第8話 魔力量は化け物、魔力操作は幼稚園児
「よし! 頑張るぞ!」
そう意気込んでいると、律が言った。
「頑張ってね〜。じゃあ早速、ここの魔法演習場で魔法増幅のテストをするから着いて来て」
そう言われ、外骨格をガチャンガチャンと鳴らしながら廊下を歩く。
横を通り過ぎる社員たちは、2メートル半近い巨体に驚き、慌てて道を開けていく。
「……目立つなぁ」
美琴はボソッと言った。
「そりゃあね。そんなの着て社内を歩いていたら目立つわよ」
レイも続けて言った。
「かっこいいじゃん!」
レイと美琴の反応を聞きながら、那由多は少し得意げになる。
やがて魔法演習場に到着すると、律から早速指示が飛んできた。
「下級炎魔法のホム使える? あの的に撃ち放って」
「わかった! ホム!」
那由多の手元には赤い小さな魔法陣が展開される。
次の瞬間、魔法陣から放たれた炎が前方の金属製の的へ直撃した。
炎は的を包み込み、そのまま燃え上がる。
「数値を見る限り、まあまあ増幅しているね」
律は手元の端末を確認しながら言った。
「それでも、やっぱり元の出力がおかしいけど。中級炎魔法のホムホムくらいはあるよ」
「アザス!」
「じゃあ次。増幅器を切って、モルモット君が得意そうな魔弾を放ってみて! 指先でも手のひらでもいいからさ」
それに面食らい固まる那由多。
「……魔弾?」
「うん」
「実は……」
那由多は気まずそうに頭を掻いた。
「実は剣にこだわっていたから、魔法ってあんまり使ったことなくて……」
「……」
「ドローンからも撃てるし……ホムも、いつぶりに撃ったか……」
「…………」
3人は絶句した。
「倉田の肩を持つ気はさらさらないけど、アンタやっぱり甘いところあるわよ……」
レイは呆れたように言う。
「まあ、そんな強く言わないであげてよ!」
美琴がフォローする。
「あーしだって空手ばっかだし!」
そう言う美琴も、顔は引きつっていた。
「鍛錬を全くしていない状態で撃ったホムがあの威力……」
律も頭を抱える。
「ナユタン、剣士より魔導士目指した方がいいんじゃない?」
「畜生!」
那由多は少し悔しそうに拳を握った。
「じゃあ、魔弾を放つから見ててよ!」
頼むぞ……
線香花火の先端みたいな、カスみたいなサイズが出るなよ……!
そんな願いとは裏腹に——。
ブォンッ!
「え?」
那由多の手のひらから巨大な魔弾が放たれた。
金属製の的は一瞬で消し飛び、そのまま奥の壁も吹き飛ばした。
そして、遠くからは研究員たちの悲鳴が響いた。
「うわあああああ!!?」
「何事だ!?」
「壁が倒れてきたぞ!」
「……」
那由多は冷や汗をダラダラと流した。
「……ほら」
律が呆れた顔で言う。
「君は蛇口開きっぱなしだから、イカれた火力が出るんだよ……」
「べ、弁償……いくらになりますか……?」
那由多の脳裏に、切り抜き収益だけでは到底足りない金額が浮かんだ。
「あ、ああ! しなくていいよ!」
律は慌てて手を振る。
「むしろ、君をテスターにするって上司に言った甲斐があったよ! イェーイ!」
「……イェーイ!」
律が上げた手に反射的に手を合わせた。
パァン!
「よっしゃ!」
そして律は満足そうに笑った。
「……でも足りない!」
「え?」
「もう一回!」
「ハイタッチ!」
「なんで!?」
「推しとハイタッチする至福の時は一度では終わらせたくないから!」
結局は何度もノリノリでハイタッチをする。
更には、その場のノリでレイと美琴ともした。
その様子を見ていた2人は、ようやく胸を撫で下ろした。
那由多が少しずつ、元気を取り戻している。
それだけで十分だった。
「じゃあ次!」
律が手を叩く。
「魔弾を連射してみて!」
「連射?」
「そう、おにぎりを作るときに、ぎゅっと圧縮するような感覚でサイズを圧縮するの!」
「おにぎり……」
かなり独特な例えだ。
だが、那由多は真剣に考えた。
巨大な魔弾を小さく圧縮する。
力を無理矢理押さえ込むのではなく、必要な分だけを出す。
「……」
頭をフル回転させる。
「こう……かな?」
シュッ!
小さな魔弾が飛んだ。
「おお!」
更にもう1発。
シュッ! シュッ! シュッ!
今度は連続して小さな魔弾が放たれていく。
「できた!」
しかし、いつまで経ってもやめていいと言われない。
不安になり那由多は振り返る。
すると——。
律たちは全員、口を開けてポカンとしていた。
「どんだけ魔力あんだよ!」
「えっ」
「ナユタン本当に化け物じゃない?」
「そうかな? だとしたら嬉しいなぁ、俺は化け物か!」
「今疲れている?」
「……全然?」
「マジかよ……」
律は頭を抱えた。
さっきから頭を抱えてばかりだ。
「じゃあ、増幅器オンでホムホム撃ってみて!」
「わかった!」
那由多は魔力を集中させる。
しかし……
パキンッ!
浮かび上がった魔法陣は途中で砕け散り、光の粒となって消えた。
「……ダメか」
「いや、これはこれで面白い結果だね」
律は魔法陣のデータを確認する。
「魔力量が大きすぎて出力が足りない」
「というと?」
「電気で言うなら、電圧が足りないみたいなものだね。魔力そのものは腐るほどある。でも、それを魔法に変換するための出力が追いついていない」
「ダメかぁ……」
何かと俺って躓くなぁ。
まあでも長所もあるし良いか。
「いや、魔弾という単純な魔法はイケるよ」
律は笑う。
「だからまずは魔法のお勉強と特訓よ」
「これに気づいていたらグレイトガーディアンの攻略がまだ楽だったのに」
天を仰ぎ顔に手を当てるレイ。
「あーしからしたら伸び代がわかっただけ良いと思うよ、それも神代でね」
美琴は笑顔で言う。
「冗談言わないの」
と美琴の肩を小突くレイ。
「いやー、良かった良かった!」
「いや、でも魔力効率は最悪だからね」
「じゃあ、そこを直せば更に強くなると?」
「うん」
律は頷く。
確信があるらしい。
「……と言っても魔力量=魔法適性があるわけじゃないから、そこは注意。期待しすぎると辛いよ」
「そうかぁ」
「まあさっきのMRIみたいな装置でそこも測ったから後々にわかるよ」
律は時計を見る。
「……っと終業時間だ」
そして3人を見てニヤリとする。
「せっかくだし、親睦を深めるために君たち食事に行かないかな? もちろん奢るよ〜」
「アザス! ごちになります!!」
こうして一行は、若者なら大好きな焼肉屋へ向かった。
——ただし。
「……」
那由多は外骨格を脱ぐのを忘れていた。
2.5メートル近い巨体が、焼肉屋の入り口に立っている。
「流石に入店できないか」
「当たり前でしょ!」
律は声を張り上げてツッコむ。
「一旦家に送るわ」
「めんご!」
5分ほどして、スーツから私服に着替えた那由多とレイが戻ってきた。
「お待たせ!」
「おかえり〜」
そして4人で焼肉を食べ始める。
「美味い! 美味い!」
美琴は肉を次々と口に運んでいく。
「てか、ここって食べ放題の中では高い店だけどいいの?」
那由多の問いに対して律は答える。
「レイと美琴は私より稼いでいるでしょ? 行かないの? 高級焼肉店の叙寿苑とか?」
それを聞いた美琴が、露骨に嫌そうな顔をする。
「ああいうところはマナーとか、なんと言うか……緊張感あって嫌いだね」
「そうね、美琴はそう言うの嫌いだものね」
「せっかくの肉の味もわからないよ」
「それはあるな」
那由多も頷く。
「でも俺は言ってみたいな。……あ! 律に文句がある訳じゃ……」
「ふふっ、そんなの雰囲気でわかるから気にしないでよ」
律は優しく笑った。
「ほら1番高い食べ放題選んだんだから食べなさい」
「ありがとうございます!」
那由多は律の優しさが沁みた。
「……そういえばさ」
美琴が肉を焼きながら言う。
「そもそもレイとばかり遊んでいるから、焼肉屋に来るのは久しぶりだわ」
「……」
そう話している間、レイはずっと黙ってホルモンを焼き続けていたのであった。
那由多が律に質問する。
「そういえば23歳で主任ってエリート過ぎない?」
首を傾げながら言う。
「そう?」
「うちは実力主義だから、私の固有スキルを買われたのよ」
そして得意げに胸を張る。
「このままいけばトントン拍子で出世だね〜。それにはモルモット君達が必要だから頑張ってね♪」
「うっす!」
そうしていると律のスマホが鳴る。
「あ、ごめん。ちょっと電話」
席を立ち、外に出て電話に出た。
「もしもし? 柊です、どうしました?」
「あー……あの子、名前なんだっけ……」
「ナユタンですか?」
「あ、そうそう! 装置の計測結果が出たんだ」
「それだけで電話を?」
「違うんだ、表示がおかしい。魔力量は歴代最高レベル、魔力操作は幼稚園児レベル。そして……」
「そして?」
「魔力適正測定不能なんだ」
律の表情が変わる。
「あの機械は最高級だ。あれで測れないってことは……未知数の力を持っているか、逆に弱すぎるか。今の段階じゃ、そのどちらかだな」
「はぁ……それは困りましたね」
「まあとにかく本人にはまだ秘密にしておいてくれ」
「了解です」
そう言うと電話は切れて席に戻った。
「どったんです?」
「君の魔力操作のレベルは幼稚園児レベルらしい」
「幼稚園児!?」
「だからこれからは険しい道のりになると思う。覚悟はできている?」
那由多は少し黙った後、ゆっくりと頷いた。
「えぇ! 本気でやってや……」
大きく口を開けたところにふざけてレイが自分の箸でホルモンを口に入れてきた。
「へーい! はい! あーん!」
出会ってから過去一かもしれない崩れた、ふにゃふにゃ笑顔にドキッとした那由多。
「もごっ!? もぐもぐっ……」
そして。
「ふふふっ! ふひひっ!!」
爆笑するレイ。
「……なんか今日、いつもよりテンション高いというか変じゃね?」
美琴が不思議そうにレイの手元を見ると、律の頼んだカシオレを飲んでいた。
「ちょっと! 間違えて律の酒飲んでるよ!」
「えっ!? あー! だから、この飲み物オレンジの味しかしないのか!」
どうやら酒だと気付かないまま、ほとんど一気に飲み干したらしい。
律も割とドジなところがあるらしい。
「アルコール大丈夫……な訳ないか」
律は慌てる。
責任は自分にあるからだ。
「大丈夫大丈夫!」
レイは笑いながら那由多を見る。
「ちょっと騒ぎ過ぎよぉ〜! にしてもアンタやっぱり良い身体しているわね」
もうジョッキを一気飲みしていたレイは、完全にできあがっていた。
那由多にベタベタと触れ、そのまま抱きつき始める
「那由多はアタシから離れないモンね〜?」
レイは冗談めかして言う。
「能力以外も見てくれるよねぇ? だよね?」
そして……少し沈黙したあとに言う。
「アタシ達を置いて……いかないよねッ!」
騒がしい店でも少し声が通るくらい大声だった。
那由多に抱きつくレイの頭を、那由多はそっと撫でた。
彼女は、なぜか少し涙目だった。
「大丈夫、いつまでも友達だからね」
那由多は笑って答える。
「俺は交友関係は広く浅くタイプだけど親友を作らないわけじゃないから」
「ただの友達ぃ?」
「え?」
「親友ぅ?」
レイは何かを言おうとする。
「アタシはこ……」
「そぉい!!」
その瞬間、美琴が肉をレイと口に入れた。
「むぐぬっ!」
「まだ黙っていて!」
「むぐぐ……!」
その様子を見た律は、何かを察したように微笑む。
まあ私もそうなんだけどね。
そんなことを考えながら律は肉を口に運んだ。
こうして4人は、しばらく楽しく食事を続けた。
やがて食事を終えると、レイが全員を家まで送り届けることになった。
最後に那由多の家に到着する。
「ありがとう! じゃあまたな!」
「えっ、えぇ!!」
レイは慌てて手を振る。
「またね」
「おうよ!」
那由多が家に入っていく。
その背中を見て、レイは頭を抱えて悶え苦しむ。
アタシのバカ!
何考えているのよ?
というかあんなに酒に弱いの……?
いやまだ未成年で間違えて飲んじゃっただけだから……あと一気飲みしちゃっただけだから……
レイは自分に言い聞かせる。
そして、静かに息を吐いた。
「……またね、か」
それから数日。
那由多は筋肉痛を癒やすために家で休みながら、レイや美琴、そして律たちと交流を深めていった。
そして――。
魔導強化外骨格を使った、次なる実戦の日が決まった。
那由多にとって、初めての企業案件が始まろうとしていた。
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