第8話 持ち帰った違和感
ルミリアが自分の3倍も大きなプルボータルを魔法で浮かせ、3人で第14地区に戻る。来た時と同じように壁を登り隊舎まで歩いていく。
隊舎に着くまでに自警団の団員と、何度もすれ違う。皆一様にしゃがみ込んだりして花を探している。
軽く挨拶しながら歩く途中、ボリシュがケッシとワリーと一緒にいるところに遭遇。
「あっ!ボスー!シュンリとニコレもー!それプルボータル?今捕縛してきたの?」
「あっ、パイセン、待てっ」
とても分かりやすいツンツン頭のワリーが、ルミリア達の姿を見つけ、立ち上がる。大声で質問しながら走り出そうとしたところで、ケッシに無理矢理止められる。
ワリーは、典型的な脳筋だ。話はよく聞いてくれるが、理解していない事が多い。見て真似したり、感覚でする事が得意。あと、頑張れば大体なんとかなると思ってる。
「お疲れ様。どんな感じ?」
「そっちこそお疲れ様。でかいな、そのプルボータル。花については、まだ伝達魔法では1本しか報告を受けていない。あと、そろそろ雨が降りそうだから、中間報告含めて14隊の隊舎に戻るかな」
「そうだね」
空を見上げると、さらに雲は暗くなり、雨の匂いも強くなっている。
少し早歩きし、ルミリア、シュンリ、ニコレ、ボリシュ、ケッシ、ワリーの6人が第14警備隊の隊舎に着くと、ちょうどよく雨が降り出す。
「あっぶねー。濡れるところだったぜ。この後って何するんだっけ?」
ワリーの言葉にボリシュが疲れた顔をする。
「はぁ、さっきも言ったように中間報告と、多分午後また同じ作業だよ」
「へぇ〜。お昼はどうするんすか?」
「この後14隊で出してくれるってさ。俺とボスは報告行くから、お前らは先食ってこい」
その言葉にシュンリとニコレ、ワリーは年下のはずのケッシに手綱を握られながら迷いのない足取りで食堂に向かう。
緊急で選ばれた第21警備隊の隊舎以外は、基本的に隊舎のつくりが一緒なので、見習いになりたての団員以外は他の隊舎に行っても迷う事はない。
「プルボータル捕獲して来たん?」
「そうなの!変異体なんだー!」
「なんかあのプルボータル変じゃなかった?一瞬ヴィスクラに見えたんだけど」
「変異体なんだから変なのは当たり前だろ、ケッシ」
「いやいやそういう意味じゃねぇよ」
「ケッシの言う通りだよ!さっきもニコレとボスと変じゃね?って話してたの!」
「うん、ヴィスクラって、単体で行動しなかった、はずだし」
4人でルミリアの連れてきたプルボータルについて話しながら歩いている様子を、ルミリアとボリシュで見送ってから2人も歩き出す。
急いで走ってくる団員達を横目に見ながら、プルボータルを適当な場所に置いて大広間に行く。
大広間には恐らく地下迷路関係の担当の団員と思われる者が花を集めて、処置を施している。
第14警備隊は地下迷路のある第13地区の隣なので、地下迷路関係の許可のない持ち出しや違法取引が多く、担当の団員も常駐している。
大広間の中の一段高くなっているところでは地図に見つかった場所などをまとめているのを眺めて立っているディリンがいるので、隊長のルミリアと副隊長のボリシュだけそこに向かう。
「今のところ、どのくらい見つかりました?」
「報告を受けた限り5本、ただ伝達魔法を使えねぇのもいるから、全員集まったらまた増えるかも。そしたらこの地図を4隊まで持っていって情報のすり合わせだな。傾向としては、第4地区との境目に近いな」
「確かに」
ルミリアが地図を見ながら話しかけると、ディリンも同じように目を合わせず地図を睨みながら答える。
地図にはペンで記したであろうマークがあり、そのどれもが第4地区と第14地区の境目だ。さらに詰めれば第13地区よりでもある。
「この後はそっちはどうするんだ?」
「捕縛したプルボータルなんですけど、変異体とはいえ変なところが多くて、このまま研究室に持って行こうかと。一緒に花も持っていきましょうか?」
「じゃあ頼む。こっちは4隊とやりとりしとくから。そしたら、また捜索を再開する」
「分かりました」
一旦ディリンと距離を取り、ルミリアとボリシュで方針を固めるために向き合う。
「研究室、誰が行く?」
「ヨリセはー、……さっき巡回に行ったからそのまま休みか。どうしようか」
研究室に喜んで行くわけではないが、嫌がらない唯一の隊員のヨリセは、こういう日に限っていない。
あと慢性鼻炎の奴も、今鼻炎の奴もいないので、かなり悩む。ディリンが快く花を頼んだのも、研究室には行きたくないからだし。
「よし、全員戻ったらじゃんけんしようか」
「いや、花とかまだ未知数だし、プルボータルも生きてるし、万が一対応出来る隊員じゃないと、困るよ」
その時、ぐるっ!と勢いよくディリンの顔がこちらに向く。
「おい!プルボータルが生きてるって、どこに置いてきた?!」
「え?適当なとこに……」
「馬鹿か!生きてるなら檻に入れとけ!逃げ出したらどうするんだ!」
「いや、檻の場所知らないし……」
ルミリアがすっとぼけてかわせないかな〜と考えながら適当に返事をする。すると、ボリシュがギロリとディリンの事を睨む。
「うちのボスよりも弱いくせに、ボスが捕まえているプルボータルが逃げ出すか心配か?先に自分の鍛錬をもっとしたらどうだ?」
ビクッと勢いが一気に沈むディリンを見て、ルミリアは便利だなーとか考えていると、ボリシュに背後からトドメを刺される。
「そういう事だから、今プルボータルを捕縛しているボスが研究室まで行ってきて」
「何がそういう事なんだよ!」
つい怒鳴りながら、実際にC級のよく分からない変異体の対応について、1番の適任は自分かと納得してしまったので、花の処置をしている所まで行き、隊員が全員戻ってくるまで待つ。
ボリシュは手をヒラヒラ振っている。ウザい!
さっきの会話を聞いていたのだろう、担当の方が声を掛けてくれる。
「えーと、14隊の隊員はこれで全員ですね。21隊は全員いますか?」
ルミリアが大広間を見回しても小柄なので見えるわけもなく、めんどくさいので連れてきた隊員全員に伝達魔法で第14警備隊の隊舎に戻ってきていない奴は返事しろ、と送るが誰からも返ってこないので、全員いると判断する。
「います」
「それじゃあ、これお願いします」
6本の処置済みの花を手渡され、プルボータルを回収してから隊舎を出る。
雨はすぐ通り過ぎるかと思っていたが、本降りになっていて、先ほど見た時よりも酷くなっている。
カッパを持ってくるのを忘れたな、と思い出し、仕方なく振ってくる雨を風魔法で弾き、地面の水たまりを水魔法で集め、濡れないように走っていく。
途中第4地区に入った所でカッパを着て走る団員とすれ違う。
自警団で支給されるカッパは魔道具の一種で、ルミリアが今使っている魔法を、留め具にはまっている魔石に含まれる魔力が切れるまでは自動的に行ってくれる優れ物。
いいなぁ、と考えながら身体強化もしながら走っていると、あっという間に第4地区も超えてすぐに本部に到着する。




