第20話 匂いを追って
クユ、テレイ、ユクリの3人は再び第11地区を訪れ、昨日手に入れた調書のコピーを片手に、フランメリアの被害者に会いに行く事にした。
5人組で暴れた人達は皆同じ工場で働く同僚という事で、職場に直接伺った。
「おはようございますー」
「は〜い。ちょいとお待ちを」
少し待つと腰を90度近く曲げたおばあちゃんが出てくる。
「まだ営業時間でねぇが、どしたか?」
「すみません。自警団の者なのですが、こちらの方々にお話を伺いたくて」
調書のコピーを見せながら、この人とこの人と……と指さしてクユがおばあさんに伝える。
「あ〜、はいはい。5人とももういますよ。上がってください」
おばあさんに案内されるがままついていくと、10人ほどの職人が細かい作業をしている。おーい、とおばあさんが名前を呼びながら声をかけると、すぐに5人が集まる。
「お仕事中にすみません。私達は今酔っぱらいの調査をしていまして」
「あぁ〜。それはそれは。ほんと、ご迷惑をおかけして申し訳ありやせん」
クユが2人よりも1歩まえに前に出て話し出すと、5人の職人の内、最年長であろう初老の人が応える。
「自分なんか体術の師範やってるのに酒なんかに飲まれちまって。そんで人を傷つけるなんて情けねぇどころの話じゃあありやせん」
「そうですね。では、当時の状況、またはそれ以前の行動についてお聞きしたいのですが」
話している内に、最初に工場を案内してくれたおばあさんが人数分の椅子を用意してくれ、座る。
「特にお酒を飲む前にいつもと違う事をしたりとか、そういう事はありませんか?」
「う〜ん、別にいつもと違う事は特にしてないっすけどねぇ」
1人の若い職人がそう言うと、師範含め残りの4人も頷く。
「あの日だって、いつも通り仕事して、昼にエスモンさんとこで食って、仕事して、んで帰りに飲み行こーっくらい?」
「すみません、エスモン?さんとはどこのお店でしょうか」
「んーとなぁ、自警団の隊舎の近くでー、えーと、そうだ!元ジェリアラーティアのコックだからめちゃくそ飯うまいんだよなぁ」
その言葉にテレイが大きく反応する。
「あぁ!昨日食べいったとこじゃなぁい?あのぉ、看板がすごく分かりづらい」
「そうそう!バカうまいんすよねぇ」
先に話していた男とは別の男が大きく頷く。
ぐぅ〜
突然、大きな腹の虫がなる。
「いやぁ、考えただけでお腹が空くねぇ」
5人の中1番体格のいい男がお腹をさすりながら、照れて言う。
それにひとしきり笑った後、聴取は続けられる。
「エスモンさんのとこではいつも食べられているのですか?」
「いやいや、毎日外食はキツいって」
「1週間に1回な。ご褒美として」
「ちょうどあの日がそうだったってだけっす」
男達が口々に話す。
「でもやっぱり1番変だったのは酒っすよね」
その言葉に聴取の内容を書き留めているテレイ以外の2人が顔を向ける。急に視線が集まった事に驚き、1番若い職人が頭を掻きながら説明する。
「いやぁ、えっと、オレは元々酒に呑まれても記憶が残りやすい方で、あの日にやらかした事も少し覚えてるんす」
男は思い出しながら当時の状況を語り始める。
「あの日は、いやあの日もいつも言っている酒場に行って、中の席は埋まっちまってたんで外の席座って、酒をコップとーあと瓶を2本頼んで飲み始めたんすよ。そんで、1杯飲んだだけで酔っ払っちまったんっす。そっから何故か酒が飲みたくて飲みたくてしょうがなくなって、瓶ごと飲んでしまったんすよ。そういやデン兄とフェル兄は瓶を取り合って喧嘩してたっすね」
書き留めながら、テレイが首を傾げて聞く。
「お兄さん達はぁ、お酒弱い方ですかぁ?」
「まあ、オレは普段5杯くらいは飲めるっすねぇ」
男達は順番に、2杯までなら酔わねぇ、やこいつとおんなじー、3〜4かな、1瓶ぐらいなら飲めるで、などと答える。毎日飲むわけではないが、全員1杯のお酒で酔った事はないそうだ。
「うーん、そうすると酔っ払うの早すぎだなぁ」
テレイが紙に、お酒への依存、酔いのまわりが早い、と書いていく。
その後もいくつかクユが中心となって質問していき、聴取が終わる。
「営業前とはいえ、仕事中にありがとうございます」
「いえ、迷惑をかけたのはこっちなんで、いくらでも協力しますよ。また、何かあれば、あまり気にせず、どうぞ」
3人は工場を出る。
「えぇと、次は」
「おじいさんだねぇ。家どこぉ?」
「ここから少し歩くみたいですね。すぐ行きましょうか」
調書のコピーに書かれている住所まで歩いていく。住所は、第11警備隊の隊舎を挟んで工場と線対称の位置にある。
訪ねると、おじいさんの家族が出てくれた。
「自警団の方ですか」
「すみません、スントさんに先日の暴れた件についてお話を伺いたくて」
「あぁ、あの件ですね。どうぞ上がって」
失礼します、とクユを先頭に案内される。
奥の方の部屋につき、手で招かれるまま入ると、ご老人がベッドで眠っていた。
「もしかして、この方がスントさんですか?」
「えぇ。前に聴取を受けたのはあの件からすぐだったので、まだ元気だったのですが、段々と倒れるようになったりして。今ではずっと寝たきりです。元々持病があったので、恐らく悪化したのでしょう」
おじいさん、と家族が声をかけても目覚める気配はない。
「すみません、今日はちょっと話せないみたいです。わざわざ来ていただいたのに」
スント本人から話を聞く事は出来なかったものの、家族から話を聞き、調書と相違がない事を確かめて、3人は家を出る。
「あの状態もフランメリアの影響なのかなぁ」
「そういう作用があるとは説明されませんでしたし、こればかりかは分かりませんね。本当にただ持病が悪化しただけの可能性もありますし」
「少しとはいえ侵食されてるんでしょぉ。早く解決して治療を受けられるようにしたぁ〜い!」
「あんまり大声を出さないでください。一応まだ機密事項なんですから」
テレイの憂さ晴らしの大声をクユが止め、ユクリが周囲を確認する。
幸いにも仕事の時間だからか、住宅街であったからか、周囲に人気はなかった。猫がにゃ〜ん、と鳴いて毛づくろいしているだけだ。
「とりあえず、次はどこに行きます?被害者達の聴取は終わりましたし」
「あとはどこだろぉ」
「そうですね。あぁ、あとはあそこです。5人の暴れた酒場ですね。当時の状況を聞きに行きましょうか」
3人は少し戻る形にはなるが、酒場に向かう。
「昨日もこの辺歩いたよねぇ。えぇと、エスモンさんのお店もこの先だったはずぅ。昨日と歩く方向が逆だから多分だけどぉ」
テレイの言った通り、通りを少し歩いていると分かりづらい看板のかかったエスモンのお店が見えてくる。
5人の暴れた住所と照らし合わせてみると、どうやれエスモンのお店と酒場は同じ通りにあったらしい。
お昼が近くなってきたので、外では何人かの人が準備を始めている。
3人は、何人もの人とすれ違い、追い抜かれたり追い抜いたりする。
「……あっ」
「どうしたのぉ?ユクリくん」
「あの匂い……。あの!すみません!」
1人、台車を押していた女性にユクリが声をかける。
「はい。えと、なんですか。今仕事前で忙しいんですけど」
「中、少し確認させていただいてもよろしいですか?」
「いや、それはちょっと。商売道具なんで」
少し遅れてユクリに付いてきた2人は、ユクリを見守る事にした。ユクリは未成年で第1警備隊所属なので、多分職務質問などの対応の経験少なそう、と思いなるべくさせてあげたくなったのだ。
「すみません、少し確認させていただくだけです。何もなかったら問題ありませんので」
「いや、でもねぇ、自警団に職質されてるってだけでこうやって注目集まってるんですけど。これで商売に影響出たらどうしてくれるんですか」
「えと、それは」
ユクリが言葉に詰まる。自警団としては痛いところをつかれた。
見習いの時に自警団に非協力的な住民がいるとか、その時の対処法とか習ったはずなのに、いざ前にするとうまく言葉が出てこない。
流石に手を貸そうかとテレイが足を踏み出すと、おーい、と呼ぶ声がする。
4人が声のする方に振り向くと、エスモンがいた。
「おーい、遅いと思ったら。あっ、昨日の自警団の方じゃないですか」
「昨日ぶりです」
エスモンに1番近かったクユが挨拶をする。
「どうしたんですか?」
「少し職務質問というか、荷物の確認をしていまして」
「あぁ、そうですか。ツイリさん、見せてあげなさい。私のところに搬入するお茶でしょう」
「え、あぁ。エスモンさんが言うなら、まぁ」
少し躊躇いながらもツイリと呼ばれた女性が、台車にかけられた布を外す。
台車の中にはいくつかの麻袋が積まれている。
「中身を見てもいいでしょうか」
「あまり日光に当てたくないので、室内でって事なら」
「それなら入荷するし、うちで見るといいよ」
エスモンに言われ、一旦店まで運ぶ。
「ユクリくん、急にどうしたの?」
「あの、以前会議で匂いの話をしましたよね。あの匂いがした気がするんです」
前にはツイリとエスモンが歩き、3人は後ろで少し後ろで2人と距離を取りながら、小声で情報共有を行う。
「間違えてたら誠心誠意謝るだけですが、一応確認で。何も言わずにやってしまってすみません」
「いえ、このくらいなら全然問題ありません。うちの若い隊員の方がやらかしてる時ありますから、気にしないでくだい」
「そうだよぉ。匂いとかぁ、私達には分からないしぃ、そういうのはユクリくん頼みだもん」
店に着くと、早速中身を検めさせてもらう。
「これは、魔術具の袋ですか?」
「えぇ。お茶っ葉は湿気に弱いですから」
麻袋をクユとテレイが1つずつ開けて、ユクリが確かめる。残り2つになったところで、ユクリの手が止まる。
「すみません、このお茶っ葉なのですが、回収させていただきますね。今ここで調査する事は出来ませんが、違反物である可能性があります」
「ちょっと、私が違反物を取り扱ってるって言いたいわけ?もし違ったらどうするのよ。こっちは生活がかかってんの」
段々敬語もなくなり、荒々しくなっていくツイリ。ついには店の机を叩く始末。
「お、お言葉ですが!……」
反論しそうになるユクリをクユが手で制する。
「違反物かどうかの確認はここでは出来ないので、まだ違反物を取り扱っていたかどうかは断定できません。それと、人目ですが店内なのでそこまで気にする必要はないのでは?」
笑顔でクユが言い切る。相手に反論する隙を与えず、一気に。
「何も問題がなければこちらはお返ししますし、自警団から謝罪も行います。それでは、お預かりしますね」
「あっ、ちょまっ」
クユが取り上げた麻袋を女性が取り戻そうと手を伸ばすが、直ぐにテレイが女性を抑える。
「その態度だと余計に怪しく見えますよぉ。後ろ暗い事でもあるんですかぁ?」
「いや、そんな、事は、ない」
女性の勢いがなくなり、しゃがむ。
「その、これは」
このまま自白してくれたら楽だなぁ、とクユが思っていると、隙間からびゅうっと風が入り込む。
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「あ、えと、」
「これはこれは。何やら後ろめたい事があるようですね」
「あ、はい。……どうぞ」
ツイリが大人しく腕を出す。
「一応逮捕するには理由が必要なんですけど、何をしたか話してくれますね」
「……はい」




