第3話 境界で咲く花
「ねぇ、その花さ、地下迷路に似たようなのあったよね」
ルルと母親と別れた後、3人はまた歩き出し、ボスが話しかける。
地下迷路。その名の通り地下に広がる迷路のこと。その中には魔物が湧き、また様々な宝が見つかる。
とはいえ宝は一度しか手に入らないので、探すには未探索の場所を訪ねるしかないが、未探索の場所は魔物も強くなる為、なかなか攻略が進んでいないらしい。
その為主に魔物の素材を集める為に冒険者と呼ばれる人達が日夜地下迷路に挑戦している。
ルミリシン自治区には2つの地下迷路があり、それぞれ第5地区と第13地区にある。
「でも、それとは別物だね。地下迷路のはグラデーションじゃないし、黄色と深緑の2色だったはず!」
元気よく言うヨリセに2人も頷く。考えている事は同じだった。
と同時に3人とも険しい表情になる。
地下迷路の中には魔物だけでなく植物も多くあるが、それらはほとんど地上のものとは異なる。また魔道具の材料に使われることもあり、危険な効能を持つものもある。
自警団員は許可なく持ち出された地下迷路の植物を回収することもある為、植物は全て見習いの時に暗記させられている。
「じゃあ、これは未確認の地下迷路の植物である可能性が高いって事で、ノエ、袋あるよね」
「うん。専用のに入れとく」
普通の袋では植物の効能を防ぐことが出来ない可能性があるので、地下迷路の植物専用の魔道具に保管しておく。
「お母さんに聞いたところ、これを摘んだのは第14地区で、第4地区との境の近くらしいよ」
「「は?」」
ルミリアとノエの声が重なる。
地下迷路の植物は地上では育たない。
それがこの世界の常識だ。
だからルミリアとノエはルルが摘んだとは言っていたが、落ちていた花を拾ったのだと、思い込んでいた。
だが、ヨリセの言葉はそれを否定する。間違いなく地上で摘んだのだと。
地下迷路の植物が地上で見つかった。こんなこと、そんなに出来の良くない頭でルミリシンの歴史を思い出しても、覚えがないし聞いたことがない。
これはかなり大事になるかもしれない。
地下迷路の危険な植物が地上で育つようになれば、犯罪に使われる可能性も高くなる。
ルルと母親が嘘を吐いている可能性もあるにはあるが、限りなく小さいので、その周辺で異変が起きている可能性が高い。
「行き先変更。その見つかった辺りを少し調査しよう」
「了解/りょうかーい」
巡回の終了時間である15時が近くなってから、3人は隊舎に向かって歩き出す。ルミリアがポツリとこぼす。
「結局見つかったのはルルちゃんからもらったのともう一本か。資料にはなるよね。私この後本部の研究室にそれ持って行って、直帰しよ」
「僕も着いてく!」
「はいはい」
歩きながら、ノエが持っている花が入っている袋をちらりと見る。今のところ周囲に影響が出ている様子はないけれど、今後どうなるかが未知数だ。
隊舎に戻って巡回の道具を片付けてからノエに報告書の用意を頼み、ルミリアとヨリセは並んで研究室に向かう。
研究室は第1地区にある自警団本部の中にある施設で、魔物や地下迷路の植物の研究、魔道具の解析や開発をしている場所。
その為、常にいろんな実験が行われている。また、集まる人柄のせいなのか研究員同士で協力する事は少なく、ほとんどが個人研究ばかりなのも特徴だ。
研究員の人数は知らないが、30人以上いるのは確実。そんな研究室に行きたがる人はいない。
何故なら、研究室は臭いからだ。
研究員らはそのまま寝泊まりしたりもするらしく慣れているらしいが、ただの団員にはキツい。だからこそノエも報告書作りに文句を言わなかった。
ちなみにヨリセは、見た目だけでなく声もすごく可愛いが慢性鼻炎なので常に鼻声らしい。そして臭くないらしい。
「ねぇー、早く行って早く直帰しよー」
研究室に行きたくなくて重い足取りでいたのに、腕を無理矢理引っ張られる。
「うぅっ。もう臭くなってきた」
「まだ廊下じゃん。それに臭くないよー」
「ヨリセの鼻がおかしいだけー」
「もー、早く帰りたいだけなのにー!」
そんな事を話している内に、研究室には着いてしまう。意を決して横開きの扉を開く。
「失礼します。第21警備隊隊長、ルミリアです」
「おー、若隊長ー、こっち来な」
入ってすぐボスに声を掛けるのは研究員の1人、リセン。とても小柄の少女に見えるが、実際は成人しているしなんなら研究室で一番の古株だ。白衣だけが研究員である事を証明している。
「リセン先輩。若隊長はやめてくださいって言いましたよね?」
「いいじゃん若隊長。未成年が隊長格になるのなんて初めてなんだし。で、何か用があってきたんでしょ。どしたの?」
「はぁ。えと今日この花を取ってきたんですけど、地下迷路の植物っぽいですけど覚えがないんで解析してもらおうかと。ちなみに地上に生えてました」
最後の一言で研究室内がざわ、とする。
「へぇ〜。そんなの聞いたことないけど、嘘じゃないんだよな?」
「嘘じゃないですよ」
話しながらじっと花を見ていたリセンが舌打ちしながら自らが座る回転する椅子を無意味に回転させ始める。
「これめんどくさいやつじゃーん。解析するのに1週間かかるタイプ〜。報告遅くなりそうって言っといて」
「分かりました。それじゃ、解析お願いします」
「はいよー」
研究室を出て、早歩きで遠ざかる。
「この後本部に簡易報告行くけど、ヨリセ帰る?」
「うん!せっかくの直帰だからね。じゃまたー」
「またー」
ヨリセと別れ,階段を登る。研究室は1階にあるけれど、本部は2階より上にあり、さらに今回報告しなくちゃいけない相手は4階にいる。
本部は5階建てだけれど5階は団長室しかないので、1回しか行ったことはない。
4階についてやっとか、と思っていると廊下の向こうからお目当ての人物が歩いてきた。
「第1警備隊隊長、緊急で報告したいことがあります。お時間よろしいですか?」
「あぁ、構わん。それなら隊長室に行こう」
雑然とした第21警備隊とは異なる、立派な隊長室に案内される。
彼は第1警備隊隊長センク。隊長同士は基本的に同格扱いだが、ルミリシン自治区の中心である第1地区の警備を担当するセンクは、他の隊長とは一線を画する立場であるので、一応の敬語を付けて隊長同士は話をしている。
「それで、報告というのは?」
「本日第14地区を巡回中、住民の方にいただいた花なのですが、その花は明らかに地下迷路のものであり、かつ未発見のものであると思われます。また、受け取った後に摘んだという場所へ確認に行ったところ、一輪発見、回収し、現在研究室で解析してもらっています。リセン研究員によりますと、1週間ほどかかるそうです」
話している途中、ただでさえ怖い顔をしているセンクの眉間に皺がより、余計に怖くなっていった。少し考えてから眉間を揉みほぐしてセンクが話し出す。
「そうか。それは……前代未聞だな。地下迷路の植物は地上では育たないはずなのに。まあいい。まずは現状把握に努めよう。場所はどこだ?」
「住民の方が摘んだのは第14地区で、私達は第4地区で回収しました。いずれも第4、第14の境の付近です」
「分かった。明日の朝、そうだな。8時にそれぞれの隊長を呼んでおくから正式な報告書を持ってここに来い」
「了解です」
「これから、慌ただしくなるな」
「そうですね。では、失礼致します」
「あぁ」




