第7話 変異体のプルボータル?
変異体は通常の個体とは明らかに違う個体だ。先ほど大型と言っていたので今回のはサイズが本来よりかなり大きいのか。
プルボータルは四足歩行でルミリアほどのサイズをした猫科の動物に似ている。得意属性は火。素早く動くため倒しづらいのが特徴。
今回はC級の魔物という事で、討伐よりも捕獲が優先される。
「う〜ん、それなら……」
手を顎に当て少し考えながら話し出すルミリア。
「シュンリとニコレを連れて行こう。今日の班どうなってたっけ?」
2人は同期でまだ見習いを卒業したばかりの新人だ。めちゃくちゃ元気で好奇心旺盛なシュンリと、気弱で心配性なニコレは正反対だが、よくシュンリがニコレを振り回している姿を見るので、仲は良いのだろう。
2人とも同期の中ではトップクラスの成績だったので、当然見習いの時に魔の森と接している地区に配属されていただろうが、まだ経験は浅い。
それに変異体なんて一年に3体ぐらいしか目撃されないし、討伐、捕獲する機会となるとさらに少なくなる。こういう機会は逃してはいけない。
ルミリアとボリシュで変更する班について話している間、ディリンは遠い目をして僅かにブルブル震えていた。
(え?いやなんで?ここうちの地区だぞ?勝手に決めんな?それに変異体との戦闘経験は魔の森と接するうちの新人に経験させたいんだが?そちらのどなたか存じ上げない方を勝手に連れて行くとか言わないでほしい)
すごく言いたい。声に出して全部言いたい。だがかつてのパシリは今も逆らう事が出来なくて、心の中で叫ぶのみ。
「じゃあそれで。なるべく早く戻ってくるようにするから」
ルミリアとボリシュが立ち上がり、ディリンも2人の視線で立ち上がってしまった。そうして隊長室から出て、ようやくディリンは隊長としての意地をハッと思い出す。
「いや、あのさぁ、14隊の隊長オレなんだけど……」
「でも私が倒した方が人数少ない上に早く終わりますよ。その方がそちらの隊員を調査に割けるでしょう」
当たり前でしょう?という顔をしたルミリアと勿論いいよな?というボリシュの脅し顔によって、少しの間を持ってから仕方なくディリンは頷く。
正直ルミリアはどうでもいいが、ボリシュさんに抵抗するとかそういうのは無理である。そう見習い時代に教育されてしまったので。
隊舎の前の少し開けた場所に第21警備隊の隊員達が自由に待っている。
「シュンリとニコレ!2人は私と一緒に魔物の捕獲に行くぞ!あとは熊の指揮に従うように!」
いつもよりかなりルンルン気分のルミリアは、スキップでもしそうな勢いで隊員達に近付き、嬉しいことを隠しもしない様子で指示を出す。
「はーい!/は、はいぃ」
元気よく返事をするシュンリと対照的なニコレは今にも泣きそうだ。シュンリはそんなニコレの手を強引に挙げて返事をさせる。
「あとは任せた!」
そう言ってシュンリとニコレを連れてスタスタとルミリアは歩いていく。
ため息を吐きながらボリシュはめんどくせぇ、と心の中でだけで呟き、隊員を集める。
ルミリシンは街を壁で囲っていて、その形は上から見ると円になっている。
円の中心を第1地区として、その周りを第2〜5地区、さらにその周りを第6〜20地区が囲っている形だ。
第6〜20地区の内、壁に門が設置されている地区は第7、9、10、12、13、14、16、17、19、20地区の10地区。
その内魔の森に接しているのが第13、14、16、17、19、20地区で、魔物の侵入を防ぐために基本的に開放していない門である。
その為開閉に時間がかかるので、許可だけもらってルミリアとシュンリとニコレは壁を飛び越えて森に向かう。
「うぅっ。今日は花の回収じゃなかったのぉ。なんでっ、魔物の捕獲なんかっ」
ニコレがもう泣き言を言っている。戦いが好きじゃないというが一体何故自警団に入っているのか。甚だ謎である。
「魔物はプルボータル。そんなに強くないけど、変異型が出たって事で、今日は勉強ね。変異体は滅多に見られるものじゃないし」
「はーい!」
「よ、よりによって変異体なのぉっ」
シュンリとニコレの態度があまりに対照的であるが、2人とも優秀である事には変わりなく、ルミリアが先に魔法で壁に登ると、しっかり付いてくる2人。
「それじゃ、始めるよ」
壁を降りて魔の森側に着き、3人の中で1番魔力量の多いルミリアが魔力探知の魔法とそれを共有するために伝達魔法を応用する。
今いる場所から大体西に500メートル先。プルボータルらしき魔力反応あり。
「まずはその姿を確認するよ。今回は大型らしい」
頷いた2人を見て、プルボータルの元に向かう。
管理されているわけでもない森の中は背の高い植物が多く、掻き分けたり携帯している武器で切り裂きながら進んでいくと、プルボータルがいた。
「うぉっ、でっか!3倍くらいあるんじゃね」
シュンリの言葉通り、本来のルミリアと同じぐらいの背丈のプルボータルとは違い第21警備隊の大男達なんかよりも大きい姿をしている。
「じゃあ、捕獲するよ」
「「承知」」
真ん中をボスにして左右から動き、三方向からプルボータルを囲む。
プルボータルは周囲の空気に敏感な魔物なので、囲んだ時点で周りへの警戒が強まる。体勢を低くして周りを見回している。
得意属性が火属性なのでその対になる水属性の魔法を放つ準備をする。
魔法を放つ。
その瞬間、プルボータルと目が合う。
深い藍の瞳が濁っている。
「?」
一瞬の疑問の後、ルミリアの放った水魔法をプルボータルは軽々と避ける。
ルミリアの魔法が不発に終わったと見てとるや否やシュンリが水魔法を、ニコレが土魔法をそれぞれ放ち、それに合わせてルミリアも風魔法を放つ。
分厚い泥がプルボータルの顔以外を多い、ボスの風魔法によって急速に水分を失って固まっていく。
一瞬動きの止まったプルボータルに今度こそ水魔法で拘束しようとしたところで、プルボータルが体を震わせると、土が泥になり綺麗に全て落ち切ってしまう。
(プルボータル得意属性は火。水魔法を使った話なんて聞いた事がない!)
魔物は得意属性以外の魔法を使わない。使えるのかどうかはまだ研究の途中で分からないけれど。それでも変異体の得意属性は変わらない。
そのはずなのに。
得意属性が水であると仮定して、対になるのは火だが拘束には向かないので、風魔法で不可視の縄を作り、放つ。
次こそ不可視であるのと、しっかりと集中して放った風魔法によってプルボータルを捕まえる。
ルミリアの後に念のためニコレも風魔法で上から拘束して、3人はようやく大型のプルボータルに近付く。
「こいつ、本当にプルボータル?」
いつも通り戦っている最中に冷静になったニコレが1番最初にプルボータルを観察して、少し冷たい響きを持って言う。
拘束されてもなお歯を剥き出しにして威嚇を続けるプルボータルの体を改めて観察してみると、ニコレの言う通りプルボータルの特徴でないものがたくさん出てくる。
「プルボータルの近縁に角の生えた魔物はいないはずなんだけど……」
頭の長い毛を掻き分けると小さな角が現れる。
他にも胴体と同じくらいの長さのある尻尾や、小さすぎる瞳孔。
変異体は体の大きさだけでなく近縁の魔物の特徴も持っていたりして、先祖返りと呼ばれる事もある。けれど、プルボータルの近縁にこれらの特徴を持つものはいなかったはず。
「とりあえず、予定通り生きたまま研究室に連れてくのが妥当かな。専門家に任せよう」




