12.神槍
ミシェルは、奥歯を噛み締め、乱れた髪を押さえる。
その仕草から、焦りが見て取れた
暗闇が一転、紅に染まる。ミシェルはその只中に立っていた。
草木が赤一色に染め上げられ、鎧か反射して輝いている。
「困ったなぁ〜」
ミシェルは、呟いた。
彼の鎧は歪み、焼け跡が所々見える。
加えて、先程まで戦闘していたのか、呼吸が早い。
ミシェルは、神経を張り詰めたまま周囲を見渡す。
かすかな風の動きすら、耳に刺さるように感じられる。
突如前方から、爆発音が鳴り響く。
草木が飛び、火花が飛び散る。
ミシェルは、肌に伝わる熱でどれほどの火力か感じ取った。
彼は、思わず舌打ちをした。
「本当、台無しだよ」
これを引き落とした元凶は、空中にいた。
炎の翼を背中に宿した少女。
ソウルだ。
彼女は、一直線にミシェルへ突撃する。
スピードは速く、草木が揺れる。
「どうしたの!?向かって来ないのかしら!?」
「ッ!」
ミシェルは、ソウルの突撃を瞬時に避ける。
ソウルは、そのまま地面に衝突した。
彼は、衝突音がした箇所を瞬時に見る。
眉を上げ、目を大きく見開いた。
「またするのかい!?」
地面が赤くなり始め隆起し出した。
炎を大量に溜め込んでいる事が見て取れる。
その威力は先程の爆発で想像できた。
直撃すれば、死は免れない。
ミシェルは、剣を即座に鞘へ入れ、魔法を放つ。
「ディ・サークル!」
唱えた直後、透明色の壁が形成される。
しかし、臨界点が訪れた。
瞬時に、全てが光輝く。
絶望の光が半径20mに行き届いた。
ミシェルは、目を細め顔を顰めた。
彼は、光に堪え切れないのか、手で顔を隠した。
数秒後、輝いた光が弱くなっていく。
ミシェルは、手を顔から退かした。
目の前に、大穴があった。
先程の爆発威力で形成されたものと伺える。
大穴を作成した、ソウルは中心に佇んでいる。
彼女は、ソウルを見て眉根を寄せ、目を細めた
「その魔法。本当に厄介ね」
「君ほどじゃないよ〜」
地面があっただろう、大穴に一つの円柱が存在した。
その上にいるミシェル。
無傷だった。
「おじさんの魔法は、ただ一つ。
ーーあったものを消すことができるだけさ」
「壁を円柱で形成し、消したんでしょ?」
「ご名答」
ミシェルの魔法<消失>
存在しているものを消すことができる。
そこに区別はなく、生物・無機物までもがなくなる。
今回、ミシェルが行ったのは消失の壁を円球型で形成し、その中で身を守ったのである。
「それがあると、攻撃ができないだけど」
ソウルは、終わりの見えない状況に辟易していた。
ミシェルの身体中に常時消失の鎧を形成している。
その為、彼女の物理・魔法攻撃を悉く効かない。
「おじさんだって、攻撃直撃しても再生するじゃないか」
同じくして、ミシェルも同様だった。
彼女に攻撃し、傷を与えても瞬く間に再生する。
どちらも決定打がなかった。
「どちらにもメリットないからさぁ〜。
やめにしないかい?」
ミシェルが提案を行う。
今回の戦闘は、消耗するだけだと見て取れる。
本来はミシェルも、撤退したいのだ。
ソウルは、目を下に向き溜息を吐いた。
「.....仕方がないか」
ソウルが、左手を前に出した。
すると、炎が集まり、形を成していく。
周囲の温度が上がる。
先程とは違うことが感じられ、ミシェルも目を開き反応する。
「まさか出せるのかい!?」
「このまま、戦うの面倒いでしょ?
ーーだから、一瞬で決着付けるわよ」
「気持ちは、分かる!
しかし、それを持つということは!!ーーッ!」
ソウルの左手には、
灼熱の槍が顕現した。
「ーー神槍 カグツチ」
ソウルは、ミシェルのいた場所を槍で突く。
「っ!!」
ミシェルは、即座に魔法を解き、その場から逃げた。
直後、彼のいた場所に火柱が出現する。
火柱の余波で、吹き飛んだ。
ミシェルは、剣を地面に刺し、勢いを殺した。
即座に体勢を整え、今日1番の喉を震わせた。
「ハイナァァァァー!!即時撤退だァァァァ!!」
「はい!」
草木に隠れていたハイナーは、ミシェルと同時に撤退する。
場所は、攻撃されていない草木の場所。
夜の暗闇と草木によって、絶好の隠密場所だった。
ソウルも数秒後、大穴から脱出し、周りを見渡す。
しかし、彼らの気配はない。
見失った。
「逃げたって無駄よ。」
ソウルは、槍を360度横に振る。
すると、振った跡から、炎の円が形成され広がる。
全方位の攻撃。
半径800mまで円が広がり、草木諸共切断した。
切断面から、真っ赤な色が映る。
どれ程の高温なのかうかがえた。
「ーー逃げられたわね」
ソウルは断言した。
周りを見渡しても、2人の気配はない。
「ま。いいでしょ。宴会は、これにて終了」
ソウルは、左手にある神槍を離す。
すると、両端から消えて無くなった。
続けて、炎の翼を解き、地面に着地する。
「さてと....目的は別だし果たしに行きましょうか」
夜の空に存在した暗闇が、薄くなり始めた。
朝が近づいたのだ。
ソウルは、音無神社の方向に歩いて行く。
「ーーイダっ!」
ーー破壊した石段に躓きながら。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
波音が周辺から鳴り響く。
細波の音が、熾烈な戦いから逃れたことを実感する。
彼らは、先程の生じた傷を癒す為、山の絶崖に息を潜めた。
「なんとか逃げれたね〜」
「申し訳ありません。私の失態です。」
謝罪をするハイナー。
「いいよ。あんな化け物いるんなら話は変わってくるから」
それは、弟子の失敗を擁護するようだった。
「....にしても、あのソウルって子やばいね」
「はい、恐らく私以上は確定かと」
ハイナーも頷く。
綾瀬 有里の体で現れたソウル。
それは、2人に鮮烈な記憶を残した。
ハイナーは、口を開く。
「流石、伝説の<再生の炎>。
あそこまでの魔法、そうそうありませんよ」
子供の時から聞いていた童話。
その魔法を保持した者と戦闘を繰り広げた。
改めて、童話が実話であると実感する。
ミシェルも口を開く。
「ーーあのお方のお言葉は、間違いなかった」
思い出すのは、任務を受ける時。
ルーマー王国王宮内。
絶大な権力を持つとある人物。
その人物が発した言葉。
ーー可能であればもう1人殺害せよ。
「最初は、ついでだと思ったんだけどなぁ〜」
回復能力と、火の操る能力。
1つの魔法で2つ以上のことができる魔法は、滅多にない。
そしてーー
「神の武器を使用出来るとなると、5位以内は確定だよ」
「それは....確かですか?」
ハイナーは、半信半疑で聞く。
しかし、ミシェルは、表情を変えない。
「....ほんと、嫌になるよ」




