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外れスキル【分身】は装備も増やせたので、追放された俺は一人軍隊でダンジョン配信したら企業案件が止まりません  作者: 月影光貴


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第6話 Cランク撃破のご褒美は降格でした

ちょっとまた下げます

 3人はあの後、夜通しで遊んだ。美琴は学校があるので、そのうち帰宅した。

 この後は特に予定もない。

 レイと二人きりでいるのも悪いだろうと思い、那由多は帰ろうとした。

 しかし、レイに引き止められ、結局そのまま残って駄弁っていた。


「なぁ……? 孤高だの、媚びへつらう奴が嫌だの言うけど、2人ともそんなに友達にいないのか?」


「デリカシーが無いのね」


「い、いや俺なんかとつるむくらいだからさ」


「アンタは自己評価が低すぎるわ。……それよりもう3時よ、泊まっていきなさい。来客用の部屋があるから」


 そう言われ、那由多は改めて家の中を見渡した

 とことんデカい家だなと感心する。

 その一方で、確かにどこか孤独を感じる家だとも思った。


 そのまま風呂も借りて眠りについた。

 そして翌朝


 目を覚ますと、全身筋肉痛で身体がまともに動かない。


「……痛え」


 そう呟いた直後、まるで起きるのを待っていたかのように部屋のノブが下がった。


「おはよう。……あんなに昨日暴れたら、そうなるに決まっているわ!」


「おはよう。でも、勝ったんだよな〜俺」


 少し呆れ気味にレイは口を開く。


「そこだけは本当に嬉しそうね」


 そこで、那由多は一つの疑問を抱いた。

 もう9時だ。

 なのにレイは、学校へ行く気配がない。


「学校は?」


「……中卒よ。でも大卒相当のライセンスは持ってる」


 少し暗そうに話すレイ。

 顔にも僅かに影が落ちている。

 那由多は、それ以上追求しなかった。

 

 代わりにスマートフォンを手に取る。

 通知の数がとんでもないことになっていた。

 SNSのZでのフォロー、コメント、メッセージ。

 そしてDiveONも同じく大盛況だった。

 

 動画投稿サイトには、昨日の配信の切り抜き動画が何本も投稿され、その多くが大バズりしている。

 もちろん、そこから発生する4割の収益に那由多はウキウキだった。

 

 切り抜き動画のタイトルは——。

【新人探索者】ソロ初配信で裏ボスCランクボス撃破。

【衝撃】Eランクの「分身」が軍隊だった件について。

【神回】新人イケメンナユタン、初配信で伝説へ。


 これには那由多の口角が上がる。

 ついに有名人の仲間入りだ。

 

「やっぱ有名になったよな!」


「調子に乗らないの」


 そう言いながら、レイは那由多の頬に指で突く。

 その中に、昨日の掲示板をまとめた記事も流れてきていた。

 それを見つけ、二人で画面を覗き込む。


「中卒プリンセス……」

 

「そ、そんなにへこむなよ! 大卒のライセンスあるんだろ?」


 やっぱ何かしらの事情で、中卒で探索者をやらされているのか?


「……まあね、それより那由多、トレンド欄でもすごいわよ」


 1人軍隊。

 Cランク撃破。

 ナユタン。

 そして、神代工業の案件。

 そんな言葉がトレンドに入っていた。


「えっ! えええええ!!!! うっひょ〜!!」


 痛む身体を無視して両手を上げて喜ぶ。


「痛えぇ! でも今も通知止まらねぇ!! 俺有名人じゃん! コメントもどれどれ……」


〈ナユタンの昨日の配信見たぞ!ファンになった!〉

〈次の配信いつですか?〉

〈ドローンまた見せて!〉

〈例の魔剣どうなった?〉

〈DiveONの探索者ランクが空欄になってるよ!だからギルドに確認した方がいいっすよ!〉


 そこまで読んで那由多の動きは止まった。

 そういえば、昨日はわざわざランクを確認する暇などなかった。

 

 Zのフォロワーは2万人に達している。

 昨日までは624人だったのに。


 画面に表示された数字を見て、那由多は固まった。

 フォロワー数――2万人。

 昨日まで624人だったはずだ。

「……2万人?」

 そして次の瞬間。

「2万人!? わーい!」


 分身を出してハイタッチ。

 

「……ってそれより何これ……」


 ふと画面を見た。

 

 確かに、DiveONの探索者ランク欄が空欄になっている。


「なんでか探索者ランクが空欄になっているんだけど、ギルド行ったら特例で昇格とかあるかな?」


 期待に胸を膨らませる。


「Cランク倒したんだぞ? ひょっとしてCまで昇格とか……」


「アタシはCからAに飛び級したから可能性は0じゃないわ」


 レイは少し考えてから続けた。

 

「まあ行くだけ行きましょ」


「よし!」


 そうして2人は、日本探索者協会中央東京支部へ向かうことになった。

 本部を除いて国内最大規模のギルドだ。

 

 無料の鑑定所もあるらしいので、魔剣も持っていくことにした。


「はい、手を貸して。絶対に離さないで」


「えっ? ここで握手?」 


 そう思った瞬間――。

 身体が光に包まれ、気がつけばもうギルド前にいた。

 

「うわっ!? これすごいなぁ……羨ましい」


「アタシからしたら、()()の分身が羨ましいわ」


 なんでだろうかと思いながらもギルドに入る。

 受付嬢の人に話しかけると、配信を見ていたらしく、すぐに気づかれた。


「ようこ……あ! ナユタン! 見ましたよ、配信!」


「ありがとうございます!」

 

 ハッピー! ハッピー!! ハッピー!!!

 心の中で手足ばたつかせジャンプし踊る。

 それも5人並んで。

 

 そんな妄想をしていると。

 その次の瞬間、絶句する言葉を言い放たれる。


「それにしても、引退してからまた配信を始めるなんて、随分思い切りましたね!」


「……え?」

 

「あれ? 神楽那由多さんですよね? 去年、探索者登録をして少し前に代理人を通じて、パーティ離脱と探索者登録の抹消手続きがされています」

 

「……え?」

「引退……してませんけど」

「……は?」

「わ、私は引退をしていませんよ……? 今初めて聞きましたが……」


 心臓に杭が刺されたかのようにズキッとした。

 手が震える。

 胃の奥からも何かが込み上げてきそうになるのを必死に堪えた。


 那由多の雲行きが怪しくなったことに気づき、レイも少し心配そうに見ている。


「……ありました」


受付嬢が端末を確認する。


「6月23日付で、代理人を通じてパーティからの離脱と探索者登録の抹消手続きが行われています」


 ……6月23日。

 ……それは俺の誕生日の前日だ。

 俺が最後に18歳だった日。

 待てよ、俺は誕生日の6月24日に追い出された。

 その時、倉田は不正をしたと堂々と言い放っていた……

 

 つまりは——。


「それ倉田ですよね?」


「はい、リーダーの倉田様が神楽様の処理を代理で行っています」


「それは、不正です。勝手にやられたんです!」


 那由多の声は震える。


「Eランクには戻せないんですかっ!!」


 ここんところ泣き過ぎている。

 それでも涙は枯れなかった。

 なんでだ

 なんで、まだ俺を叩き落とすんだよ。


「うーん……」


 受付嬢も困り果てた顔をする。


「不正の証拠が無い上に、除名から戻るには再登録になります」


 そした、かなり申し訳なさそうに告げた。


「……なので、規則ではFランクから再スタートとなります」


「…………」

 

 頭に雷が落ちた。

 あまりの衝撃にふらついてしまい、カウンターに手をつく。

 あまりの衝撃にふらつき、カウンターへ手をついた。

 

「……っ」

 

 息が、うまく吸えない。

 胸が締め付けられるようだった。


「ねえ、那由多。落ち着いて」


 レイが背中をさする。


「アタシたちも無所属だから手伝う。だからさ!」


 年下の女の子に優しく背中をさすられ、慰められる。

 時に優しさは人を刺す。

 あんまりにも惨めだ。

 俺は人目も(はばか)らず、その場に蹲って泣いてしまった。

 周りはザワザワと騒がしくなる。

 その中では、スマートフォンを向けて動画やらを撮影している奴までいた。


「なんで……」


 涙が止まらない。


「なんで俺から、そこまで奪うんだよ……」


 レイは何も言わず、拳を強く握りしめた。

 ――倉田。

 その名前が頭をよぎるだけで、怒りが込み上げてくる。

 

 受付嬢の配慮で、那由多達は別室に通された。

 なぜ自分があの時ダンジョンに入れたのか。

 その理由はシンプルだった。

 探索者ライセンス自体が失効するまで、まだ猶予が残っていたのだ。

 だから受付嬢も除名後の配信に疑問を抱いていた。

 

 少し落ち着くと受付嬢が、能力ランクを測定する水晶を持って来た。


「多分、上がりも下りもしませんが……再測定が規則ですので。お願いします」


「……はい」


 水晶に触れる

 もちろんEだった。

 当然だった。

 普通なら落胆するだろう。

 しかし、今の那由多にとっては、

「これ以上下がらなくて良かった」

 その安堵の方が大きかった。

 

 DiveONは同期されたらしく、表示されている探索者ランクはFになっていた。


 更に鑑定屋の人も別室に来て魔剣を見てくれた。

 那由多が有名人だから配慮してくれたのか。

 それとも、本当に親切さからなのか。


「ほお、こりゃあ良い業物だ!」


 鑑定士は魔剣を眺める。


「名前は……そのまま守護者の魔剣だ」


 ホログラムのように剣の鑑定結果が浮かび上がる。

 しかし、鑑定士はそれを慌てるかのように消した。


「良い物なんですね!」


 少し心の曇天は快晴に向かう。


「これは相手の攻撃を受け止めれば受け止める程、威力が上がる。あとは一般的な魔剣ができることは一通りできる」


 鑑定士は顎髭を撫でながら続ける。


「鑑定価格なら……研磨前でも500万近くはある」


 鼻を触り言う。


「500万!?」


 那由多の目は輝く。


「だが、俺が買い取るなら250万だ」


「どうす……」


 


「いえ、結構です。どうも、ありがとうございました」


 そう検討する暇も与えずレイが遮った。

 そのまま那由多は手を引かれて急ぐように外に出た。


「おいおい? どったの?」


「詐欺よ」


「え?」


「その剣の価値はそんなもんじゃないわ。あの鑑定士、鑑定結果をすぐ消したわよね?」


 レイは呆れたようにため息をつく。

 

「あの時、隅に『研磨後予想価格:1000万円以上』って表示されていたわ」


「……マジ?」


「マジよ」


 那由多は肩を落とした。

 世の中、敵は多いんだなと。

 性善説を信じる那由多には、なかなか厳しい現実だった。


「はぁ……世知辛い……」


「錆落としと研磨はアタシのレーザーでやるわ」


「ありがとう」


 そう言われ、那由多は少し笑った。

 だが、その笑顔はどこか曇っていた。

 レイは、ずっと心配そうに那由多を見ている。


 そんなことを考えていると一つのDiveONからの通知が届いた。

 それは、うっかり忘れていた大切な案件だった。


「神代工業からの連絡だ」


画面を確認する。


「テスターを受けるなら、今日の18時に来てくれだってさ……信用していいのかな」


 もう人間不信になりかけている。

 一流の企業がこんなことで騙すわけがないと頭ではわかっていても心が怯えていた。


「大丈夫、あそこはクリーンな会社よ。アタシも受けたことあるから」


「そうか!」


 那由多は少しだけ表情を明るくする。


「じゃあ行くかぁ。それまで時間潰すか」


「アタシの家に戻る? あと美琴も多分着いてくるわね」


「あ! 俺の部屋に来ない?」


 那由多は言ってから固まった。


「……あ!! ちが、違うんだ! マジでただ……」


「ふふっ、慌てなくても大丈夫よ。じゃあ、お邪魔しちゃおうかな」


 そう柔らかく笑う彼女に癒される自分がいた。

 世の中、味方ばかりじゃない。

 それでも――俺は、人を信じることをやめない。

次は上げます

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