第17話 中間報告
ルミリアが団長室に向かっている頃、伝達魔法で連絡を受けたレンクは会議が始まる前にアライアにもその旨を伝えていた。
「分かりました。詳細は戻ってきてからですね」
変わらず厳しそうな顔をしてアライアは頷く。
隊長室兼会議室兼休憩室にはルミリアと共に捜査していたゼリスやアンドラなど既に何人かの隊員が戻ってきていた。
普段ならふわふわのカーペットやソファーの上でクッションをお供に休んでいる彼らも、今日はそれらが片付けられている上、アライアやジェンシン、ユクリがいるせいか、どこかソワソワしている。
そんな光景をレンクが微笑みながら眺めていると、残りの隊員達も戻ってくる。
「ただいま戻りました」
ゴーイットを先頭にシュンリとリヒが隊長室兼会議室兼休憩室に入ってくる。
リヒはペンジと同期の少年。身長と手足がひょろっと長く、大体のことは軽々こなすタイプ。ただし、15年以上想っている幼馴染に未だにアプローチの1つも出来ないヘタレな一面もある。
帰ってきたばかりの3人は若干汗をかきながら、第3警備隊と第4警備隊からコピーしてきた調書をレンクとアライアに提出する。
「お疲れ様」
「ホントっすよ。2地区も回らされるなんて思ってなかったっすから」
「20人以上になったとはいえ、21隊はまだまだ人手不足だからな」
レンクの言葉にリヒが文句を返し、ゴーイットが宥める。
ルミリア以外の隊員が全員戻ってきて席に座ったタイミングで、アライアが朝と同じように会議を始める。
各隊からコピーしてきた調書を班の数だけさらにコピーしたものをレンクが配り、班ごとに報告していく。
最後にレンクが立ち上がり、ルミリアの伝言を伝えようとしたところで隊長室兼会議室兼休憩室の扉が開く。
「悪い。遅くなった」
走ってきたのか僅かに肩を上下させながらルミリアがやってくる。唯一空いていた席の後ろに立ち、ルミリアはアライアに訊ねる。
「会議はどこまで進みましたか?」
「これで報告は終わりました。それから……」
アライアが座り直したレンクの方を見る。
「これからさっきの伝言を伝えようとしていたとこだ」
そうか、と頷き一度部屋全体を見回してからルミリアが話し出す。
「今、団長とリセン室長とフランメリアについて話してきた。そこで、フランメリアの危険性が当初の見解よりはるかに高かったのと、不特定多数の住民が侵食を受けている可能性が示唆された」
一瞬ざわめく室内だが、会議の途中であり皆続きが気になる事から直ぐに静まる。
そこから、そう判断した理由と団長とした話の内容をルミリアが1つずつ説明していく。いつになく緊張した様子のルミリアは、周囲には真剣なようにも怒っているようにも見え、部屋全体がピリピリする。
「えーっと、それでフランメリアの加工品が、相性、じゃない。効能?が薄くならない、だ。それで……」
リセンがまとめたメモを読み上げるだけで良かったのだが、変に分かりやすく説明しようと頭で整理しようとした結果、ルミリアの頭は回らなくなり、案の定ぐだぐだの説明になる。
その様子に隊員達は少し安心し、ジェンシンとユクリは心配そうな顔をし、アライアは何ひとつ顔色を変えていなかった。
それでもどうにか説明を終えて、ルミリアが席に座る。ふぅと一息つくと、アライアが会議を締める。
「それでは、中間報告の会議を終わらせます。一刻も早い解決を目指して頑張りましょう」
はい!という声が隊長室兼会議室兼休憩室に響き渡る。
とはいえ、捜査の続きは明日。各自コビーした資料を手に持ち、第21警備隊の隊舎を出ていく。
最後に残ったのは、隊長のルミリア、副隊長のボリシュとレンク、総務隊の事務員アライア、第1警備隊のジェンシンとユクリの6人。
「本日はありがとうございました」
「いえ、仕事ですから。それと、本日の会議の議事録です。それでは、私も隊長への報告がありますので。お先に失礼致します」
アライアから直接、会議2回分の議事録を受け取り、ルミリアはジェンシンとユクリに向き直る。
「お二人もありがとうございます。私はこれから報告を聞くので詳細は分かりませんが、捜査のご協力ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます。絶対に早く解決しましょう」
「えぇ、明日もよろしくお願い致します」
代表してジェンシンがルミリアと話し、礼をして帰っていく。
窓から3人が隊舎を出ていく様子を見て、ルミリアが振り向く。
「ボリシュ、レンク、お疲れ様」
お疲れ、と2人から返ってくる。
「早速だけど、さっきの会議について教えてくれ」
「あぁ、議事録見ながらででも」
椅子を3つだけ持ってきて、三角を形作りながら話す。
各班のコピーしてきた調書と今日行なった捜査、明日の捜査予定を議事録と合わせて確認する。
少し時間はかかったが、確認が終わり、レンクがどうしてもと言うので掃除をする。
「そういや、11隊の隊舎では隊員が事務員に掃除させられてたって言ってたな」
椅子を机の上に置きながらボリシュが言う。椅子の上がった場所からルミリアがどんどんほうきで掃いていく。
「うちにはまず事務員がいないけどね。流石に次の異動で来てくれるかな」
「どうだろ。でも隊員も20人超えたし、そろそろ来てほしいよなぁ」
現在第21警備隊では、隊員の勤務時間や給与については書類仕事が得意なソーキンを中心に行われている。
自警団の異動は年に2回、4月と10月にある。ただし、見習いの配属は春のみである。今までは隊員の人数が1番少ないのと業務も大してなかったのでずっと事務員が配属されていなかったのだ。
「まあ、やりたいって言ってる奴を1人知ってるから、それが通ればきっと来るよ。ボリシュは誰か人事で知り合いいないのか?」
「1人いるけど融通が利かねぇんだよ。利いてたらとっくに事務員入ってるって」
軽口を叩きながら掃除をし、レンクのOKサインが出たところで寮に帰る。結婚しているボリシュだけは自分の家に帰る為、途中で別れる。
「それじゃ、また明日」
「あぁ。また」
翌日、いつもの自警団の制服ではなく私服を着たルミリアが第21警備隊の隊舎に入ると、3人の隊員が更衣室から出てくる。
「おはよう」
ルミリアが挨拶すると、3人の隊員の1人、ワリーが目を丸くしながら首を傾げる。
「誰……?」
プッと隣に立っているミレシアンが吹き出し、2人の後ろにいるボリシュも笑いを噛み殺しながらおいおい、と言う。
今日のルミリアは、仕事中はポニーテールにしている銀髪を下ろし、服装もブラウスにロングスカートと、シンプルだが大人っぽい格好をしている。
「お前の所属している隊の隊長が分からないのか、ワリー」
「え……?ボス、なの?」
ワリーの言葉に、堪えきれなかったのかミレシアンがお腹を抱えて笑い出す。ワリーがそんなミレシアンと神妙に頷くボリシュを見る。
「よく2人は分かったっすね」
「僕はまあ、ボスと同期だしね」
「まあ、流石に分かるっていうか」
答えながら笑いが落ち着いてきたミレシアンとボリシュの返答。それにワリーが不満の声をあげる。
「えぇ〜。どう見ても背伸びして大人っぽい格好してる初等学生にしか見えないっすけど」
「いい加減にしろ」
ルミリアは少し低い声を出し、落ち着いたはずの笑いが再燃しているミレシアンに蹴りを1発入れて、再び歩き出す。
「おいワリー。流石に、初等学生は」
「そうだぞ。初等学生なんて1番上ですら10歳じゃないか」
笑いながらワリーの背中を叩くミレシアンに、言い過ぎだと嗜めるボリシュ。
「じゃあ初等学生以外に何があるんすか?」
ワリーの言葉に2人は少し考え、黙る事を選択した。第21警備隊の隊舎の廊下に沈黙が落ちる。
ボリシュがワリーとミレシアンの背中を押し、3人は黙って隊舎を出ていく。




