第9話 Dランクを魔導強化外骨格で攻略配信!
2回目の配信。
朝食を摂っていると美琴から電話がかかってきた
「あ! もしもし? 美琴だよ」
「ああ、どうした?」
「レイは犯罪者の取り締まりで忙しいから、今回はあーしだけが同伴だよ」
「そうか。じゃあ、よろしくな」
そう言って電話を切る。
レイが犯罪者の取り締まりもしているのかと、那由多は感心する。
だが、それは周知の事実だ。
知らないのは、ニュースをほとんど見ていない那由多ぐらいだ。
那由多は守護者の魔剣を手に取る。
そして玄関に置きっぱなしだった外骨格を装着した、その時。
「……ん?」
装甲部分に何かがいる。
「おわぁ!?」
驚いてひっくり返る。
「……なんだ、カエルか」
気を取り直して装着を終える。
今回、外骨格のカラーリングは神代のイメージカラーの真っ白から、マットな黒と光沢のある青へ変更してもらった。
鏡を見る。
「イカしてんぜ……」
気分が高揚する。
心の中では分身たちが横一列でブレイキングダンスを踊っていた。
もちろん、カラーリングの変更の許可は取っている。
柊にだけは。
その姿で、街中をガチャンガチャンと鳴らして闊歩すると——
「止まってください」
「……はい?」
職質を受けた。
そして2回目。
「すみません、少し確認を……」
「またすか!?」
結局、ダンジョンに到着する頃には少し疲れていた。
入口では美琴が手持ち扇風機を顔に当てながら待っている。
「お〜そ〜い〜!!」
「すまんすまん! 人生で初めて職質を受けてな!」
那由多は手に持っていたものを差し出す。
「これやるから」
「……?」
多分、これなら満足してくれるよな?
女の子はタピオカが好き。
そんな雑な認識で買ってきたタピオカミルクティーだった。
「チョイスはありきたりだし古いけど……」
美琴は受け取る。
「あーしは好きなので許そう!」
「良かった!」
「じゃあ、早くダンジョンに入るよ。あーしはアンタのデータ収集頼まれてるから」
美琴がライセンスを端末にかざす。
那由多も続いてライセンスを重ねた。
パーティメンバーの中で最も高いランクに合わせて入場できるため、Fランクの那由多でも、Bランクの美琴とパーティを組めばDランクダンジョンへ入場できる。
「DiveONの配信タイトルは――」
那由多はスマホを確認する。
「『【神代工業案件配信】外骨格分身でDランクダンジョンに挑戦!』でOKかな?」
「いいんじゃない?」
カメラドローンが宙へ浮かび、撮影を開始する。
数日前から配信時間を告知していたこともあり、開始直後から同時接続者数は――。
1241人。
「おお……!」
那由多。
またの名を承認欲求モンスター。
心の中で口から火を吹きながら大暴れする。
「はい、こんにちは〜! 今日はなんと企業案件! それも神代工業さんから魔導強化外骨格のテスターを任されました!」
「あーしは今回も基本的に戦いません!」
二人でカメラに向かって手を振る。
約2.5メートルの巨体と、139センチの美琴が並ぶ。
身長差がすごい。
〈美琴ちゃん、ちいちゃくてかわゆい〉
〈あれ? ナユタンってFランクじゃなかった?〉
〈いつFに降格したん?〉
〈一人で大丈夫なのか? 色々あっただろう?〉
コメントを見て、那由多は苦笑する。
「たはは……まさかアイツにハメられて、探索者の記録を抹消されるとはね……」
一瞬だけ表情が曇る。
だが、すぐに笑顔へ戻った。
「まあ、次よ次! 俺は神代工業さんの案件を受けたし、先には着実に進んでいるさ!」
そう言ってサムズアップする。
〈アイツって?〉
〈倉田だよ。追放する前日に不正でナユタンを引退させた奴〉
〈名前出すのはやめとけ、アイツのことだから訴えるぞ〜〉
〈ナユタンがんば!〉
「応援ありがとな!」
コメントとやり取りしながら、ダンジョンを進んでいく。
少し奥へ進むと、剣を引きずるホブゴブリンや、赤いスライムが這いずっていた。
「これって……」
那由多は顎に手を当てる。
「そうだよ。当然、Eランクより強い」
美琴が説明する。
「ナユタンも前のパーティでBランクまで入ってたんだから、知ってると思ってたけど?」
「……そういやそうだった」
那由多は首を傾げる。
なんで忘れていたんだろう。
その瞬間――。
「グオオオッ!」
ホブゴブリンが飛びかかってきた。
「うおっ!」
那由多はスラスターを噴かし、横へ跳ぶ。
同時に魔剣を抜刀。
首を狙う、だが――
ガキィン!
「硬い……!」
魔剣の一撃を、ホブゴブリンは剣で受け止めた。
「流石に一発じゃ無理か」
ならば――。
「分身ッ!」
瞬間、那由多と同じ姿の分身が現れる。
全員が守護者の魔剣を構えた。
2.5メートル近い外骨格が五体並ぶ光景は壮観だった。
「やっぱり、それズルくない?」
「固有スキルだし、セーフ!!!」
五人が一斉にスラスターを噴かす。
正面、左右、背後。
全方位から一斉に斬撃が襲い掛かる。
「おらぁ! オラァ! おうらぁ!!!」
刺突、続けて切り上げ。
ホブゴブリンは防御する方向を失い、最後の一撃をまともに受けて倒れた。
「よし!」
そこからは完全に調子に乗った那由多。
スラスターを使って左右へ高速移動しながら、魔剣を振るう。
スライムは弾け、ホブゴブリンは分身の数に翻弄されていく。
コメント欄も盛り上がっていた。
〈なんだ今の!?〉
〈ナユタンの分身、ダメージ負わないなら普通に強くね?〉
〈それを外骨格で強化してるのか〉
〈美琴なしでも余裕で進んでて草〉
〈降格されたとはいえFランクの強さじゃないなw〉
「いや〜……」
美琴は笑う。
「あーしも思ったより戦えてるのが驚きだわ!」
だが、内心では別のことを考えていた。
――やっぱり。
那由多はまだ本気を出していない。
頬が緩んでいる、戦うことを楽しんでいるのだ。
「おいおい、楽しそうじゃん」
「そりゃ楽しいだろ!」
その時だった。
「あ!」
那由多が周囲を見回す。
「やべっ! 騒ぎ過ぎて群れが来た!」
奥から、武装した人型の魔物たちが押し寄せてくる。
「うわ……なんかゾンビみたいなのまでいるぞ」
弓を持った魔物たちが一斉に矢を放った。
だが飛来する矢を、那由多は身体を捻って装甲で受け流す。
「行くぞ!」
分身二体が一直線に突撃し弓を持った魔物へ迫る。
だが、それに気づかせないよう、別の分身が派手に動いて敵の注意を引きつける。
「今だ!」
残った分身と本体が左右から回り込む。
「おらおらァ!!」
次々と魔物を切り伏せていく。だが、鎧を着た魔物が剣を振り下ろした。
那由多とその分身が魔剣をクロスさせて受け止める。
守護者の魔剣が、その攻撃を受けた。
そして、蓄積された力が解放される。
ドンッ!
蓄積エネルギーにより鎧の魔物が吹き飛んだ。
「よっしゃ!」
コメント欄が沸く。
〈すごいよナユタン!〉
〈これ普通にCランク以上あるんじゃね?〉
〈外骨格と魔剣が強いのもあるけど、ちゃんと使いこなしてるのがすごい〉
〈案件配信として完璧すぎるw〉
美琴も感心する。
「……アンタら、いつの間にそんな連携できるようになったん?」
「グレイトガーディアンで散々痛い目見たからな!」
那由多は胸を張る。
「脳内シミュレーションと、自宅で分身との連携トレーニングをやりまくった成果だ!」
そう言いながらスラスターで移動。
すれ違いざまに分身とハイタッチする。
パァン!
「よし!」
そのまま敵を蹴散らしながら、ついにボス部屋へ辿り着いた。
「ここから先はボス部屋だから、あーしが確認する!」
美琴が扉を開けて中を確認。
「……よし!」
振り返る。
「今の那由多なら多分勝てるよ。あーしは手を出さない。でも死にかけたら助けるからね」
「わかった!」
二人はボス部屋へ入る。部屋の中央にいたのは――
異様に発達した脚、巨大な甲羅。
そして、その表面を覆う無数の棘。
巨大な亀のような魔物だった。
カメラドローンが解析を開始する。
『対象:魔鋼殻魔獣ガメグ』
『推奨ランク:Dランク以上』
『推奨人数:フルパーティ』
「グレイトガーディアンよりはマシってこった!」
那由多は魔剣を握り直し、手首を回す。
「全員突撃! 足を狙え!」
五人が同時に駆け出す。
ガメグが大きく跳ね、突撃してきた。
「くっ!」
那由多は魔剣で受け流す。
その瞬間だった。
ガメグの甲羅から無数の棘が飛び出した。
「なっ――」
ドォンッ!
分身たちが一斉に吹き飛ばされる。
1人は装甲を貫通して爆発。
「ぐ……ぁああああっ!」
那由多も膝をつく。
痛みが全身を駆け抜ける。
また、あの感覚だ。死んだ時に残る、嫌な眩暈。
歯を食いしばる。
「……まだだ」
ゆっくりと立ち上がる。
「痩せ我慢の練習だって……したんだ!」
美琴が一瞬だけ構えた。
だが――。
那由多は立ち上がった。
まだ戦えると判断して、美琴は静かに構えを解いた。
「律、見てるんだろ?」
那由多はカメラドローンへ話しかける。
「これ、思ったより装甲薄いぞ!」
消滅した分身を再び生み出す。
「近づくのが危険なら!」
那由多は手を突き出す。
「魔弾ッ!」
五方向から巨大な魔弾が飛ぶ。だが、ガメグは手足を甲羅の中へ収納し、魔弾を真正面から受け止めた。
「チッ!」
それでも、甲羅にヒビが入った。
さらに防御態勢を取ったことで、ガメグの動きが止まる。
五人が一斉に斬りかかった。しかし、決定打にはならない。
「カエルみたいに跳ね回るくせに、防御はちゃんと亀かよ……」
那由多はガメグを睨む。
「……待てよ」
朝の出来事を思い出す。
カエルを見て驚き、ひっくり返った自分。
「カエル……そうだ!」
〈ナユタン? なんの話?〉
〈カエル?〉
〈帰るって言う負け犬の意思?〉
〈うるせぇよw〉
コメントを無視する。
「全員、持ち上げるぞ!」
五人がガメグの身体の下へ魔剣を差し込む。
「せーのっ!」
外骨格の怪力を最大限に利用する。
「うおおおおおおおっ!」
巨大な身体がひっくり返った。
「ははっ!」
那由多が笑う。
「やっぱり弱点はここにあった!」
露出した腹部。
その中央には、鼓動する魔力核があった。
「悪いが――チェックメイトってやつだ!」
五人の魔剣が同時に突き刺さり、血飛沫が上がる。
ガメグが大きく身を震わせると動かなくなった。
「……」
静寂。
数秒後。
「やったぁあああ!!!」
那由多が両手を上げる。
「ちょっとクセがあったけど、今回は割と圧勝じゃない!?」
〈すげーよナユタン!〉
〈Dランクボス撃破!?〉
〈あんまり見ない魔物だったな〉
〈だから誰も攻略法教えられなかったのかw〉
美琴が笑顔で近づく。
「やったじゃん、ナユタン!」
「おう!」
その瞬間。
完全に気が緩んだ。
倒した。
そう思っていた。
だが――。
ガメグの身体が、僅かに動いた。
「……」
美琴の目が細くなる。
魔力の残滓。最後の攻撃の兆候に、那由多は気づいていない。
ガメグの甲羅から、一条の魔力を纏った棘が飛び出した。
ギュオッ!!
那由多へ向かって一直線に飛ぶ。
美琴はポケットから小さな鉄球を取り出し、指先で軽く弾いた。
次の瞬間、鉄球が弾丸のような速度で飛翔した。
ガンッ!
金属音が響いた。
飛来した棘が、空中で弾き飛ばされる。
「……え?」
那由多が振り返る。
そこには美琴が立っていた。
手には小さな鉄球。
「……」
美琴の表情から、笑顔が消えている。
「畜生如きが……」
美琴は那由多を見る。
「よくも那由多に向けて……」
そして人差し指を突き出した。
ゆっくりと。
下へ。
「――死ね」
次の瞬間。
ズンッ!!
巨大なガメグの身体が、一瞬で地面へ叩き潰された。
その巨体が動くことは、二度となかった。
静寂。
そこにいたのは、先ほどまでの小柄で明るい美琴ではなかった。
「……」
美琴は何事もなかったかのように那由多を見る。
「あ、ごめん」
「……?」
「ちょっとムカついてさ」
「いや……助かったけど……」
那由多は自分の身体を確認する。
美琴が駆け寄った。
「怪我ない?」
「大丈夫だ!」
「……そっか」
美琴は小さく息を吐いた。
その瞬間――
コメント欄が爆発した。
〈え??????〉
〈今の何!?〉
〈美琴がやったの!?〉
〈速すぎて何が起きたかわからんw〉
〈ナユタンを助けるために本気出した!?〉
〈いや今のBランクとかいう次元じゃなくない?〉
〈美琴ちゃん怖すぎるw〉
〈でもナユタンへの反応だけは一瞬だったな〉
〈ナユタンそこ変われ〉
〈↑お前は誰に言ってるんだ〉
「美琴、今のやっぱり凄かったな!」
「え? そう?」
美琴は首を傾げる。
「あーしからしたら、別に大したことじゃないけど……」
〈大したことあるわ!!〉
〈Dランクボス一瞬だったぞ!?〉
〈ナユタン守るために本気出したの確定だろw〉
コメント欄は未だに大騒ぎしている。
那由多はカメラを見る。
「というわけで、今回の案件はここまで!」
親指を立てる。
「神代工業さん、ありがとうございました!」
「ありがとうございました〜!」
美琴も手を振る。
「また次回!」
〈外骨格欲しくなった〉
〈分身ヤバすぎ〉
〈魔剣も強いな〉
〈次の案件も楽しみ〉
〈美琴の戦闘ももっと見たい〉
こうして配信は終了した。
一方、その頃。
神代工業。
「……想定以上だな」
研究員たちは、那由多の戦闘データを確認していた。
外骨格。分身。魔剣。
そして、最後に記録された美琴の戦闘データ。
「これは面白い」
神代工業にとっても、想像以上の収穫だった。
そして帰り道。
「Dランクって、思ったより戦えるもんだな!」
那由多は満足そうに言う。
「……まあ」
美琴は苦笑する。
「アンタが普通じゃないだけだけどね」
しばらく歩いたところで、美琴がスマホを見る。
「……おお!」
「どうした?」
「今回の配信、前より数字伸びてるよ!」
「マジで!?」
「マジマジ!」
「わあい!」
那由多は両手を上げて喜ぶ。
魔導強化外骨格。
分身。
守護者の魔剣。
そして、美琴。
今回の配信は、那由多たちの存在を世間へ知らしめることになった。
だが。
これは、まだ序章に過ぎない。
評価などよろしくお願いします!




