第4話 噂はもう広がっている
第1警備隊隊長室を出て、もう一度今日あった事を考える。
ルルによって未発見の植物が発見されて、それは地下迷路の植物とそっくりであって、未だ効能は分からない状態。
解析には1週間かかるらしい。だからまだ対策は分からないけれど、回収しないわけにはいかない。人手が必要になると思うから、明日は非番も呼ぼう。
一応直接手で触れたノエには経過観察をしっかりするよう言っておいたし、私とヨリセも体調をみておかないと。
「あ」
そういえば山岳遠征の話を伝え忘れていた、と思い出したボスは直帰の予定が隊舎に戻る。幸いにも隊舎は本部からそんなに離れていない。
隊舎が見えてくると、中から5人ほどまとまって出てきた。行ける人達で飲みに行くところなのだろう。
「あ!ボ〜ス〜!直帰じゃなかったの〜!」
手をブンブン振り、ちょっと足元も振らつきながら声を掛けてきた若者はケッシ。サングラスを頭に着け、制服もだいぶ着崩し、夕日に煌めいたピアスが眩しい。
ちなみに本人は痛いのが大嫌いなので穴は開けていない。ノンホールピアスだ。
「酔っ払いか」
「さっきクユがねぇ、うるさいです、ってお酒を飲ませたんだけどぉ、さらにうるさくなっちゃったわぁ」
ボスのツッコミにクユの真似を入れながら説明してくれたのは、巻き毛がくるくる可愛いみんなのお姉ちゃん的存在、ムチムチ系(筋肉)美女のテレイ。
ちなみに第21警備隊の女性はルミリアとこちらのテレイだけである。
「えぇ。酒に弱いのでさっさと酔わせて寝かせようと思ったのですが、ダル絡みされることになるとは思いませんでしたよ」
クユのポケットからは僅かに酒瓶の蓋が見える。自警団の制服のポケットは色々入れる為大きいのである。決して仕事終わり直後に飲む為の酒を入れるポケットではないが。
ルミリアは軽くジト目でクユのポケットを睨んだ後、残りの2人に向き直る。
「ちょうど良かった。ノエとモデニヲス、2ヶ月後の山岳遠征に選ばれてたから、そのつもりで」
ボスが話し出すと後ろで儚げな雰囲気の美少年になっていたノエとケッシに肩を貸しているモデニヲスが顔を上げる。
モデニヲスは33歳だが本来より若く見えて面倒見が良く、とても優しい青年だ。
「もうそんな時期かー。俺は2度目だ。ノエ、今度非番被ったら買い物行こうな」
「……お願いします」
「それと、ちょっと大事な話なんだが……」
そう言うと同時にテレイが既に酔っ払っているケッシの耳を勢いよく塞ぐ。
「これでい?」
「いや、まあ、でも、これから飲みに行くんだろ。やっぱ明日話すよ。あと明日は非番でも出勤するように。その話に関わってるから」
分かった、はぁ〜い、承知しました、うん、うぇ……なんて?と五者五様の返事が返ってくる。
それじゃ、とルミリアは5人と別れる。一応隊舎にまだいる連中には言わないとな、と考えながら歩いていると、後ろからは賑やかな声が聞こえてくる。
「明日非番でも出勤だってよぉ、覚えられるかなぁ、この酔っぱらい頭でぇ」
「大丈夫ですよ。酒飲んだ次の日は必ず遅刻ギリギリじゃないですか」
「何も大丈夫じゃないと思うけど……」
「あっ、ケッシぃいいもんしてんじゃぁ〜ん。えいっ」
「ぅわ!きゅうにまぇがみえらくらった〜!らんでぇ〜?」
「ふふ、酔いがどんどん回ってますね。このまま酒を飲む前に潰れてくれると酒代が安くなるんですけど」
「……今日って割り勘なんじゃないんですか?」
大体飲みに行く時はその日暇そうな人達で適当に集まって行くことが多いけれど、そんな適当なグループでも仲の良い姿が聞こえてきて、平和だな、と思う。
あの花はどうなるのかな。このまま大事にならずに済むといいな。
ボスの直感は告げていた。とても嫌な予感がすると。
だけど、その直感はすぐに当たる事はなかった。
翌日、隊舎の隊長席から回収したノエの正式な報告書を持って本部に行く。その足取りは研究室に行った時と同じくらい重たい。
(あー、やだやだ。絶対ぐちぐち言われる)
第21警備隊創設にあたって、ルミリアは特に第14地区の警備隊長とは因縁がある。おかげで隊長会議でもいつも嫌味を言われるし、今回は人数も少ないので余計に色々言われそうだ。
「失礼しまーす」
第1警備隊の隊長室の中には怖い顔をした第1警備隊隊長のセンクと、吊り目でノッポの第14警備隊隊長ディリンがいた。まだ第4警備隊隊長は来ていないらしい。
「おーおー、隊長ごっこしてるガキンチョが一体何の用だよ。オレらはこれから、大事な大事なお話があるんだ。隊長ごっこのガキンチョはさっさと出てな」
そんなに広くない隊長室の来客用ソファに座っていたディリンがわざわざ立ち上がってルミリアを見下ろす。
ディリンの身長は2メートルあり、それに対してルミリアは同世代の女性の中でも低身長なので、はたから見ると大人気ない大人と生意気な幼女にしか見えない。
やっぱ口悪い。いつもは他にも隊長いるから少し軽いのに、センクしかいないからって。
いつもは反論しないけど今日はいいよね。センクしかいないし。
そう考えながらボスは思いっきり顎を持ち上げ、ツンと見返す。
「あなたの地区の不始末で集まったんですよ?大体隊長だって認めた人の中にはあなたの師匠もいたと思いますが?」
「ほぉー、いつもは言い返さない癖に、いまだに成人もしていないのによくもそんな口が叩けるなぁ」
「成人していなくても隊長は隊長。立場は同じはずです」
「大体、不始末たぁなんだよ」
「それは……」
ボスがちらりとセンクの方を見ると、ディリンもセンクを見て、センク自身は扉の方を見る。
「それについてはもう1人来たらな。あとお前ら喧嘩はよそでやれ。……にしても遅いな。遅刻するような奴ではないが」
シッシッと手を振りながら話すセンクの顔はめんどくせぇ、と物語っている。
それについて言い訳しようと2人の口が動く前に、廊下からバタバタと走ってくる音が近付いてきた。
「すみませ〜ん、ギリ間に合いました?」
そう言いながら腕時計を見ているのは、第4警備隊隊長フーリ。中肉中背で瞳が見えない曇った眼鏡をいつもしている、頼りなさそうな青年。
「ギリセーフだが、どうした?珍しいな」
フーリと同じように自らの腕時計を見ながらセンクが問いかけると、すごく困ったような顔をしながら答える。
「いやね、ちょっとうちの地区で噂が流れているみたいで……。それで自警団に問い合わせが殺到してて」
「どんな噂だ?」
フーリは一度聞かせていいのか迷うような感じで後ろ手で頭を掻き、ルミリアとディリンを見やる。
2人は同時期に隊長になったし、現在いる隊長の中では1番新顔なので、聞かせづらい話も結構あったりする。
しかしそこで空気を読む2人でもないので、仕方なくフーリはセンクに向き直る。
「いやぁ、どうも自警団員が住民から高価な地下迷路の花を奪い取ったとか、自警団が公表せずに独占している地下迷路の植物があるだとか、それについて本当なのか、とかねぇ」




