第19話 目が合った
ルミリア達がまだ出勤していない朝早く、モデニヲス、オケニミ、ペンジの3人は第5地区冒険者支援組合所に来ていた。
常に開かれている扉をくぐり、冒険者支援組合の職員、イーリンが出迎えてくれる。
「でもフランメリアの侵食が分かった人って治療終わってるんじゃなかったっけ〜」
「いや、侵食だと分かったのは昨日だからまだだと思うよ」
「そっか〜」
オケニミの言葉を最後に、部屋には沈黙が居座る。
眼の前にフランメリアの侵食を受けた被害者がいたのに、治療も何も出来なかった無力感が3人の胸中に現れる。
「……まぁまぁ、私達は侵食の治療の免許も持ってませんし、自警団として一刻も早く容疑者を捕まえる事しか出来ませんよぉ、はい」
なんとかペンジが言葉を絞り出し、重苦しい沈黙をぶった切る。その言葉にモデニヲスとオケニミも頷く。
「だな。今俺らに出来るのは捜査だけだし、後ろ向きになってる場合じゃねぇ」
「僕も今の聴取もう1回見直す〜。どんな些細な共通点だって見つけてみせる〜」
イーリンに頼んで、少しの間部屋を貸し切りにしてもらい、気兼ねなく作業していく。ペラリと資料を捲ったり、何か書き留める音だけが部屋に響く。
「おし。一応俺はキリがいいとこまで終わったけど、2人はどうだ?」
「もうちょっと〜」
「あと10行ぐらいですぅ、はい」
長く続いた沈黙をモデニヲスが破り、オケニミペンジの2人はもう少しと返事する。2人の作業を見守りながら、モデニヲスはお茶を入れる。
コトっと机にコップが置かれると、ペンジが顔を上げる。
「あぁ、お茶ありがとうございますぅ。丁度喉が渇いてきた頃だったんですよぉ」
言葉通り喉が相当乾いていたのか、ペンジはすぐにお茶に手を付ける。
「僕も飲む〜」
と、オケニミもコップに手を伸ばす。
「はぁ〜、美味しい〜。ありがとう〜」
お茶に満足したオケニミが散らばった資料をまとめ、1枚の紙を3人で見える位置に置く。
「え〜っとね〜、とりあえず何でもいいから〜、共通点を書き出したよ〜」
置いた紙には、
・冒険者(4人)(下位3人、中位1人)
・男性(3人)
・酒好き(4人)
など、2人以上の共通点が一覧にまとめられていた。
「4人全員の共通点は〜」
オケニミが全員の共通点だけ読み上げながら書いた文字の頭に丸をつける。
『◯職業
:冒険者(4人)(下位3人、中位1人)
◯よく行く場所
:第5地区冒険者支援組合所
:地下迷路
◯件直前(1ヶ月)に行った場所
:ダーズリー武器屋
:キリガン精肉店
:ネイラ魔術具店
:ビリアンス通り』
「4人に共通するのはこのくらいだったぁ」
「まぁ、まず地下迷路と組合は職業的に除外ですねぇ、はい」
第5地区に詳しいペンジが主となって1つずつ可能性を消していく。
「ダーズリー武器屋では4人とも武器の点検を頼んだらしい」
「えぇ、ダーズリーさんとこは点検や修理の腕が良い事で有名ですから、多くの冒険者に人気なんですよねぇ、はい」
「じゃ、ギリガン精肉店はぁ?」
「キリガン精肉店は18地区にあるんですけど、うまい肉が安くてしかも量も多いので冒険者に人気なんですよねぇ、はい」
「魔術具店もまぁ冒険者なら絶対に利用するしな。ビリアンス通りなんて何でもあるから冒険者とか関係なく行くし」
4人全員の共通点ではあるものの、どれも冒険者の共通点と言っても過言ではないものばかり。
決定的な情報は何一つ得られないまま時間だけは過ぎ、お昼が近付いてくる。
「ま、近いところから当たってみるか」
モデニヲスの言葉を合図に広げた資料を片付けていく。
「あ、そういやペンジは何か気付いた事はあったか?まぁ、俺はなかったんだけどな」
「私も特にありませんでした」
「そうか」
部屋を出てイーリンに声をかける。
「すみません。長い時間部屋を使わせてもらっちゃって」
「いえ、捜査の為ですからこのくらい大丈夫です」
「ありがとうございます」
1番年上のモデニヲスが代表して挨拶して、第5地区冒険者支援組合所を出る。
「こっからだと1番近いのはー」
「ネイラ魔術具店ですねぇ、はい」
ペンジの指さす方向は第5地区冒険者支援組合所の斜向かい。めちゃくちゃ近い距離にあった。
「ちっかぁ」
「人気店ですからねぇ」
3人でネイラ魔術具店に入る。
店自体はかなり広いものの、様々な種類の魔術具が丁寧に、だが隙間なく詰められていて、とても狭く感じる。
ペンジの言う通り、店の中は冒険者達で溢れかえっており、かなりの人気店である事が伺える。
冒険者支援組合所と違って自警団の者が来る事は少ないのか、3人はかなり目立ちながら店の中を進んでいく。
「あのぉ、すみませぇん」
「はい……!」
近くにいた店員にオケニミが声を掛けると、女性店員はかなり驚いた声を上げる。
「自警団の者なんですけどぉ、捜査にご協力いただきたくてぇ」
「あ、はいっ。じょ、上司に確認してみます。……付いてきてください」
女性店員に付いていき、ここでお待ちくださいと言われカウンター前で待機する3人。
ガタッ
カウンターの奥の扉が開く。
女性店員が戻ってきたかと3人が扉を見やると、身長が高く線の細い男が出てくる。小さな台車を手で押している事から商品の入荷だろう。
3人と男がお互いに頭を下げながらすれ違う。
「?……これ」
オケニミが何かに気が付き呟きかけたところで、3人と男の周りに小さい風が巻き付く。
人対人の伝達魔法は風魔法の応用で出来ている。
だから、伝達魔法で伝えられた内容は届いた本人の周囲にも少しだけとはいえ、響き渡る。
3重になったルミリアの声と男の声が響く。
『『『7地区で男2人が逃走中!それぞれ6地区と8地区の方面へ逃げている!至急応援を!』』』
『自警団に見つかった!注意しろ!』
モデニヲス、オケニミ、ペンジは男の声で自警団と言ったのを聞き、台車を押す男に身体を向ける。
男は自警団の制服を着た3人に目線を向ける。
目が合った。




