第41話 昇格試験での再戦
今日は那由多のCランク昇格試験、そのモンスター討伐クエストの日だ。
そして、新たな汎用戦闘用義手を受け取る日でもあった。
那由多はレイ、美琴、ヴェルナと共に神代社を訪れ、そこで待っていた律から新型の義手を受け取った。
「はい、ナユタン。これが新型義手だよ」
「おお、これが!」
那由多は銀色の義手を受け取ると、興味深そうに眺めた。
外見は従来の戦闘用義手と大きく変わらない。銀色の装甲に赤いアクセントが入った、神代製らしい洗練されたデザインだ。
しかし、その内部構造には大きな変更が加えられていた。
「今回の目玉は、魔石を完全に廃止したことだね。代わりに、ナユタン自身の魔力を直接エネルギー源として利用する設計になっている」
「魔石がいらなくなったのか?」
「そういうこと。魔石は消耗品だからね。どれだけ高性能な装備でも、魔石が尽きれば動かなくなる。その点、ナユタンの魔力量なら、エネルギー不足を心配する必要はほとんどない」
「ほとんどってことは、絶対じゃないんだな?」
「そりゃあね。装置の処理能力には限界があるし、魔力を使うのは義手だけじゃないから」
律は楽しそうに説明を続けた。
「それから、魔法の制御補助機能も大幅に強化したよ。これまで使っていた中級魔法だけじゃなく、上級魔法にも対応できるようになった」
「おおっ! それはすごい!」
「まあ、ナユタンの魔力操作は相変わらず幼稚園児並みだけどね。どれだけ魔力があっても、まともに扱えなければ宝の持ち腐れだからさ」
「そこはもうちょっとオブラートに包んでくれない?」
「事実を述べただけだよ?」
「ぐぬぬ……!」
『実際にカスですね!』
「うるせぇ……ぐっ……」
那由多は反論できず、唸るしかなかった。
とはいえ、魔力制御を義手に補助してもらえるのなら、これまで以上に魔法を活用できるはずだ。
新たな力を手に入れたことに、那由多の胸は期待で膨らんでいた。
こうして新型義手を受け取った一行は、レイの瞬間移動によってギルドへと向かった。
今回の昇格試験には、レイ、美琴、ヴェルナ、律の4人も応援に来てくれている。
ギルドに到着すると、昇格試験を受ける探索者たちが集まっていた。
今回のモンスター討伐試験では、受験者同士で即席のパーティを組むことが認められている。Cランク相当のモンスターを相手にする以上、複数人で協力するのが基本だからだ。
しかし、那由多はいつも通り単独で挑戦するつもりだった。
「いやー、ナユタン。またマジで1人でやるの? 正直、イカれているよ?」
美琴が呆れたように言った。
「美琴レベルでも昇格試験では人と組むのか?」
「いや、だって楽だし」
「そうね。アタシも流石に組んだわね」
美琴とレイも、那由多の選択には呆れているようだった。
分身スキルを持つ那由多にとって、単独攻略は必ずしも無謀な選択ではない。分身を使えば、実質的に複数人で戦うこともできる。
だが、それを差し引いても、普通なら仲間と協力したほうが安全で確実だ。
わざわざ1人で挑む理由など、ほとんどない。
強いて言うなら他人との連携に不慣れな那由多は一人のほうがやりやすいと思ったくらいだ。
「前も組まなかったし、いいよ。ちょっと受付してくる」
「いや、そういう問題じゃないんだけどね……」
律の呆れた声を背に、那由多は受付へ向かった。
必要な手続きを済ませ、試験の説明を受ける。
そして、指定されたダンジョンへと向かうことになった。
もちろん、移動手段はレイの瞬間移動である。
ダンジョンの入口に到着すると、那由多は配信用カメラドローンを起動させた。
「じゃあ、みんなは配信を見て応援していてくれ! 絶対勝つからな!」
「アンタなら大丈夫」
レイが静かに頷く。
「あーしは信じてるよ!」
美琴も元気よく拳を突き上げた。
「お前の強さは本物だ。こんな通過点、さっさと乗り越えてしまえ」
ヴェルナは腕を組み、力強く言い切った。
「データも昇格も大切だけど、退避するという判断は忘れないでね。無理をしてデータを取る必要はないから」
律は研究者らしく釘を刺す。
『私もサポートを本気でするので!』
ネアの声も頭に響いた。
「おう!」
那由多は力強く返事をすると、ブラックナユタンへと変身した。
そして、守護者の魔剣を抜き放つ。
銀色の刀身が、ダンジョンの薄暗い光を反射した。
「よし、行くか!」
那由多は地面を蹴り、ダンジョンの奥へと駆け出した。
「分身っ! 切り裂いて行くぞッ!」
那由多の周囲に分身が現れる。
複数の那由多が連携し、道中に現れたモンスターを次々と倒していった。
〈いつにも増して荒々しいな〉
〈そりゃあ昇格試験だしな〉
〈がんばれー!!〉
〈すき〉
配信のコメント欄も賑わっている。
そんな中、那由多は新型義手の性能を確かめるように左腕を掲げた。
「フウゴ!!」
義手から魔力が放出され、風が渦を巻く。
次の瞬間、暴風がモンスターたちをまとめて吹き飛ばし、壁へと叩きつけた。
轟音がダンジョン内に響き渡る。
〈ナユタンが魔法使ったぞ!?〉
〈しかも上級魔法!?〉
〈あの義手すげぇな〉
「すげぇ……! 俺の魔力操作でも、こんな魔法が使えるなんて……!」
那由多は驚きながら、自分の左腕を見つめた。
これまで魔法を使う機会は少なかった。そもそも、魔力の扱いが苦手なのだから仕方がない。
しかし、新型義手の補助があれば話は別だ。
膨大な魔力を、魔法という形で戦闘に利用できる。
慣れない感覚に胸が高鳴った。
その後も、那由多は道中のモンスターを圧倒していった。
特筆すべき苦戦もなく、ついにボス部屋へとたどり着く。
「よーし! なんでもかかってこ……い……?」
勢いよく扉を蹴破った那由多は、部屋の中を見て言葉を失った。
そこには、巨大な盾と剣を構えた騎士のようなモンスターが立っていた。
カメラドローンが対象のスキャンを終え、情報を表示する。
『対象:グレイトガーディアン』
『推奨ランク:Cランク以上』
『推奨人数:フルパーティ』
「……アイツは……」
那由多の脳裏に、かつての戦いが蘇る。
初めての配信で、想定外のボスとして現れたグレイトガーディアン。
あのときは分身やドローンを総動員し、武器も失いながら、ようやく勝利を掴み取った。
そして、戦利品として手に入れたのが、今も愛用している守護者の魔剣だった。
「別個体とはいえ、なんという運命だ……」
那由多は魔剣を握り直す。
今回は違う。
新型義手を手に入れたとはいえ、武装はこの義手と魔剣だけだ。
「やはり、こちらから攻撃を仕掛けるまで襲ってこないか」
グレイトガーディアンは、ボス部屋に侵入した那由多を見据えながらも、動く気配を見せなかった。
その姿を見て、那由多は分身たちを消した。
〈なにしてんの!?〉
〈もしかしてタイマンする気なの?〉
〈Bランク単独撃破したからって調子に乗ると死ぬぞ〉
〈ナユタンを信じよう〉
〈美琴だ!?〉
『何してんですか!?』
視界の端にいるネアが悲鳴を上げる。
だが、那由多は魔剣を構えたまま、グレイトガーディアンを見据えていた。
「こんなに正々堂々と待ってくれてんなら、俺も1人で戦うぞ」
『熱血漫画じゃないんですから……』
ネアの呆れた声が響く。
那由多自身、無謀な判断だという自覚はあった。
それでも、目の前の相手はかつて自分を苦しめた強敵だ。
今回は分身に頼らず、どこまで戦えるのか試してみたい。
そんな思いがあった。
「行くぞッ! フウゴ!」
那由多は左腕を突き出し、上級風魔法を放った。
暴風がグレイトガーディアンへと襲いかかる。
しかし、相手は重厚な盾を構え、真正面から風を受け止めた。
「なっ……!」
風が吹き荒れる中、グレイトガーディアンは盾を構えたまま突進してきた。
「なら燃えろ、ホムラ!」
今度は上級炎魔法。
炎が騎士の全身を包み込む。
だが、グレイトガーディアンは剣を振り回し、炎を散らしながら突っ込んできた。
「マジかよ!?」
那由多は慌てて魔剣を構える。
金属音が轟いた。
剣と剣が激突し、両者の刃が噛み合う。
鍔迫り合い。
巨体から押し込まれ、那由多の足が床を滑った。
「この距離ならどうだ? ライゾッ!」
那由多は左腕を相手の鎧へと押し当て、上級雷魔法を放った。
雷撃が鎧を伝い、グレイトガーディアンの全身を駆け巡る。
しかし、相手は怯まなかった。
それどころか、剣をさらに強く押し込んでくる。
「ぐっ……!」
那由多は耐えきれず、後方へと飛び退いた。
「チッ……。こりゃあ魔法無効なのか? もう昔のことだから忘れちまった」
思わず漏らした言葉に、コメント欄が反応する。
〈違う、そいつが単純に頑丈なだけ〉
〈魔法で倒せる相手なら苦労しないんだよな〉
〈鎧の隙間に剣を突き立てろ!〉
「そうか……」
那由多は短く答えた。
その間にも、グレイトガーディアンは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
剣と剣がぶつかり、火花が散った。
一太刀が那由多の胴体を掠めるがナノテクで変身していたおかげで無事。
そんな中で那由多は攻撃を受け流しながら反撃を狙うが、巨体と盾を活かした戦い方に苦しめられる。
そして、わずかな隙を突かれた。
グレイトガーディアンの盾が、那由多の身体を捉える。
「ぐはっ!」
那由多は吹き飛ばされた。
衝撃を受け止めるため、とっさに左腕を前に出す。
鈍い破砕音が響いた。
新型義手の装甲が砕け、内部機構が悲鳴を上げる。
『義手、完全にオフライン! 残骸をパージします!』
義手が機能を停止し、破損した部品が切り離された。
今は完全にただの隻腕の剣士だ。
「くっ……!」
那由多は地面を転がりながらも、何とか体勢を立て直す。
新型義手は、あっという間に壊れてしまった。
それに変身していなければ打撲や骨折もしていただろう。
だが、まだ終わりではない。
那由多は魔剣を握り直し、グレイトガーディアンを睨みつけた。
よく見ろ。
必ず、どこかに隙があるはずだ。
真正面から力比べをしても勝てない。魔法も決定打にはならなかった。
ならば、相手の不意を突くしかない。
「……よし」
那由多は魔剣を構えた。
そして、次の瞬間。
「喰らえ!」
魔剣を一直線に投げ飛ばした。
グレイトガーディアンは、飛んでくる剣を見ても盾を構えようとしなかった。
あまりにも単調な攻撃。
そう判断したのか、身体を傾けてあっさりと回避する。
「……やっぱりな」
那由多は口元を吊り上げた。
魔剣の性質、その1。
手元から離れた魔剣は所有者の手元に飛んで戻って来る。
グレイトガーディアンが避けたことで、魔剣はその背後へと抜けた。
そして、次の瞬間。
魔剣が軌道を変え、那由多のもとへと戻り始める。
その進路上には、グレイトガーディアンの背中があった。
ガキンッ!
魔剣が鎧の隙間へと突き刺さる。
「よしっ!」
剣が深く食い込み、グレイトガーディアンの動きが止まった。
さらに、魔剣は戻ってくる勢いを利用して鎧の隙間を切り裂いた。
盾を持っていた腕が傷つき、巨大な盾と腕が床へと落ちる。
魔剣はそのまま軌道を変え、那由多の手元へと戻ってきた。
「お揃いだね」
那由多は、左腕を失った自分の姿と、盾と腕を失ったグレイトガーディアンを見比べて笑った。
もちろん、笑っている場合ではない。
勝負を決めるなら今だ。
那由多は地面を蹴り、一気に距離を詰めた。
グレイトガーディアンが剣を振り上げる。
しかし、その動きは先ほどまでよりも鈍い。
那由多は攻撃をかいくぐり、魔剣を傷口へと突き立てた。
深く刺さった刃を、内部を抉るように引き抜く。
「終わりだッ!」
最後に那由多は渾身の蹴りを叩き込んだ。
巨体がよろめき、グレイトガーディアンは片膝をついた。
那由多は距離を取り、右手を前に突き出す。
魔力を集める。
膨大な魔力を時間をかけて圧縮し、巨大な魔弾を作り上げていく。
普段なら制御が難しいはずの魔力も、単純な魔弾の形にまとめるだけなら話は別だ。
那由多の右手に、眩い光が凝縮されていく。
「これで……終わりだぁぁぁッ!」
巨大な魔弾が放たれた。
轟音と閃光。
地面が揺れ、天井から砂埃が降り注いだ。
圧縮された魔力が爆発的に広がり、グレイトガーディアンの巨体を飲み込んでいく。
やがて光が収まったとき、そこにはもう、立ち上がる騎士の姿はなかった。
〈忘れがちだけど、ナユタンって魔力量はすごいんよね〉
〈でも前に自分で言ってた通りなら、操作は雑魚なんだよねww〉
〈Bランクに単独で勝ってるから感動が薄いなw〉
コメント欄は相変わらず好き勝手なことを言っている。
しかし、那由多にはそれを気にしている余裕などなかった。
「はぁ……。義手がダメになっちゃったけど、タイマンで勝てたな……」
那由多は左腕の残骸を見下ろした。
せっかく受け取った新型義手が、初陣で壊れてしまったのだ。
勝利の喜びよりも、修理費などや律の反応が気になってくる。
『やはり、義手は戦闘用でも脆いですね。なんとか勝てて良かったです』
「そうだな……律に怒られないといいけど……」
そんなことを考えていると、ふと、グレイトガーディアンがいた場所に目が留まった。
「あれ? また魔剣がレアドロップした!?」
そこには、鞘に収められた剣が落ちていた。
那由多は駆け寄り、拾い上げる。
「……全く同じ守護者の魔剣だ」
見覚えのある形状。見覚えのある装飾。
手元のものと、瓜二つだった。
「レイにレーザーで研いでもらうか……! それで、男なら憧れる二刀流で戦っちゃおうかなぁぁぁ!!!」
〈呑気〉
〈真剣なときとのギャップ萌え〉
〈切り抜きも盛り上がるだろうな〉
先ほどまでの死闘が嘘のように、那由多は新しい魔剣を手に浮かれていた。
こうして那由多は、グレイトガーディアンとの再戦に勝利した。
圧勝とまではいかなかったものの、分身を使わずに勝ち切れたことは大きな一歩だった。
自分の固有スキルにばかり頼り切るのは危険だ。
分身が使えない状況でも戦えるようにならなければ、いずれ取り返しのつかない失敗をするかもしれない。
今回の戦いは、そのことを改めて実感する機会となった。
ダンジョンから脱出した那由多を、仲間たちが出迎える。
「お疲れ様、那由多」
「やったじゃん! でも、なんで分身を解除したのさ!?」
「新型義手まで壊すなんて……いや、データとしては興味深いけどね」
「勝ったからいいものの、無茶をするな!」
祝福と小言が一斉に飛んでくる。
「いやぁ、勝てたからいいじゃん!」
「よくない!」
仲間たちの声が重なった。
那由多は苦笑いを浮かべるしかなかった。
明日は対人戦。
Cランク昇格まで、あと1つの試験が残っている。
那由多は新たな魔剣を大事に抱えながら、明日に備えて身体を休めることにした。




