遠夜の気持ち ③
背筋のゾクゾクをこらえて、俺は2カ所同時に進行するクライシスに、手っ取り早く最も早くカタが付きそうな方を急襲する
ばうん!
矢っ張りかーーーーっっっっっっ……
「ぐーーーーーーーーーーーー」
「〜〜〜〜〜〜!!〜〜〜〜……!!」
官舎の古ぼけた寝室のドアを蹴破る様に開けると、母親はベッドの上で服を着た侭、長々〜
ナイル川のワニみたいにスーツ姿のマンマ、完全にすとーんと寝落ちしていた
「起きろぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜!!」
俺はお疲れで可哀相だとは思ったが、気持ちよさげに頭を乗せていた枕を両手で引っ張り降ろす
ドスンと頭が揺れた弾みでパチッと母の目が開いた
チラ見で確認して脱兎の如く脱衣所に入ると、スーーーッと息を大きく吸う
矢っ張り相も変わらず殆ど音がしない
「何してんの?!」
思いっきりーーーー
勢い良く全力で風呂場の引き戸をガラガラぴっしゃんと全開にする
…… ぅわ〜〜〜〜〜〜
「あ〜〜お兄ちゃん〜!!」
「きれきれにしてるんだーーーーー」
「だってね?ボディソープとシャンプーとハンドソープのいれものがほとんど空っぽだったのぉ
でね?
おふろできれいにしてるのぉ〜〜〜」
絶句ーーーーー…… !
そこら中、ぽあぽあシャンプーとボディソープのいい匂いが充満する中、至る所泡だらけ〜〜!
小っさい湯船はまるで外国映画登場の猫足バスタブみたいな惨状だ
彼等の言い分を(好意的に)
ゴゴゴゴ…… と『理解』するとーーー!
どうやらほとんど中身が無くなったボトルを彼等なりの親切心で忙しい俺の為に、成り代わって洗浄してくれたらしい
ただし全てが湯船の中での作業だったが
『この忙しい時に〜〜〜〜……!!』
ーーーーは絶対的に禁句だ
頭の中でパパパパパパパーーーっと、今現在熱心にフォローしている育児系教育系子育てブログ内容が脳内を隅々までビュンビュン駆け巡る
今時は
「褒めて」
「ちゃんと理由を聞いて」〜
「コドモなりの言い分を聞き」ーーーー
……
……取りあえず情操教育的に「怒ってはいけない」らしい
「……」
俺は無言で「今するべき事」ーーーー
カチャカチャベルトを外し制服ズボンを脱ぎバサバサとカッターシャツ姿になる
ジャケットは既に安全なクローゼットの内部だから水濡れとか関係ない
子育てとは汚れる事と見つけたり
く〜〜〜〜〜〜〜〜ーーーいいさ?
どーーせどーせ洗濯するんだしッッッ!!
……ちぇっっ
時短で制服で出掛けて行くつもりが手間暇かけた私服になるだけさ
「お手伝い2人ともありがとな」
「「うん♡」」
「……スッゲー頑張ってくれたんだよな!」
「そうだよぉ〜」
「えへっ」
「……ホントにありがと」
「「きゃ〜〜〜〜♡♡♡」」
以後はべちゃべちゃに全身髪から何やら濡れ鼠になるのもナリ振り構わず悲惨な姿
結局びったびたな、肌に気持ち悪く張り付くシャツも脱ぐはめになる
キャァキャァ興奮して泡を飛ばし、水蒸気たっぷりの風呂場ではしゃぎまくりの悪戯盛りのおチビ達の髪を大急ぎで洗い、滅茶苦茶よい香りの湯の中で奴らの体を〜子ども用専用スポンジでつるつるクルクル洗い
「おにいちゃぁぁん〜……
耳にみず入ったぁ……っっっ」
「やーん泡かかったぁ……
お目々がいたいのぉ……〜」
あ〜〜〜悪かった悪かった全部お兄ちゃんが悪いのさ
何とか必死になだめすかしてーーー!
シャワーの出したての温かな湯でシャーシャーモコモコの泡を流し落としまくった
この家はふっるーーーーーー……いボロい築40年木造平屋戸建ての官舎だけどさ、シャワーがついていて本当に良かったよ
思わずその事に全力で、ははーーーっと感謝した
そりゃ〜〜〜〜…ココに入居する時、頼んだ最大手ハウスクリーニングのベテランおばちゃんにからかわれて言われた
「ハハハお金払ってまで住みたい家じゃ無いわよね」
でもさ人生至る所に青山あり
ーーーー……住めば都って事だよな!
小さなゴジラ、2人の髪をゴーゴー、○イズミの速乾性がウリの強力ドライヤー上位機種で一気に乾かす
妹の髪は猫っ毛で柔らかいタチだから切れ毛にならない様に丁寧に丁寧に、毎夜毎朝クシの歯の間隔が広い特別な奴で育てている
髪のキューティクルには先ず毛先から絡まらない様に櫛で解かして”乾燥”モード
ドライヤーの操作、使い方としては、時々適度な冷風を内部に送り込んで機械を使うって事が、長い髪に籠もる蒸気を吹っ飛ばす肝なんだそう
俺案外ヘアスタイリストに向いてっかもなー
悪戦苦闘後〜後で入る母親の為に湯も入れ替えて、やっと自分の着替えの順番が廻ってきた
○EAMSの先行予約で買い求めたお気に入りのネイビーのシャツと、同じく合わせて先行予約・コラボ企画特注のミッドカラーのデニムを合わせる
うーん、あーゆーキチンとした家にデニムはマズイか?
が、あ〜〜〜〜〜あ〜〜〜兎に角もうマジで時間が無い
丹念に服装選ぶ時間が無い!!
「〜行って来まーすっっっっっ!!」
「「「いってらっしゃーいっっ!!」」」
モリモリ美味そうに俺が作ったメシを豪快に食べる母と、洗ったばっかりフワフワの清潔なフリースパジャマで気持ちよさげな弟妹に見送られて転げる様に家を出る
チャリの荷台に○ンベルを括り付け、背中には愛用しているバックパック、マウンテン○ミスのグランドツアーを背負う
チャリを必死に漕ぎーーーーー……
まず辿り着いた先は英語塾、誰がつけたか通称「変態塾」だ
「Hi.(今晩は…のつもり)」
奇跡だ〜〜〜〜!!
マジギリギリに塾長、英国帰りの鳩羽が経営する英会話教室レッスンに間に合った
語学は”音”
だから毎日キチンとある程度の時間修練しなければ習得が難しいジャンルだ
どうしても休む訳には行かなかった
「Hello〜]
バタバタ大慌てで席に着く
鳩羽塾、もとい”変態塾”に駆け込むと皆丁度テキストを取り出し授業に入る所だった
日本語をこの部屋に入った時点で「使ってはいけない」
特に授業に入ったら絶対使用禁止だ
今この教室に塾生として名を連ねているのは俺も含めて総勢8名
だから目の前には塾長以外は7名の年齢バラッッバラッの生徒が居る事になる
このメンバーはほぼ社会人だ
『少なくねぇ?!』
〜こんな少数で経営が成り立つのかマジで疑問だけれど、それについて1度指摘したら鳩羽に「子どもは余計な事心配するな」言われたから特例的に学割とかがあるのかもだ
大人とカネのねぇ扶養家族の自分達とじゃ月謝分がガタンと差額がつけてあってソモソモ体系が違うのかも知れない
ぁー確かに皆見るからにな良い服と鞄、オーダーメイドっぽい仕立て最高のスーツやビジネスシューズとかだしなー
俺だけチャリ通だが、鳩羽せんせーんちの何台も止められる砂利敷き自宅駐車場(1部 月極で人にも貸してる)には通いの生徒の乗ってきた輸入車がズラッ
国産だとレクサスとか?、或いはバキバキの黒塗りやシルバーメタル塗装のSUVとかのどかんとデカい鯨みたいな奴
どっか普通のラインナップじゃ無いし、全体的になんかハデーな雰囲気だ
ド厳しい授業が1コマ終わった後、やっとこカレンの家に行ける
はーーーーーーー
既に体力ギリギリどころか?とっくに遙かに限界を超えてた筈なんだが……??
おかしい
絶対におかしい……
今夜は何だかいつも以上に体力的にも精神的にも頑張れるのが自分でも???
めっさ不思議だ!




