第12話 半分くらい嘘
今日は、ルミリアにとって久しぶりの非番。最近は元々非番であった日も働いていたので、本当に久しぶり。
朝、日課のランニングをしてから朝食を取り、午前中の内に病院へ行く。
「お昼、何食べよう」
第3地区の病院で用事を済ませ、だらだらと第12地区に向かう。第12地区は大陸からだけでなく、他国からの船もやってくるので、商人が多い地区。
その為、出店が多い。特に行きたいところもない時は、とりあえず12地区に行っとけ、と言われるくらい。
「うまそう」
出店で豪快に焼かれているお肉の匂いに釣られ、ルミリアが出店に向かうと、トントン、と優しく肩を叩かれる。
「久しぶり」
振り向くと、小柄で銀髪翠眼の少年がフードを外している。
「リアちゃん」
「リオくん。ほんと久しぶり」
たまたま見えて声かけちゃった、と言う少年はルミリアと同じ17歳のルリーシオ。2人は小さい時からたまに遊ぶ仲。
いつもより柔らかくてのんびりした口調は、ルミリアの素だ。仕事中はなるべく偉そうな口調をわざと使っている。
「あれ、髪伸ばしてるの?」
「あぁ、うん、まぁ」
以前に会った時よりも伸びているルリーシオの髪は、肩を超え胸元に差し迫るほどに長い。元々小柄なのもあり、一見すると少女にも見える。
「リアちゃんは今日非番?」
「うん、久しぶりに」
「隊長になってから忙しいよね。全然会えなくなっちゃって」
「まぁでも、仕事だし、私がその道を選んだから」
すごいなぁと言うルリーシオの瞳は羨望で満ちている。
「リオくん今日時間ある?せっかくなら一緒に回らない?」
「いいの?!えっとね、17時までに帰れれば大丈夫だよ!」
嬉しそうに瞳を輝かせ、飛び跳ねそうなほどにルリーシオが喜ぶ。確かに会うのは3、4か月ぶりだが、軽く誘っただけなのにこうまで喜んでくれると、ルミリアも同じ気持ちになってくる。
「じゃあ早速、さっきあそこの出店のお肉食べようと思っててさ」
「うん!行こ行こ!」
2人は並んで歩く。お肉などを食べ歩き、他国のアクセサリーなどを冷やかし、出店を渡り歩く。
おかずクレープなるものを片手に持ち、食べながら歩いていると、人だかりが出来ているのが見える。
人だかりの中心からは大きな声が聞こえ、始めは困ったような声だったが、段々怒鳴り声に変化していく。
「トラブル、かな?」
「かもね。私、見てくる」
「え、今日非番なんでしょ?」
「そうだけど、ほっとけないし」
ルリーシオにおかずクレープを預けてから人だかりに飛び込む。背の低さを生かして、ルミリアはするすると人だかりの中心にたどり着く。
そこでは、アイスの出店をしている店主らしき人ととても背が高く彫りの深い顔立ちをした外国人がお金について言い争っていた。
「だから、あと4ヴァルク足りないんだって!」
『そこの看板に書いてある通りの紙幣を出してるだろ!』
そのやり取りを見て、ルミリアは状況を理解する。
お客の外国人は言葉からしてベーセント人のよう。ベーセント人の使うベーニン語とルミリシンを含めたセルヴァント王国で使うセルヴィ共通語は読みも書きも何もかもが違う言語だ。
アイスの値段は、セルヴァント王国で使われている紙幣、ヴァルクで15ヴァルクなのだが、外国人の出しているお金は10ヴァルク札と1ヴァルク札で11ヴァルク。
ベーニン語とセルヴィ共通語は数字も異なる為、恐らく1ヴァルク札と5ヴァルク札を間違えたのだろう。
ルミリアが店主と外国人の間に入ると、一旦声が止む。
「ルミリアちゃん?」
「私、少しならベーニン語話せるので」
幸い店主とは顔見知りだったので、外国人に向き合う。今は自警団の制服を着ていないので信用はないだろうが、とりあえず話しかける。
『アイスの値段は15ヴァルク、このお札は10ヴァルク札と1ヴァルク札、11ヴァルク。だから、店主は言っている、4ヴァルク、足りない』
ベーニン語は発音記号と教えてくれた先生の発音しか知らないので、かなり拙いと思う。通じてくれ、と顔を見つめると、外国人がしゃがんでルミリアに視線を合わせる。
『教えてくれてありがとう。上手なベーニン語だったよ。つまり、この1ヴァルク札をあと4枚出せばいいかい?』
『そう、です!』
一応5ヴァルク札もあるけれど、今は伝えなくていいかな、と考え大きく頷く。
外国人のお客は店主にお金を正しく払い、アイスを受け取る。
「ルミリアちゃんも。助けてくれたお礼だよ。食べてきな」
「いえ、そんな、少し話せるだけですので」
店主がルミリアにアイスを差し出す。受け取るのを断ろうと手を前に出すと、アイスを押し付けられてしまう。
「もらっときな!ルミリアちゃんにはいつも世話になってるからね」
「日頃のお礼も兼ねてね」
周りに集まってきた人達にまで急かされ、つい受け取ってしまう。
『良ければ、他のお金についても教えてくれるかい?』
気付けば近くにあったテーブルと椅子を持って外国人の客に話しかけられる。
ルミリアは流れに押され、椅子に座り、アイスを食べながら少しの間、質問に答え続ける。
やはりベーセント人のようで、少しだけ海の外の話を聞く事が出来て、ルミリアは満足した。
アイスを食べ終わった後、連れがいるので、と丁重にお断りしてその場を離れる。
人の輪を潜り抜けると、すぐそばの路地で壁に寄りかかっているルリーシオを発見する。
「お待たせっ。思ったより長引いちゃった」
「いいよ。リアちゃんがお人よしなのは分かってた事だから」
「別にお人よしではないけど……」
少し拗ねた表情を見せるルリーシオの機嫌を取りながら、再び並んで歩く。
「リアちゃん、ベーニン語話せるんだね」
「本当に少しだけだよ」
「……外国に、興味ある?」
「え?……ない、かな」
そっか、僕はあるけど、と呟きルリーシオが黙る。
「さっ!続きを楽しも!」
一転打って変わって明るい声を出したルリーシオに驚きながら、ルミリアは残りのお出かけを楽しんだ。
16時45分。
ルミリアは腕時計を見る。
「リオくん、時間そろそろじゃない?」
「あっ。ほんとだ」
ルリーシオも時計を確認し、フードを深く被る。
「じゃあまたね、リアちゃん」
ルミリアと手を振りながら別れたルリーシオは、路地裏に入っていく。
少しの間適当に歩いていると、2人の大人が目の前に現れる。
「ルリーシオ様、お帰りですか」
「うん、よろしく」
2人の大人に挟まれ、古びた民家に入っていく。
「……僕らみたいなのは、ルミリシンに居場所なんてないのに」
「どうかなさいましたか?」
「ううん、なんでもない」




