第10話 会議と疑い
ノエとルルが侵食を受け、その治療が行われて1週間、月に一度しか行われない隊長会議が臨時で行われていた。
ルミリシン自警団本部にある本会議室の中には、全21警備隊の隊長の他、研究室の室長であるリセンに、総務隊や地下迷路産物管理課などの長も集まっていた。
地下迷路のものであろう花と、プルボータル。あれらの解析が報告できる段階まで進んだらしい。
いつもより幾分身綺麗になったリセンが本会議室の中の一段高くなっている場所で、プルボータルの方から説明をする。
「第14地区側の森にて捕獲されたプルボータルの変異体らしき魔物についてですが、ルミリア隊長と同行した隊員の証言によると、このプルボータルの変異体らしき魔物はプルボータルの得意属性である火属性以外の魔法を使ったという事と、外見的特徴などから、キメラ、つまり人工的に作られた魔物である可能性が高いです」
リセンの言葉に会議室の空気が張り詰める。そして、元々リセンに集まっていた視線が厳しいものに変化する。
キメラの研究は、魔物といえど命を扱うという事で、ルミリシンの中では自警団の研究室でしか許可されていない。だから今1番疑われるべきは、報告したリセン自身が所属している研究室になる。
「研究室を疑うのは当然です。しかし、研究室ではここ2年キメラの研究をしていませんし、研究室から出る者も滅多にいない。それにプルボータルを森まで運ぶとなると、壁がある。壁持ちの警備隊と繋がっていたら分からないが」
壁はルミリア達のように飛び越えるにしろ門を開けるにしろ、通行人は全員記録される事になっている。いつ魔物が現れても大丈夫なように夜番もいる。
さらに言えば研究室の人達は訓練をしていないので、プルボータルを幼体だろうと運ぶのは無理だろう。幼体もかなりの大きさだ。リセンくらい魔力があれば別だが、研究室の人達は元々魔力量の少ない人が多い。
つまり、研究室を疑うという事は森と接する壁持ちである第13〜20警備隊も疑わなくてはならなくなる。
そこで、総務隊の隊長、スキンヘッドの大男であるドンクトが野太いよく響く声でまとめる。
「まあ、まずは総務隊から監査隊を出そう。自警団内だけだと内部で揉み消すとか言われるだろうから、司法局からも出してもらうようにする。リセン研究員、まだ報告があるのだろう、続けてくれ」
「はい」
そこから、プルボータルのキメラに使われたと思われる魔物について話出すリセン。大体3〜4体の魔物から作られた可能性が高いらしい。暫定ではプルボータルとヴィスクラの近縁はほぼ確定で、その他がまだ分からない状態。
キメラ自体研究はそんなに進んでいなくて、今の研究室では2体のキメラ作成しか成功していない事も含めて、プルボータルの報告は終わる。
「最後に、研究室側としては、把握していないキメラが現れたという事で、今後また似たような事が起こるのではと考えています。内部犯だろうと外部犯だろうと」
次に花について、ホワイトボードの資料が取り替えられ、隊長達には新しい資料が回される。
「次に、花についてですが、新種の花という事で、アルシュトラと名付けました。アルシュトラを解析した結果、アルキートとピラーシュイラという地下迷路の植物を交配したものだと考えられています」
その言葉に多くの人が疑問を持った。アルキートは暗記させられている地下迷路の植物の花であるが、ピラーシュイラは初めて聞く名前だからだ。
そんな中、顔色を悪くしたのは地下迷路産物管理課と第12警備隊の隊長だった。
第12警備隊隊長のフラムは、椅子を蹴飛ばすように立ち上がり、声を荒げる。
「そんなわけは!我々は入区者全員の検査を徹底している!ピラーシュイラが混入される事などあり得ない!」
その後ハッと口を閉ざす。
「……申し訳ありません」
謝罪しながら椅子を戻し、再び席に着く。
話によると、ピラーシュイラはルミリシンの地下迷路ではなく、大陸の南西、ルミリシンに1番近いユヴァレンの地下迷路でのみ採取されるものだそうだ。
ルミリシンに持ち込まれないようにする為、大陸と船での交易がある第12警備隊と地下迷路産物管理課は把握していた植物の1つがピラーシュイラらしい。初めて知った。
「アルキート自体はご存知のように、見た目は派手ですが侵食も口に入れなければ問題はなく、扱いやすいです。それに対してピラーシュイラの侵食は接触型で非常に危険なものです。地下迷路の植物同士の交配は研究室でも成功した事がないので、かなり前から密輸され、研究されていた可能性を考えた方が良いと思います」
細々とした報告が終わり、リセンが本会議室全体を見渡す。
「研究室から報告できる事は以上です」
そうリセンが締めくくって、報告は終わった。
一度休憩となり、ボスはリセンの元に行こうとするが、他の隊長達に囲まれていた。本会議室の中に女性はルミリアとリセンしかいないし、全員ルミリアより10以上年上なので、1番親しいリセンのとこで乗り切ろうとしたのだが、無理だった。
仕方ない、とお手洗いだけ済ませて席に戻る。不貞腐れて机に突っ伏していると、扉の開く音がする。
それだけで、休憩だからと弛緩していた空気が一気に張り詰める。
即座に顔を上げて扉の方を見ると、ルミリシン自警団団長、ザンリが立っていた。
大陸の先住民の1つであるルミリシンの人間は、大陸の中では色白である事が多いが、ザンリはとてもよく焦げている。さらに、屈強な者が多い隊長達の前に立ってなおでかい体躯。まさに団長の風格。
「き、休憩を終了にします」という進行役の焦った声に、バラバラになっていた隊長達が元の座席に戻る。既に座っていたルミリアは深呼吸だけして、緊張を解く。
ザンリとは、自警団に正式に入団した時と、隊長に任命された時にしか会った事がない。会った際も、「励むように」しか言われた事がないので、どんな人物か一切知らないのだ。
そしてそれはほとんどの隊長達にも当てはまる事で、部屋中が緊張で包まれる。
「会議には間に合わなかったが、予め報告書は読ませてもらった。現時点では疑わしい事が多すぎるので、自警団全体の監査を行おうと思う。2ヶ月後に王族の訪問が迫っている中、忙しいとは思うが潔白の証明のために協力を要請する」
そう言って、ザンリは黙る。話す事はこれで以上だという事だろうか。
その後は、アルシュトラの発見場所についてやプルボータルのキメラについて、ディリンとフーリを主として報告し、ルミリアも第1発見者としての説明をする。さらに各地区への注意喚起と総務隊などから細かい報告があり、会議は終わる。
「ルミリア隊長」
名前を呼ばれて振り向くと、センクがいた。部屋の隅に手招きされて、話をする。
「さっき、団長が言ってた王族訪問の事は覚えてるよな?」
「えぇ、まあ、はい」
「以前要請したように、21隊にも警備をお願いするが、一応割り振りは作ったから、そこから誰がいつ担当するのか決めておいてくれ。書類はまた届けておくから」
「分かりました。あとこれ、山岳遠征と被るんですよね」
「こればっかりは仕方ねぇ。山岳遠征は毎年8月って決まってるし、やらなきゃ壁で相手する魔物の数が増えるし。まぁ、慰霊祭には戻ってくるから、それまでは手薄でなんとかやるしかないだろ」
面倒くさそうな声のセンクの言葉に、ルミリアも頷いて同意する。ルミリシンには統治する貴族がいないので、普段は全く意識する事なく生活できるが、こういう時は幅を利かせてくるのが正直気に入らない。
王族の訪問は約20年振りで、説明によると直系王族は全員成人したらルミリシンを訪れる慣習があるらしい。受け入れについては議会や役所の仕事なので詳しくは分からないが。




