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第21警備隊隊長、奔走中!  作者: 桜木るさ


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第23話 流通の手がかり

「人の命を、軽く扱うな!」


 ゼリスの平手が青白い顔の男の頬にぶつかり、気持ち良いくらいの音が響く。叩いた後少しの間があってから、ゼリスは張り詰めていた息を吐き出し、肩で息をする。


「代わりなさい」

「……はい」


 ジェンシンの抑え込んだ声の指示に素直に従うゼリス。


 ゼリスと交代したジェンシン、ケッシ、ニコレの3人に取り押さえられた男は、「ほっぺ痛いよぉ」と弱々しく泣き出す。


 しかし、身体強化魔法はいまだに解けず、3人は必死に男を押さえつける。


「ゼリス!まだ連行出来そうにないし、場所も含めてボスに連絡して」


 ゼリスは伝達魔法を使っている間に近くにいたであろう人達が集まってくる。


「はいはーい。ちょっと危ないので、ここまで下がってくださーい」


 突然誘導の声が聞こえて、見ると、第17地区で捜査をしているヨリセがいた。


「大丈夫か?」


 ヨリセと同じく第17地区で捜査していたタンドは、男を取り押さえている3人の元にやってくる。


「あっ、タンドパイセンだー」


 ケッシの声におうっ、とだけ返して、タンドは状況の確認を始める。


「こいつが逃走した奴の1人でいいのか?」

「……あっ、はい」


 3人から微妙に離れたところにいたゼリスが、目線を向けられて返事する。この場ではゼリスにしか分からないので。


「逃げたし、さっき色々魔術具らしきもの投げてたし、一旦傷害未遂で連行する感じかなー、ですよね、ジェンシンさん」

「そうですね。まあ、さっきあいつらが死ぬかとかなんたら言ってたので、フランメリアかどうかはともかく、なにかやってるでしょうね」


 ケッシの答えにジェンシンが頷く。


「そうですか。ところで、なんでずっと押さえてるんだ?ロープで良くないか?」


「それがさー、こいつ身体強化魔法過剰にかけてて、まだ解けないんだよ。おかげで3人がかりでやっと」

「じゃあ、変わるか?」

「めっちゃ助かるー!タンドパイセンなら1人でも行けそうだし。そしたらオレもゼリスの手伝いしよ」


 隙のないように慎重にニコレ、ケッシと離れ、タンドと交代していく。


「本当にいいんですか?」

「このくらいなら大丈夫だ」


 最後にジェンシンがタンドに確認しながら交代する。その間も男はわーわー騒いでいる。


 ジェンシンも決して細身という事はないし、他の職業の男性と比べたら当然よく鍛えられた身体をしているが、タンドが別格すぎた。


 3人がかりで押さえていた男をたった1人でしっかりと取り押さえ、何なら下手に動くと痛い思いをする体勢にする。


 男の身体強化魔法が解けるまでの間、ジェンシン、ケッシ、ヨリセ、ニコレは集まった人達の誘導を行なったり、爆発の影響で壊れた道の瓦礫を片付けたりする。


 ゼリスは、タンドから微妙な距離で立っている。


「ん?力弱まったな」


 タンドがつぶやきながら、慎重に体勢を変える。男は身体強化魔法が解ける前と同じく暴れようとするが、身体への負担が一気に来たのか、動きが止まる。


「ゼリス、身体強化魔法解けたっぽいから、あいつら呼んでくれ。……おっ」


 ゼリスが呼びに行こうとしたところで、人の隙間を通りながらルミリアがやってくる。


「待たせた」

「おう、お疲れ。もう1人はどうなった?」

「もう捕まえてゴーイット達が連行してる。そっちは?」

「今ちょうど身体強化魔法が解けたところだ」


 ルミリアが周りを見回す。


 数は多くないものの、不安からか、お昼休憩中だからか、そこそこの数の住民が集まってきていた。


 ルミリアに気が付いた4人が歩いてくる。


「ところで、ゼリスは何やってるんだ?」


 ただ立っているだけのゼリスに、少し気まずい思いを抱えたまま、ルミリアは上司として質問する。


「えと……」

「その事については、私から報告してもよろしいですか?」


 質問に答えたのはゼリスではなくジェンシン。


「?構わない」

「ゼリスさんは先程、そちらの男に平手打ちしましたので。ただ、私からは指示が出せませんので、このような形になりました」

「分かった。ゼリスからは何かあるか?」

「いや、間違いない、です。男の言葉にカッとなってしまいました」


 俯き加減のゼリスの返答を聞き、ルミリアは考える。


 ゼリスの過去については入隊時に聞いている。だから、平手打ちした事に理解は示せるが、事実だけ見ると、男に暴力を振るった事になる。


 これは、住民を守る事が仕事の自警団員にあるまじき行為。相応の処分がある。


 ゼリスは自らの過去を話す事はしていない。ルミリアにだけ話せた理由も分かるが、ここは上司として、隊長として周りに示さなければならない。


「とりあえず傷害なら2週間の謹慎だ。その間に処分は決まると思うが、今の捜査の事もあるし、謹慎も長引く可能性がある。いいな?」

「はい」


 その後、ジェンシンと同じく目撃していたケッシとニコレにも内容の確認を簡単に取ってから、男を第1地区まで連行する。


 途中でルミリアだけはアンドラのもとへ向かい、第7警備隊に現場の保全を任せ、2人で本部に向かう。


 男を連行する道中は、無言だった。


 ルミリアが第8地区で捕まえた男と同様、青白い顔をした男も身体強化魔法の負担が大きく、とても歩けるような状態ではなかったので、魔力封じの手錠を付けロープで巻き、タンドがおんぶして運んだ。


 本部の入口の近くに何人かの隊員が集まっていた。


「ボス、お疲れさん」


 すぐに声をかけてきたのはボリシュ。


「お疲れ。男は2人とももう中か?」

「あぁ、ボスから連絡あった男2人、あと第5地区から男が1人、第11地区から女が1人、拘置室に入った」

「そういや、そう言ってたな。あと、確かクユが関係者を1人任意同行させるって」

「そうそう。関係者の方は今クユとジェンシンさんとユクリさんが聴取している。第1地区と関係ありそうってな」

「そうなのか」


 ボリシュと話していると、突然空気が変わる。


「ルミリア隊長」

「あっ、団長。申し訳ありません。ご足労いただいて」

「いや、構わん。私から来たのだし」


 道中ルミリアは、レンクだけでなくザンリにも連絡を入れていた。


「それで、どうだ?報告できるところまでで構わないが」

「分かりました」


 本来ならボリシュから報告を受けた後に、ザンリの元に行く予定だったが、ザンリ自らが来てしまった。一旦近くに置いてあるソファに腰掛ける。


「えと、今のところは……」

「あ、まだボスも俺から報告受けてないんで、自分がします」


 ルミリアが口ごもったところで、ボリシュが交代を申し出る。それにザンリが頷いてから、報告を始める。


「現在4人、男3人と女1人を拘置室に入れました。女は加工したフランメリアを所持していたので違反物所持で、第5地区で拘束した男は店の器物損壊で、第7地区から逃走した男2人はどちらも傷害未遂で拘束しています」


 ボリシュがひと呼吸つくと、本部の奥からクユが調書と思しき紙を持ちながら歩いてくる。


「失礼します。今、関係者の聴取が簡単にではありますが終わりましたので、報告に来ました」


 ルミリアが頷いて続きを促す。


「関係者の名前はエスモン。第11地区にて飲食店を営んでいます。それでフランメリアを所持していた女、ツイリとお茶の売買をしていまして、売買していた中にフランメリアがありました。エスモンは知らなかったと供述していて、ツイリも伝えていないと供述しているので、そこについては相違ないかと」

「なるほど。他にも知らずに売っていた人達はいそうだな」

「恐らくそうだと思います。それと、エスモンは第1地区にあるジェリアラーティアの元コックでして、お茶の売買についてツイリをジェリアラーティアに紹介していたそうです。第1地区でのフランメリアの事件については、そこから広がった可能性があると見て捜査していきます」

「ん?第1地区でのって、ジェリアラーティアで起きたんじゃないのか?」

「いや、正確には系列店の方だそうですよ。だからすぐに気付けなかったとユクリが悔やんでいました」

「そうか。報告ご苦労」


 失礼します、とクユが他の隊員の下に去る。


「それと、少し報告の付け足しをさせていただきます」


 それから、ボリシュの報告の付け足しが始まった。


 内容としては、各地区のフランメリアが広まったとされる場所についてと、加工されて分かりにくい為その場所の調査を研究室と協力して行う事、少なくとも第7地区の花屋の屋台と第5地区のネイラ魔術具店はほぼ確実であるので、器物損壊、傷害未遂で身柄を拘束出来る内に最優先で捜査を行う事。


 全ての報告が終わり、ザンリがまとめる。


「明日総務隊の隊長を呼ぶから、そこで今後の詳細を詰めよう。リセン研究室長への連絡は頼んだ」

「分かりました」

「それと、今日は集まった情報も報告書にまとめて、明日持ってくるように。期待している」

「はい!」


 返事と共にルミリアが敬礼し、本部の奥へ戻るザンリを見送る。


 ザンリが見えなくなってから、ルミリアは隊員達に向き直る。


「さぁ、もういっちょ仕事だ」


 返事は揃わず、おう、だの、はい、だの、うぃー、だの、綺麗に締まらないのが第21警備隊だな、とルミリアは苦笑する。

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