第16話 隊長としての責任
第21警備隊隊長ルミリアは、第21警備隊の隊舎に着いてすぐ、伝達魔法でリセンに呼び出されていた。
相変わらず異臭を放つ研究室に鼻をつまみながらルミリアが訪ねると、酷い状態になっているリセンがいた。
2日前に会った時は小綺麗にしていたが、その時と全く同じ服でありながら髪の毛はボサボサで隈もくっきりと浮かび上がっている。
椅子の上に背中だけを乗せて、逆さまの顔でルミリアに声をかける。
「やっと来たか。遅かったな」
「21隊からなので、そんなかかっていないはずですけど」
椅子から起き上がりリセンが机の上をあさって1冊の本を取り出す。
「外の空き部屋で話すぞ」
そう言われ、研究室を出る。
1番近くで空いていた部屋に入り、リセンが内側からも鍵をかける。重要な話だとルミリアも気付き、少し身構える。
「そんな身構えなくてもいいぞ。まあ、伝達魔法で話せないくらいにはアレだけど」
そう言いながらリセンは持ってきた本のページをめくる。
伝達魔法や各隊舎に備え付けられている伝達魔法の魔道具は大変便利であるが、魔法で干渉したり妨害したり、あるいは盗聴する事が出来てしまう。もちろん犯罪ではあるが、可能である為に重要な話などは伝達魔法を介してはいけないと決まっている。
だからこそ今回の調査も報告書は伝達魔法の魔道具で送れても、調書は各隊の隊舎までコピーしに行かなければいけなかったのだ。
いくつか付いている付箋を1つずつ確かめながらページを捲り、目的のページを見つけるとリセンはそのページがルミリアにも見えるように本を動かす。
「この本はなんですか?」
「私が昔使っていた図鑑だ。これがフランメリアのページな」
本はだいぶ擦り切れていて、リセンが使い込んだ跡が残っている。専門用語が多く並んでいて、ルミリアには一見して何が書いてあるのかはよく分からない。
「簡単に言うとな、加工しても効能が薄くなったりしない、それから地上の植物と配合したりすると効能が強くなる、あと」
1度リセンが唾を飲み込んで声が途切れる。
「あと?」
「あと、加工したフランメリアは体内を侵食するが、その進行はとても遅く、その症状が表れる場合と表れない場合がある」
「それは、……なんか、多分、すごく、良くない事な気がする」
「良くない所じゃないわ」
このアホっという声と共に軽く頭を叩かれる。
「今回私達は団長から秘密裏に捜査するよう言われているが、侵食の症状が表れないなら住民全員検査する必要すら出てくるかもしれないんだ」
「どうして?」
「だから、今回はフランメリアを摂取してお酒を飲んだ人だけが暴れたりして表に出ているだろう。だが、お酒を飲まない人は侵食されているかどうか分からないだろう」
「確かに」
さらに、リセンは詳しくルミリアにも分かるように説明する。
今回、フランメリアについてルミリシン内の資料で調べた時、摂取しすぎると“我を失う”とあったが、報告書の内容はどう読んでも酩酊状態が促進されたものにしか思えなかったので、その違和感からリセンは再度詳しくフランメリアについて調べたそうだ。
「その本は昔使ってたって言ったろ。私が王都にいた頃に使っていたやつだから、ルミリシンにあるやつよりも詳しくフランメリアについても載っていたんだ」
また、ルミリシンの地下迷路にはフランメリアはないので、資料の内容もいい加減だったそうだ。
結果、さっきリセンが話した通りの内容が出てきて、まじやばいって話らしい。
「とりあえず、一刻も早くフランメリアの出処を調べろ。それから、検査の為にはこの事を公開しないといけないし、団長にはその辺私からも言うが、若隊長も一緒に行くぞ」
その後もリセンは、大体フランメリアとお酒の関係なんてどこにも載ってなかったし、フランメリアが何号で対応できるかも調べなきゃだし……とぶつぶつ言っている。
「私からはとにかく急げって事だ。悪いな、捜査中に呼び出して。それと、団長に早く言いたいから出来ればこの後行けるか?」
「えと、この後は会議なんですよね。でも、レンクに言っておけば大丈夫だと思います」
「そうか、それじゃ私も一応着替えなきゃだし、着替えている間に伝達魔法で伝えとけ。詳しい内容はダメだからな!」
はい!と元気よくルミリアが返事をすると、リセンが部屋を出る。ルミリアも急いでレンクに伝達魔法を送る。
レンクに詳しい事は直接話す旨と捜査に緊急性が出た事を伝達魔法に声で乗せて、レンクまで飛ばす。
伝達魔法は人同士や人対魔道具では声を届け、魔道具同士では声や書類などの紙を届ける事が出来る。ただし、必ず魔力を繋げていなければいけない。
第21警備隊は人数が少ない事もあり、隊長であるルミリアは全員と魔力を繋げている。なので、他の隊員同士で伝えたい事があれば、ルミリアが仲介となり伝える方式を採用していたりする。
レンクから了解の返事が届く頃には、一応着替えて一応髪を梳かし、一応まとめただけのリセンが戻ってくる。
2人で並んで本部の団長室しかない5階に向かう。
「ルミリア」
「はい」
戻ってきてから無言でいたリセンが急に、普段は全く呼ばない名前を呼ぶ。
「団長への報告、っていう形になるかな。この後はお前が1人で説明しろ」
「え?」
話しかけた時と変わらずリセンは前を向き、ルミリアに視線を向けないで話す。
「今回の捜査の1番の責任者は誰だと思ってる。若隊長だろ。あのテロ事件以降大きな事件はなかったし、なにかあっても今まで21隊は手伝いだったり補佐だったりしたから、きっと初めてだろうけど、隊長ってのは責任を持たなきゃいけないんだよ」
そのくらい知ってますよ、と声に出しそうになるルミリアだが、リセンの話は続く。
「私も研究室の室長だからな、この間の臨時の隊長会議で前に出て喋ったし、普段はあんなだがディリンやフーリだって隊長としての責任を持ってあの場で報告してたろ。今度は若隊長がそれをする番だ。公になればまた臨時の隊長会議は絶対に行われる。そこで事件の全てを説明しなければいけないし、もし人死にが出れば、最悪退職もありえる」
ドクンっとルミリアの心臓が跳ねる。
(そうだ、テロ事件の時もそうだった。5隊と13隊の隊長は自主退職したし、副隊長も降格処分を受けていた)
分かっていたはずなのに、分かって隊長になったはずなのに、急に隊長という肩書きが重く感じられる。
「だから、これからする団長への報告と公開捜査についても、責任者として若隊長がしなきゃいけないんだ。私はあくまでフランメリアについての詳細な説明をする為に同行しているだけだからな」
そう言ってリセンが話を切る。
(まぁ、まだ未成年だし退職はないだろうけど、多少は脅しとくか。それに……)
こっそりリセンがルミリアの顔を盗み見る。
(私がルミィの立場だったら、とっくに退職してる)
ちょうど5階へ続く階段を上りきり、万年運動不足のリセンは途中から身体強化魔法を使っていたが少し息が上がっている。
団長室の前でリセンが息を整え、ルミリアがいつもよりも強張った顔をしながら、扉をノックするポーズのまま固まる。
一瞬、脅しすぎたかな、とリセンは考えるが、ルミリアは1歩踏み出しノックする。
コンコンコン
「はい」
中から自警団団長、ザンリの重たい声が返ってくる。
「失礼します」
先にルミリアが挨拶して入室した後、リセンも挨拶をして入室する。
「フランメリアの報告か?もう出来るようになったのか?」
入室してすぐ、ザンリから話し出す。これで会うのは4回目のルミリアは緊張しながらも、声が震えないようこっそり大きく息を吸う。
「フランメリアについて、報告したい事があります」
今日行なった捜査についてはまだ報告出来る段階ではない為、今リセンから受けた説明を要約しながら報告する。
少々拙い報告であったが、いくつかザンリからも質問が投げられたり、途中詳しい説明をリセンがする事で上手い具合に報告がまとまる。
「それで、どうしたいのだ?わざわざ紙ではなく直接報告に来たのだから、それなりの理由はあるだろう?」
報告が終わり、ルミリアの緊張が解けかけたところでザンリから言葉が飛ぶ。
改めて気合を入れ直し、ルミリアも応答する。
「先ほど、リセン研究室長より公開検査をするべきと意見が上がりましたが、まずは捜査を優先させたく思います。出処をはっきりさせずに公開検査を行うと、以前団長が懸念されたように混乱が起きる可能性が高いからです。ですからまずは、出処をはっきりさせます!」
きっぱりと言い切ったルミリアに対し、ずっと変わらなかった怖い顔が崩れ、ははっとザンリがを笑う。
「別にそこまではっきり宣言しなくてもいいぞ。それか、リセン研究室長に何か言われたか?」
「えと、隊長の責任について、最悪退職、とか」
普段の威圧的な態度から急に笑い出し、ルミリアが戸惑いながら返答する。その様子をリセンがブスッとした態度で見る。
「そうかそうか。流石にルミリア隊長はまだ未成年だから退職まではいかないと思うよ。一体何を話したんだか」
ザンリが言いながらリセンを見やるが、リセンはぷいっと顔を逸らす。
「ははっ。とりあえず分かった。まずは捜査を優先な。出処が分かり次第伝達魔法で私に伝えてくれ。魔力は余剰分あるか?今繋げたいが」
「問題ありません」
「それで、ここで詳しい報告な。その時に総務隊の隊長も呼ぶから、そこから公開検査について話し合おうか」
笑い出してから、幾分か態度が軟化したザンリの姿に目を丸くしながら、ルミリアはザンリと魔力を繋ぐ。
魔力を繋ぎ終わり、ザンリがごほんっと大きな咳払いをする。
「それではルミリア隊長、一刻も早くフランメリアの出処を突き止めるように!」
「はい!」




