13.貴方の物語
微かな光が暗闇を照らす。
音無神社には、2人の影が見えた。
戦い終えたソウルと横たわる無月だ。
彼女は、戦闘の後 無月の場所にいた。
「本当に死んでる….」
彼女の視線には、四肢欠損に加え、周辺から大量の血痕が地面に染まっていた。
時間経過しているせいか黒色に固まっている。
ソウルは、視線を下に向けため息をはく。
胸の奥が石を抱え込んだように動かない。
それは、有里との契約を不履行にしてしまうからだ。
無月を安全に下山させること。
契約は絶対だ。
このままでは、有里から譲り受けた支配権を破棄してしまう。
ソウルの目が鋭くなる。
その顔は、意を決した覚悟が見えた。
「….まだ使いたくなかった」
彼女は、左手を天高く上げた。
数秒後、半透明色の1本線が天から降りてくる。
その線がソウルの左手の手のひらに収まった。
それは糸が天垂れてきたような光景に見えた。
彼女は線を掴み、徐々に下げていく。
するとどうだろう。
線が彼女の左手に追従し地面へ降りてくる。
しかし、
「あら?」
ソウルは、頭を傾げ、もう一度同じ動作を行った。
しかし、先ほどと同じ。
彼女は、腕を組んだ。
「どうして?まだ、無くなるには早いわよね?」
ソウルは、自分自身に自問自答する。
それは、頭の片隅から記憶を引っ張ってくるように感じた。
しかし、分からなかったのか彼女の頬に汗が出始めた。
ソウルは、頭を両手で抱えた。
「え?これって積んでるわよね?」
ソウルは、想像通りに行けなかったことに焦り始めた。
「どうしましょう!まだ、始まってすらないわよ!?」
朝日が昇り始め、光の輝きが強くなってくる。
時間が刻一刻進む。
そんな刹那、警報の音が聞こえ始めた。
「異界防衛隊がもう来たの!?もしかして、暴れすぎた!?」
彼女は、もう時間がないことに気づき始める。
近隣住民からの通報があったのだろう。
ここ周辺は、電波も届かない県境近くの場所。
しかし、戦闘での爆発音や炎上が彼女らの存在を知らしめたのだ。
事業自得の結果である。
ソウルは、体を揺らし取り乱す。
それは切羽詰まったか顔だった。
彼女は、もう一度左手を上げた。
しかし、先ほどと結果は変わらない。
「ええい!あなたも隠れてないで出てきなさいよ!」
ソウルは、両目に涙を溜め、無月の方に視線を向ける。
必死だった。
無月は、動かない。
しかし、
「….けほつ」
微かに無月の口が動いた。
せき込んだように見える。
「――え?」
ソウルは、すぐさま無月の顔に耳を近づけた。
「――微かにだけど息がある」
息の音が聞こえた。
胸も少しだが上下している。
ソウルの体から力が抜ける。
安堵したのか、顔の表情が和らぐ。
しかし、一瞬にして怪訝の顔に変わる。
「なんで、生きてるのよ?
ここまでの血を流しておいて」
ソウルから見た無月は、まさに遺体。
四肢欠損。
そして、地面に覆う大量の血痕。
彼女が生きているのがおかしな状態だ。
しかし、制限時間が無かった。
警報の音が先ほどより、大きく鳴り響く。
音無神社の石段近くまで来ていた。
「もう時間が無いようね」
ソウルは、両手を無月の腹に置いた。
「――再生の炎」
彼女の両手が燃え出す。
すると無月の全体を炎が包み込む。
見る見るうちに体中の傷が消え始め、四肢が再生しだした。
再生の炎が無月の体を再生しだしたのだ。
炎の光がソウルを照らす。
しかし、熱は微かしか感じられない。
それは、暖かな優しい炎だった。
彼女の魔法<再生の炎>は、熱の調節が可能な魔法だ。
癒すときは、微かな暖かな炎に変化し、敵には、灰にする劫火に変化する。
それは、癒すときの痛みを軽減するものだ。
いつもの状態で再生させると、相手に全身が焼ける痛みを伴いながら再生する。
苦痛に等しいそれは、彼女なりの優しさだった。
ソウルは無月の再生を見た後、体が傾き始めた。
そして、重力に身を任せ地面へ倒れた。
徐々に瞼が下がり始めた。
彼女は、小さく呟いた。
「….まだ….体が慣れていないのね」
彼女の体は、綾瀬 有里の体だ。
怒涛なる出来事に加え、戦闘を行っている。
常人離れした、彼女の体でも限界が来たので。
「ふふふ….これでやっと始める」
ソウルは、顔を綻ばせた。
これからの未来を案じているかのような表情に感じた
微かな風が二人の肌にあたり、髪があおられふわりと浮く。
ソウルは、無月に視線を向けていた。
四肢が再生し、生気も戻り、健康体に戻っていた。
再生の炎もまもなく役目が終わり消え始めている。
「有里….始めるわよ。
――作られた貴方の物語を」
ソウルは、呟いた後、瞼を閉じた。
二人は、神社の石畳に寝そべっている状態。
彼女らの顔は微かに笑っていた。
異界防衛隊が到着したのは、その後、2分経過した後だった。
――――2223年3月1日 富山県 城山 音無神社付近
異世界人による攻撃があり。
城山高校の少女2人が襲われた。
森林や地面の破壊も見られ、交戦したと思われる。
襲われた一人、神楽坂 無月の防戦により、軽傷をしたものの命の別状なし。
詳細は、2人が意識を取り戻した後に報告するものとする。
以上




