なにもしないって! こーみえて俺、真面目な人間だよ?」


「自称真面目は信用が……」


「じゃあじゃあっ、ここに! ここにイス持ってくるから!」


貴子が外に出ようとした途端、青年は慌ててバックヤードへと入っていった。

程なくして、青年は折りたたみのイスを一つ抱えて戻ってきた。


ガチャガチャッ!


「はいっ、レジ前! 俺はレジの内側に座るからさ、これで安心でしょ?」


「ふむ」


青年は貴子用にイスを設置すると、即座にレジの内側へと戻っていった。


「あっ、好きな飲み物取っていいよ。俺の奢り〜」


イスに向かおうとした貴子に、青年はコンビニの奥にある冷蔵庫を指差した。


「お言葉に甘えて〜」


貴子は踵を返して冷蔵庫へ向かうと、迷わずお茶の中で一番値段が高い商品を取って、青年のいるレジへと戻っていった。


「はい、かして」


青年が貴子に手を差し出した。

貴子がお茶を手渡すと、青年はレジに視線を移して、


ピッ。


バーコードリーダーを手に持ち、お茶のバーコードをスキャンした。

そして自身のポケットからスマホを取り出し、手慣れた様子で精算をした。


「はい」


「いただきまーす」


貴子は青年からお茶を受け取ると、一切の遠慮なく蓋を回し開け、ぐびぐびと飲み始めた。


「ぷはー」


「ははっ! いい飲みっぷり〜」


一気に半分近くのお茶を飲んだ貴子と、その様子を見てけらけら笑う青年。


此奴らは何故、こんなにも動じないのだ……。


「いやぁ、ここに来て早一ヶ月近く。

 訪れるお客さんは動物ばかりだし、久々に会話ができて俺うれしいよ」


およよと涙を拭う仕草をする青年。


「お兄さんコンビニ弁当でやり過ごしてたんですか? なんかぜーんぜん、減ってなさそう」


背の言葉を無視して、貴子は弁当コーナーを見つめた。


「それがさ! なんか知らないけど1日経つと補充されてるんだよね。

 しかも、賞味期限も更新されてんの」


「えー? もうここに住めるじゃん」


「ははっ! 住んじゃってるよね!」


極々普通の、学生同士の会話。

だが、その内容と状況は全く普通ではない。


「お風呂は〜?」


「コンビニの裏手に湖があんのよ。

 だから昼間あったかい時間にそこで洗ってる〜。うち、お泊まり用洗剤も置いてるしね」


「うわぁ、環境汚染」


「ふっふっ、ちゃんと別に穴掘ってそこに流してますよお客さん」


「お兄さん、意外とちゃんとしてる〜」


「だぁから真面目だって言ったじゃん〜」


和気あいあいと会話を続ける二人。

そろそろ、自己紹介でもしたらどうなのだ。


「ところで、キミの名前は?」


狙い澄ましたかのように、青年が尋ねた。


「本条貴子」


「貴子ちゃんね。俺は梶賀元晴かじか もとはる〜。ピッチピチの26歳フリーター」


青年もとい元晴は親指と人差し指でハートを使ってウィンクをした。


「おじさん臭がすごい」


「あっ! 全世界の26歳以上を敵に回すよその発言は!」


「梶賀さんの言動がおじさん〜」


元晴は貴子の「おじさん」という言葉に、僅かにショックを受けたようだ。


「そういう貴子ちゃんはいくつなんだよ〜……」


「21」


貴子は短く答えた。

元晴は貴子の歳を知るや否や、垂れ下がっていた口角をにんまりと上げた。


「貴子ちゃんは歳の割に幼いんじゃない?」


何故喧嘩を売った元晴。

5つも歳下の相手に情けないぞ。


「こんなところで、外の顔つくってもね〜」


全く意に返していない貴子。


どうやら、貴子の方が大人だったようだ。

元晴は再び眉を下げた。


「商品は、毎日決まった時間に入れ替えられてるの?」


貴子は早くも敬語を使うのを止めたようだ。

貴子の問いに、しょげたままの元晴が答えた。


「うん、毎朝4時ごろに新しくなってるよ」


「へ〜。誰かが品出ししてるみたい」


「そうなんだよー!」


元晴は急に元気を取り戻した。

興奮した様子で語り始める。


「俺もここがどこか分かんないと言いつつ、初めはちゃんと考えてみたんだよ。で、まあ異世界だろうなって。それで毎日商品入れ替わることに気づいたあと、一つの仮説を立ててみたわけ!

 『冷蔵庫、元の世界に繋がってる説』

 その仮説を立ててすぐに冷蔵庫の中で朝4時を待ったんだけどさぁ、俺がいた場所の商品が補充されないだけで何も変わりなし!

 数日間風邪ひいただけだったわ!

 あとATMも使えるから何とか入れないか考えたんだけど、さすがにお金出なくなったら困るからまだ試せてないんだよねー」


元晴は堰を切ったようにこれまでのことを話し始めた。

こんな男だが、初めは色々と試行錯誤を繰り返していたらしい。


「はっ!」


元晴は何かを思い出したかのように立ち上がった。

貴子はレジ横に置いてあった小さいお菓子を手に取りながら、その様子を眺めていた。


ぺりっ。


ぺりっ、じゃない貴子。

店員の前で精算前のお菓子を食べようとするでない。


「そういえば、今日給料日じゃん!」


元晴はそう言って、軽い足取りでATMへと向かっていった。


「今月もちゃんと働いたし、24時間フル出勤だから、とんでもない額だぞ〜……!」


元晴はにやにやと口を緩めてATMの操作をしている。


ぴっ、ぴっ、ぴっ、ぴっ。


暗証番号を入力し、一拍。



「…………は?」



元晴の顔から、笑顔が消えた。


「1円も……入ってない……」


むしろ何故、給料が発生すると思っていたのだ。


元晴はガクッと膝をついた。


「こんな場所で……生活用品を布団にして夜を過ごし寒空の下体を洗いそれでも働き続けた結果が……」


「ただ働き」


貴子がぼそっと呟いた。


(……ん? そもそも、それ働いてる?)


幸いと言って良いのか、貴子の呟きは元晴の耳には入らなかった。


「……っひ」


元晴は、泣き始めてしまった。


「あんまりだ……。こんな仕打ち、あんまりだぁああ!」


大の大人が人目も憚らず泣き喚く中、

貴子は二つ目のお菓子に手を伸ばした。


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