第11話 新たな問題
ほとんどの人が本会議室から去り、行くか、とセンクに声をかけられたボスも共に出る。
「やっと来たか」
扉の外では、あくびをしながらリセンが待っていた。
「何かありましたか?」
「若隊長に話があってな。センクも聞くか?」
「重要な話なら是非」
「といっても、今回のとは別件だが」
「まぁ、時間はあるので一応聞きます」
時計を見て返事をしたセンクを一瞥し、リセンが歩き出す。ボスとセンクはその後ろを追いかける。幸いというかなんというか、3人ともそれぞれの拠点は第1地区にあり、急ぐ必要もないので、小さな空き部屋に入る。
「ここでいいか」
「それで、話は何ですか?リセン先輩」
2つ置いてある2人がけのソファにボスとリセン、センクと分かれて座る。センクがお茶を用意しようとするが、リセンがそれを手で制止し、話し出す。
「最近、酔っ払いの補導がルミリシン全体で増えているのは知っているか?」
ボスの脳裏には先日のベリンじいさんの件と、クユからの飲み過ぎによる乱闘の報告が蘇る。
「まぁ、確かに最近はよく聞きますね」
「そういえば、滅多にそういう事がない第1地区でも、先日2件ほどありました」
「で、まぁ増えすぎだから色々検査したら、フランメリアっていう地下迷路の植物が絡んでたんだよ」
今日はやけに知らない地下迷路の植物を聞くな、とボスとセンクは首を傾げる。その様子にリセンが、ピラーシュイラと同じでユヴァレンの地下迷路で採取される植物、だと説明してくれる。
「フランメリアは、体内で寄生して侵食する植物だから、取り扱いがしやすいやつでな。燃やすと酩酊状態になる煙が焚かれるから、大陸の煙草に極少量入れたりする事もあるんだ」
えーと、と思いながらボスは出来の悪い頭を回転させて煙草を思い出す。ルミリシンでは煙草自体が禁止されているので、ルミリシンから出た事がないボスは教科書の絵でしか知らない。
なんか色々な植物をまとめて、燃やした煙を吸う、みたいなのだった気がする。
ボスが理解してますよー、みたいな顔をしながら悩んでいる間に、リセンとセンクの2人で話が進んでいく。
「それで、摂取しすぎると我を失ってしまうから、大陸では一定以上摂取すると違反になるんだ。その違反の濃度を10だとすると……」
一拍リセンが置く。
「補導された人から検出された濃度は、100ぐらいあった」
「それは、つまり、……」
リセンとセンクが目を合わせ、頷きあう。
しばらく煙草で悩んだ出来の悪いボスの頭では、何も理解できていなかったが。
仕方なく、まぁリセンとは旧知の仲だし、センクは人の事を簡単に言いふらしたりするタイプではないと思うので、諦めて質問する。
「つまり、どういう事ですか?」
リセンにはため息を吐かれ、センクには目を逸らされる。
「はぁ、そうだった。若隊長は意外と馬鹿なんだった」
「そんな直接的に言わなくても……」
「結論だけ言うと、フランメリアがルミリシンに大量に密輸されているかもって事だ」
説明によると、ルミリシンは許可されたもの以外の地下迷路の産物が入らないように徹底しているのと、煙草もないのでそこから流れてくる事もないのにフランメリアが広がっている。それもルミリシン全体に。
だから、監視の目を掻い潜って大量に密輸され、使われているかもしれない、という事だそうだ。
「そういう事ですか。それで、私の仕事はフランメリアの密輸を見つければいいんですか?」
「まぁ、そうだ。とはいえ、3日前に団長と12隊に相談はしてあるんだがな。やっぱ、密輸ってなるとあそこだし。ただピラーシュイラの件もあって忙しいのと、被害がルミリシン全体に広がっているから若隊長のとこで頼みたい」
まぁ、第12警備隊も人数はそこそこいるとはいえ、通常業務に監査の対応、ピラーシュイラについてと王族も船で来るだろうからその準備もある。
「それと、団長から。ルミリシン全体の捜査が出来るのは21隊だけなのと、アルシュトラの問題があるのにもう1つ地下迷路の植物が広まっているのが露見すると混乱が起きるだろうから、住民から隠すために内密に行うように、と」
自警団はとても人数が多いので、全体に連絡を入れると情報は必ず漏れる。しかし、第21警備隊は警備隊の中で1番人数が少なく、内密の捜査に向いている。また、自治区内どこでも移動できるのが第21警備隊の特徴だ。
他の隊には伝えないで捜査を行うよう、団長からの指示に、ボスは首肯する。
「分かりました。そうだ。報告書があるなら、それも送ってもらっていいですか?」
「あぁ、フランメリアが検出された地区に送ってもらうよう連絡しとくな」
そこで、2人のやりとりを黙って聞いていたセンクが話し出す。
「これから操作するなら、総務隊にも連絡入れて事務の隊員を呼んだ方がいい。それと、うちからも2人ほど送っても構わないか?」
「確かに。そうしましょうか。それと、送る隊員は私の指示に従う人でお願いします」
「分かっている」
「そんじゃ、私の方から総務隊には連絡しとくよ。あー、1隊の呼ぶ隊員にも内密なのは伝えとけよ」
「分かってますよ。こっちも隊員に連絡入れなきゃなんで、明後日に集まりますか?」
「あぁ、それで頼む」
話がまとまり、3人同時にソファから立ち上がる。部屋を出て少ししてから、リセン、センクの順で分かれ、ボスも第21警備隊の隊舎まで歩く。
隊舎の隊長室兼会議室兼休憩室には数人が待機していた。この1週間で、第14警備隊への応援は一旦終わり、半分くらいは1週間ぶりの休暇に入っている。
「レンク、少しいいか」
「どうかしたか?」
ルミリアが隊長席に座り、机の前にレンクが立つ、
会議の内容について、キメラやアルシュトラの事と監査が決まった事、王族訪問の勤務表とフランメリアの密輸について、報告する。
「なかなか濃密な会議だったな、それは」
そう言って少し考え込むレンク。
待機していた隊員も黙って聞き耳を立てていたので、部屋が静寂に包まれる。すると、外から足音がする。
「あ、ゼリスだ」
シュンリが声を上げる。
少しして扉が開くと、シュンリの言った通りのゼリスとオケニミが入ってくる。
「おはようございます〜」
「……っす」
びゅうっと、冷たい風が部屋に流れ込む。ゼリスから。
ゼリスは灰色の髪をフードで覆っている青年。オケニミ、ヨリセと同じ歳だ。
自警団の制服は正しく着るのが当たり前だが、ゼリスは特例を認められている。その理由は、ゼリスが持つ氷の魔素誘引体質。
魔素誘引体質は、その者の近辺から特定の魔素を引き寄せ、体内に過剰に摂取してしまう体質。
ゼリスはまだ軽度の方で、周囲の氷の魔素を引き寄せ、周囲を熱くさせ、自身が常に震えているだけ。昔の話だが、重度の人は少し遠出するだけで土地の気候を変えてしまうほどだったと伝えられている。
常に厚着をしてくぶれているゼリスの唇は、今日も紫だ。
「何か話してたの〜?静かだったけど〜」
「会議の報告を聞いてただけだ。せっかく来たんだ。一応聞いとくといい」
レンクに勧められてカーペットの上に寝転がったオケニミと体育座りをしたゼリスを相手に、もう一度報告する。
「情報量多すぎ〜」
オケニミが文句を言い、隣でいつの間にかシュンリを膝の上で抱いているゼリスが真顔で頷く。
「よく分かんなくなってきそう〜。とりあえず明後日ふらんめりあ?の件で何人か集まるって事でい〜?」
「あぁ」
正直、ルミリアだって書類を見ながらじゃなきゃ絶対何個か言い忘れる自信がある。一応報告が終わった後も、言い残した事がないか何度か書類を確認する。
「ボス、明日非番でしょう。今日はもう帰宅してもいいんじゃない?監査だってすぐじゃないし、準備は私がしとくよ」
「いや、でも報告書を送るよう頼んでるから、せめてそれだけでも受け取らないと……」
「そのくらい俺らがやっとくよー。ボスは休みなって」
レンクとシュンリに帰宅を促されている間に、ゼリスがルミリアの背後に回る。
「帰れ帰れ」
「ひぅっ」
普段魔道具で放出している以上の冷気を出され、あまりの冷たさに変な声が出てしまう。軽く力の抜けたルミリアはゼリスに背中を押され、隊長室兼会議室件休憩室を追い出される。
バタンッと背後で扉が閉まる。
一度だけ扉を引いてみるが、直ぐにバタンっと戻されてしまう。どうやら入れてもらえないらしい。
もう一度引こうとするが、今度は引く事も出来なかった。マジらしい。
諦めて第1地区内にある自警団の寮に帰る。
寮は主に未成年、未婚の者が利用していて、各地区にある。第1地区にある寮は、第1警備隊やルミリア達第21警備隊、さらに総務隊やほぼ帰ってこないが研究室、さらに事務の方達など、多くの人が利用しているので、ルミリシンの中で1番大きい。
お昼は過ぎているが、する事もないので、一度部屋には戻ったが、ルミリアは外に出てランニングの輪に入る。
自警団は脳筋が多いので、非番でも訓練している人が多い。その人達に混じり、寮の外周をひたすら走り、少し休憩してから筋トレをする。
何人かかから非番か?と聞かれたり一緒に訓練をして、たくさん汗をかく。先にシャワーを浴びてから食堂に行き、夕食にありつく。大食いが多いので、おかわり自由でたくさん食べられる。しかも無料。
公務員は福利厚生が充実していて、とても良い。給料も隊長になってからは格段に上がったし。貯金も順調だ。
久々にゆっくりしたな、と考えながらベッドに寝転ぶ。
明日は何しようか。




