第7話 救いの神代工業、Fランク魔力量だけは化け物でした
那由多の自室でレイは時間を潰していたが、美琴を迎えに行くため外に出て行った。
その間に那由多はスーツを着て、ネクタイを締める。
服装とか何も指定されていない。
だが常識的にスーツだろうと未成年ながら思った。
改造ドローンの母艦を背負うと準備は万端だった。
そのまま美琴を迎えに行って戻ってくる。
今度は3人で手を繋ぐ。
すると、身体が光に包まれて、神代工業本社へ転移した。
「スーツ着る必要あるん?」
「着なくて良くても印象は良い」
「間違いないわね」
17時45分
早めに3人はエントランスに入る。
すると、受付の女性が立ち上がる。
「神楽那由多様ですね、お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
その間も社内を歩いていく。
巨大なガラス張りの研究室。
内部には兵器に外骨格、ドローン。
さらには魔物の遺体まで置かれている。
展示品なのか研究対象なのかすら分からない。
「すげぇ……」
科学好きの那由多は目を輝かせた。
その一方で、自分なんかがここにいていいのかという不安も湧いてくる。
こんなところに俺は招かれちまったのか……
良いのか? 俺、今Fランクだぞ。
何もかもが、自分の知っている世界とは規模が違う。
神代工業には国並みの権力がある。
そんな噂は聞いたことがあったが、この目で見ると説得力がある。
「こちらです。あとは中の者が対応しますので、それでは私は失礼します」
那由多たちは彼女を見送ると、目の前の扉をノックした。
「どうぞー」
声を聞き、扉を開ける。
そこにも広大な研究室が広がっていた。
そして、その入り口には1人の女性が腕を組んで立っていた。
黒髪ロングポニーテール。
丸メガネをかけた、20代前半の女性だった。
「やあ、君が新人モルモット君だね」
「えっ、私ですか?」
モ、モルモット!?
俺、何されんだ……?
「そうだよ、被験者だからね」
女性はニヤリと笑う。
「私は柊律23歳の総合兵器開発部の主任研究員兼、探索者装備技術顧問」
そう自己紹介すると頭を下げた律。
それに那由多も反射で頭を下げた。
「23で主任ですかぁ!? 私は神楽那由多、19歳です!」
そこで少し声が小さくなった。
「……そしてFランクに実質降格したんです……それでも大丈夫ですか?」
思い出すだけで泣きそうになりショボショボで言うと、意外な返答が返ってきた。
「知ってるよ、君がハメられて除名させられたのは」
律の眉間に皺が寄る。
「倉田ってやつには反吐が出るね」
「な、なんで知っているんです!?」
「ギルドで泣く君の動画が出回っている」
律は少し憐れみの目を向けた。
「あとFでも関係ないよ。君の配信は十何回も見たからね、ナユタン♪」
律は舐め回すように上から下に那由多を眺める。
その目は、まるで獲物を見つけたオタクそのモノだった。
おひょひょ〜!
まさかの「ナユタンの担当をさせてくれ」って言ったら本当にできるなんて思わなかったよ!
律の口元が自然と歪む、そして少し気持ちの悪い声が出る。
「ふっ、ふひっ……」
「? どうしました?」
「い、いやなんでもないよ」
律は小さく咳払いした。
「ただ私は君のファンでもあるだけさ」
女子2人はなーんか少し嫌だなぁと思って那由多の後ろから動こうとしない。
「もしかしてビジュが良いとかメロいとか言ってくれた人……とか!!」
「カヒュッ……」
不意をつく事実の言葉のボディブローに変な声が出る。
取り繕うと表情を真顔に戻そうとするも歪んだまま戻らない。
「もしかして図星ですか……?」
「隠す必要も無いな、君とは長い付き合いになりそうだしね」
律は開き直った。
「……そうです! 私が言いましたよ、はいそれでいいですか!」
あまりの開き直りっぷりに女子2人は唖然とする。
「オタク系なのね……」
「アタシらいるのによく言うね」
「レイちゃんも美琴ちゃんの事もファンだからね〜!」
「そ、そりゃあどうも……」
「ありがとう……ございます……」
あまりにも微妙な空気が流れる。
那由多は急いで話を戻した。
「それで私の改造ドローンを見せて欲しいんですよね?」
「そうそう」
律は頷く。
「あと敬語とかいらないよ。モルモット君達はさ」
「モルモットは確定なのね……」
そう言いながらドローンの母艦を床に置いた。
律は手をかざす。
すると魔法陣が展開された。
「解析完了。魔力伝達効率72%」
律は表示された数値を読み上げた。
少し意外そうに眉を上げた。
「ただの素人のレベルは超えているね。アマチュア以上、プロ未満ってところかな」
俺の人生はそうだ。
何かと無難前後で落ち着く。
だが今回の案件はかなりの上振れだ。
絶対にモノにしたい。
「ありがとう、律さんのスキルなの?」
「そうそう、Sランクの【解析】だよ」
少し嬉しそうに笑う。
「あと『さん』もいらない、推しに完全タメ口使われるとかたまらんからさ」
女子2人は若干引いている。
一方で那由多は、なんて優しい人だと思う。
「すごいね! あとは今回俺に何をテストさせたいんです?」
少し申し訳なさそうに続ける。
「今は筋肉痛中だから少し休みが欲しいんですけど……」
すると律は、思っていたよりもずっと優しい条件を提示した。
「今回の装備が君の分身で増えるとわかったら、正式に契約」
律は人差し指をピンと一本立てる。
「そして、契約後2週間以内にダンジョンで実践試験をしてほしい」
続いて、契約書を数枚差し出した。
「報酬はこれを見て」
そう言うと契約書を渡された。
「契約に同意するならサインして。あと今日中に書かなくていいよ。後日、郵送して」
那由多は契約書を受けった。
「わ、わかった」
ここんところ騙されてばかりだ。
念には念を入れなくては。
レイはいい企業と言っていた。
それでも、今の自分には簡単に人を信用する事ができない。
契約書を読み進めた。
基本報酬:50万円
実戦試験成功報酬:100万円
装備開発への協力報酬:別途
「……かなり良い案件だな」
裏があるのか?
そう考えていると、レイが横から数枚の契約書をひょいと奪った。
「なっ!」
驚いている間に、レイは数枚の契約書を読み終える。
「……今日契約していいと思うわ」
「本当に?」
「ええ、何一つアンタに不利な要素は無い」
レイは契約書をそっと返した。
「強いて言うなら試作機は貸し出しであって譲渡では無いことくらい」
「えっ、テスターなのにくれないの!?」
那由多は純粋に驚いた。
それに律は苦笑しつつも事情を説明する。
「要は試作機、別の言い方をするならプロトタイプ。それは流石に本社に残しておきたい。その代わり試作機以外のテスター時には全て完全無料で譲渡するから」
「つまり、これが正式に自衛隊とか探索者向けに販売された後、俺にそれのオファーがあれば貰えると?」
「そう」
律は笑顔で答えた。
それを聞いて、那由多の不安が一気に吹き飛ぶ。
「やったー! 楽しみ!!」
泣いてばかりだったが今は笑顔の那由多を見て、レイは自然と微笑んだ。
そして3人は、魔導強化外骨格の置かれた場所へ向かった。
「この外骨格には筋力補助、魔力補助、装甲」
律が説明していく。
「魔力・電力変換器とサブ用リチウムイオンバッテリー。スラスターに魔法増幅」
最後に、外骨格の背部を叩く。
「それから、今後のパーツ拡張スロットもある。他に手足や胴体にもね」
それを聞いた那由多は子供みたいにはしゃいだ。
一方で、女子2人は暇そうであった。
「やっばい!! こんなの映画でしか見た事ないよ!」
「つまりは、あーしらに追いつく為の武具ってところか」
美琴が外骨格を眺める。
その一方で、レイは冷静だった。
「装着した時のデメリットは?」
レイは那由多がこれ以上酷い目に遭うのが嫌なのだろう。
「魔力量が少ないと即座にサブバッテリーが起動するね」
律は説明を続ける。
「取り敢えずモルモットのナユタンの魔力を計測してみようか」
「モルモットのナユタン……」
律はバイザー型の計測装置を装着し、横のボタンを押した。
それで那由多を測定する。
だが【ERROR】とだけ表示された。
「……ナユタンの魔力量、世界最高クラスか、測定不能なほど低いか。そのどちらかかもしれない」
ずっと明るかった律の顔から、そのふざけた表情は消えていた。
「こんな小さい計測器じゃあエラーが出ちゃう……こんなの初めてだね」
那由多は唾を飲み込む。
「そ、それはどっちか今わかるんですか……?」
また小刻みに震え始めた那由多の肩をレイと美琴が掴んだ。
「考えてみて」
美琴が言う。
「Cランクの魔物を倒したのに最弱な訳無いじゃん」
「そうよ」
レイも続く、
「今回ばかりは確実にアンタが強い。私の命だって賭けて言えるわ」
「2人とも……」
3人は計測室に向かった。
巨大な魔力測定装置。
MRIのような装置に横になる。
そして計測が始まった。
律は顎に手を当て、黙り込んでいる。
レイと美琴にも緊張感が走った。
ダンジョンで幾度も死地を潜り抜けてきた2人の猛者も、これ以上の友の絶望には耐えられない。
だから——。
頼む。
強い方であってくれ。
そんな強い祈りが2人の目の奥にあった。
「それで……?」
「……異常の一言に尽きるわね」
律はメガネを押し上げた。
「モルモット君は魔力の使い方が下手だから、今まで一般人で収まっていただけ」
そして、事実を告げる。
「魔力量だけなら、歴代最高記録に並ぶレベルよ」
「は、はぁ……」
「ふぅ……」
その場で緊張の糸が切れ、2人はへたり込んだ。
どうやら最悪な結果ではなかった。
その後に那由多にも説明された。
「俺、一般家庭生まれなのにそんなに……」
那由多は感心する。
そして——。
「よっしゃあ! 俺の勝ち! なんで負……痛ってぇええ!!!」
筋肉痛を忘れていた。
学習していない。
そんな那由多に律自身も安心して笑う。
「じゃあ、早速外骨格を着てみようか」
装着を終える。
1人でも装着できるタイプであった。
そして2.5メートル近い巨体が立ち上がった。
「それじゃあ分身よろ〜。これで増えたらウィンウィンなんだけどね〜」
「すぅー……」
那由多は息を吸う。
これに俺の未来がかかっている
「分身ッ」
次の瞬間。
そこには、2.5メートル近い外骨格を纏った那由多が5人並んでいた。
「……」
「……」
「……」
「成功だ」
律の目が輝く、
「正真正銘、君の固有スキルの力だ!」
「やったー!」
那由多が喜ぶ。
レイと美琴も、自然と笑顔になった。
「しかも、魔力ゲージがエラー起こしてるよ」
その時だった。
那由多は、ふと昨日の戦いを思い出す。
グレイトガーディアンとの戦闘。
最後は魔力切れを起こし、分身が維持できなくなった。
だが。
「あれ?」
「どったの?」
「俺ってグレイトガーディアンと戦った最後、魔力切れになったよな?」
那由多は首を傾げる。
「俺って、魔力量は多いんだよな?」
律は昨日の配信映像を何度も見返していたらしい。
丸メガネをクイっとして言う。
「それはズバリ!」
「ズバリ?」
「君の魔力操作がヘッタクソだから!」
「えぇ……」
律は説明を進める。
「君は魔力10だけ出してって言われてるのに、必要もないのに100くらい出してるようなもの」
「つまり……?」
「蛇口全開だよ!」
「マジかよ」
頭を抱えた那由多。
「その過剰の魔力は空中に霧散して、ただの空気中の魔素になる」
「じゃあ、魔力量が多いのに魔力切れってことは……」
「魔力操作が下手だから、必要以上の魔力を垂れ流してる。それに、魔力を効率よく使う方法も知らない!」
「なるほど……」
那由多は少し考える。
「やっぱり、努力は必須かぁ」
そして苦笑した。
「まあ、アニメや漫画みたいに即無双とはいかないか」
「当たり前よ」
レイは腕を組む、
「アタシだって才能だけで上がったと勘違いされているけどね」
「そうだね!」
美琴は胸を張る。
「努力は成功に必須だよ! あーしだって、文字通り血の滲むレベルの鍛錬で黒帯初段になったし」
二人の言葉を聞き、那由多は拳を握る。
年下の女の子たちに負けてはいられない。
「よし!」
那由多は笑った。
「頑張るぞ!」
こうして那由多は、新たな力を手に入れるための第一歩を踏み出した。




