第6話 皺寄せは大体副隊長は
ルミリアの言葉でようやく落ち着きを取り戻した第21警備隊の隊舎で、やっと会議が行われる。
「以上で説明は終了だ。班の割り振りは14隊で行うから、着替えてすぐ向かおう。今夜夜勤だった者は休むように」
一応第21警備隊は巡回を基本業務としているが、他の隊と違って特定の地域の警備隊ではないので巡回を必ず行わなければならないという事もなく、急な仕事には基本的に全員動く事が出来る。
ゾロゾロと隊長室兼会議室兼休憩室から隣の更衣室に隊員が移動するのを眺めながらルミリアは副隊長2人に向き直る。
「レンクだけは残って、今巡回に出ている隊員に状況の説明を。ただそいつらは全員今日はもう休むように言っといて。明日も働いてもらうから」
「分かった」
「ボリシュは私と一緒に14隊に行くよ。あいつ嫌がらせしてくるだろうし」
「あぁ、ディリンな。俺が一緒にいれば滅多な事はないか」
もう1人の副隊長はボリシュ。焦茶の髪を刈り上げている大柄な男だ。今はだいぶ丸くなったが昔は自警団の中でも不良だったらしく、見習いだったディリンをパシリにしていたので、ボリシュがいると要求を通しやすくなる。朝は隊長しか呼ばれなかったので連れていけなかった。
少し遅れて更衣室に入り、魔道具を身に付けてから外に出ると、風がピュウッと吹く。空も曇っていて、多分午後には雨が降るだろう。
「うぅっ。前髪が崩れちゃ〜う。もっと風弱くしなさいよぉ〜!」
テレイが前髪を押さえて天気に向かって文句をいう。
ただしここには前髪を気にしない男達と分厚い前髪で僅かに揺れるだけのルミリアしかいない。誰か共感してくれないかとテレイは周りを見回すが、期待のミレシアンはワックスで頑丈に固めているので風にはびくともしていない。
むぅ、と唇を尖らせているテレイを宥めるためにルミリアはテレイの隣に並び、話しかける。
「まあまあ、この時期は仕方ないじゃん。私も湿気で髪がうねっちゃうし」
「それに関してだけど、私は絡むまで行くのよぉ〜!」
火に油だった。
そこにオケニミとノエの会話が入ってくる。
「僕もテレイと全く一緒だな〜。癖毛は大変だよね〜。ノエはストレートだけど、何かやってるの〜
?」
「……特には何も。困った事ないから」
ダイナマイトに火魔法だったかもしれない。
いつもニコニコのオケニミまで珍しくムッとし、2人はコソコソ話し出す。
「あれは私達の敵ね。人の苦労も知らないで」
「うん〜、流石に失礼すぎる〜」
しゃーっと猫さながらに威嚇する2人に対し、美少年の頬に、気まずそうに髪がかかる。別に俯いたわけではない。どうやら美少年は全てが演出になるらしい。そして本当に気まずそうな声をノエは出す。
「……今日、誰か班交代してくれないかな」
「ま、2人の地雷を踏み抜いたのはノエなんだから、大人しくこき使われてきな」
2人と今日の班が同じらしいノエはルミリアに背中を押され、トボトボと2人に近付いていく、
移動中、天気はさらに悪くなる。風が強くなり、雲もどんどん密集していく。空を見上げながらルミリアは呟く。
「ちょっとまずいなぁ」
「何がまずいんだい、ボス」
次にボスの隣に立ったのはボリシュ。第14警備隊の隊舎に着くまでに確認したい事があったらしく、近くに来ていた。
「あの花、まだ詳しい事が分かっていないからさ、もしこの時期に種子を散布していたら風で飛ばされる可能性があるし、雨が降ったら水路で遠くまで流される可能性もあるから。実際昨日の時点で花が咲いていたからちょっとあるかもって」
「確かになぁ。午後には降りそうだし、種子を風で散布しないやつだと祈るしかないな。そうそう、班分けについてなんだが……」
最悪の可能性も視野に入れながら、2人は詳しい情報の擦り合わせと班分けについて話し合う。
第14警備隊の隊舎に着く頃には、ルミリアの頭はいっぱいいっぱいになっていた。だが顔に出ないので誰も心配してくれなかった。
第14警備隊の隊舎に着いて隊長室に案内されると、ディリンが足を組みとても偉そうな態度で座っていたが、ボリシュの姿が見えた瞬間背筋を伸ばし優等生座りになる。
人によって態度を変えすぎだ、と内心イライラしているルミリアがディリンの前に座ると、チラチラとボリシュを見ながら話し出す。
「レンクはどうした?来ないのか?」
眉根を寄せて機嫌が悪いのを少しは隠そうとしたけど失敗したような様子で質問してくるディリン。
「流石に隊舎を空にするわけにはいかないので、留守を任せました」
そっけなくルミリアは答える。
ボスとディリンにはいくつかの因縁があるが、レンクがその1つである。
レンクは元々、ディリンが隊長になる際に一緒に第14警備隊の副隊長になる予定だった。だが、第21警備隊の創立の際にボスによって掻っ攫われた(ディリン視点)のである。
ルミリアに対しては当たりが強いが、自分の腹心になる予定だったレンクの事は気にかけているらしい。
「そうか。とりあえず分担についてだが、ちょうど森でC級の中でも強い魔物が出てうちはこれからほとんどの隊員が出払うから、そっちの隊員で調査していてくれ」
ルミリシンでは魔物を一般人でも倒せるE級から、死者を複数人出しながらやっと倒せるA級までの5段階で分けている。C級は集団であれば安全に対処できる程度の魔物だ。
第14警備隊は第21警備隊に比べてかなりの人数の隊員がいるが、地区全体をしっかり巡回しているので、魔物の討伐だけでほとんどの隊員が出払ってしまうのだろう。ディリンはルミリアが来るという事と全体の指揮のために残っているだけか。
そう考えながらボリシュはルミリアの様子を伺う。
なんかルミリアのせいで自分の仕事が増えそうな気がしたのだ。
「魔物は何が出たんですか?」
「大型のプルボータルだ」
嫌な予感が当たってしまったボリシュの顔から、すっと表情が消えた。
ルミリアが未成年で隊長になるにあたってはいくつかの条件があったが、そもそも許可が降りた理由は元々の強さが1番大きかった。
魔法と身体能力があまりにもずば抜けていたルミリアは、見習いの時に見習いが本来配属されることのない第19警備隊(通称、地獄の19隊)に配属、見習いを卒業した後も、魔の森に接していてさらに地下迷路があり自警団一仕事が多い第13警備隊に配属。
一対一で他の隊長と手合わせしても余裕で勝つくらいには強い。ディリンの事もコテンパンにしていた事がある。
「じゃ、私1人で倒してきますよ。プルボータルなら何度か1人で経験あるので」
つまり、C級ぐらいの魔物なら1人で倒せる実力者なのだ、ルミリアは。
そしてルミリアが魔物の討伐に行った場合、第14地区での第21警備隊の現場指揮はボリシュになる。
気を抜いたらため息を吐きそうなくらい嫌だ。上で指示を出すよりも現場で体を動かしていたい派なのだ、ボリシュは。こちらも顔に出ないので分かってもらえないが。
「いや、偵察班によると今回のは変異体らしい」
その言葉にボリシュもルミリアも眉を顰める。




