第42話 タイマン?昇格戦
那由多は戦闘用義手MK1を装着し、仲間たちと共にギルドへ向かった。
レイの瞬間移動を使えば、移動などあっという間だ。
そして5人がギルドに入った瞬間、周囲の空気が変わった。
「あれ、ナユタンじゃん。今日、試験受けるのやめようかな……」
「あとで写真撮ってもらえないかな」
「今回の昇格戦で1位になれば、それなりに名が売れるぞ!」
やる気をなくす者もいれば、逆に奮起する者もいる。
中には、ただのファンとして那由多を見つめている者までいた。
実に多様な反応を向けられ、那由多は苦笑いする。
受付で簡単な説明を受けた後、VR空間に意識を飛ばすための装置へと案内された。
那由多が装置に座ると、その周囲にはレイたちが集まる。
「配信で見てるから頑張りなさい」
「今のナユタンなら余裕っしょ!」
「いつもの魔物とは違うが、対人戦でも勝てるだろう」
「ナユタンは腕がなくとも、カンタレラに神代の力があるから絶対勝つ!」
仲間たちから次々と激励の言葉をかけられ、那由多の緊張も少しずつほぐれていく。
「ああ! 頑張ってくる!」
『ハッキングは禁止らしいので、私はフェムトマシンの操作だけをします!』
「そういえば、お前ハッキングできたんだな。まあ、ズルは良くない。じゃあ行ってくる!」
そう言うと、那由多は頭に装置を装着した。
そして意識は、VR空間へと転送される。
那由多が目を開けると、そこには大勢の受験者が集まっていた。
どうやら、全員が同じ空間に転送されたらしい。
周囲を見回していると、突然、後ろから肩を叩かれた。
「ん? ……あ゛ぁ゛っ!?」
振り返ると、そこには浮遊するネアの姿があった。
「どうやら、あの機械を介すると分離されちゃうらしいです!」
そう言いながら、ネアは那由多に抱きつき、頬と頬を擦り合わせてくる。
「お、おい! あまりくっつくんじゃないよ!」
やめろ! なんでAIなのにいい匂いすんだよ!
「そんなぁ……もしかして恥ずかしいんですかぁ?」
「当たり前だ! 周りからめっちゃ見られているぞ!」
実際、周囲の視線は完全に2人へと集まっていた。
〈あれがネアちゃんか!〉
〈赤と青の目と髪でツインテール!〉
〈カーディガンの学生服って聞いていたけど、本当にそうなんだな〉
どうやら配信のコメント欄にも、ネアの姿が映っているらしい。
ネアは那由多にしがみつくのをやめようとしない。なんせ、やっと那由多をこの手で触れられたからだ。
那由多は諦めて、運営のギルド職員に声をかけることにした。
「あのー、私の頭の中にいるネアがいるんですけど、どうしたら良いですか?」
「えっ……え? 本当に??」
ギルド職員も困惑している。
そもそも、意識をVR空間に転送する装置で、頭の中にいる人工知能まで独立して現れるなど想定していなかったのだろう。
「うーむ……でも、まあ君の武装の一部だから、今回はひとまず有りとします。ただし、この空間へのハッキングはしないでくださいよ」
「すみません、ありがとうございます」
「わーい!!」
こうして特例で許可されたネア。
これで那由多は、実質7人で戦うズルい奴となった。
その後、ギルド職員が改めて試験のルールを説明する。
今回の昇格戦は、時間無制限の1VS1。
試合に勝ち進み、ベスト4に入ればCランクへの昇格が認められる。
固有スキルの使用に制限はなく、武器や装備の持ち込みも認められている。もちろん、相手も固有スキルを使ってくるため、単純な腕力だけで勝敗が決まるわけではない。
説明が終わると、受験者たちはそれぞれの試合会場へ転送されることになった。
――そして、那由多が再び目を開けた時。
空から実況の声が響いてきた。
『さあ、今回は超有名人で期待のルーキー、神楽那由多の参加だァ! そして、彼の脳内に常にいるネアも特例でセットだ!』
周囲の受験者たちは、那由多の名前を聞いてざわついていた。
しかし、期待に胸を膨らませるというよりは、どこかテンションが低い。
「つまり、7人と戦えと……」
「まあ、フェムトマシンは武器だし、ありっちゃありだよな……」
そんな声も聞こえてくる。
『それでは! 第1回戦、行くぞー!』
その声を聞いた瞬間、那由多は目の前の景色が切り替わった。
気づけば、そこは広大な平原だった。
「この感覚、慣れねえなぁ」
「まあ、さっさと終わらせちゃいましょー!」
隣ではネアが楽しそうに浮遊している。
そして、那由多の正面には対戦相手の女性が立っていた。
彼女は那由多を見た瞬間から、明らかにやる気を失っていた。
「なんで私が……なんで私が……」
ブツブツと呟く女性。
どうやら、相手も那由多の実力を知っているらしい。
『さぁ! 那由多を倒せるかぁー!?』
実況の声と共に、カウントダウンが始まる。
3
2
1
『スタート!』
「変身&分身!」
那由多の身体が黒い装甲に包まれ、瞬く間に6人へと増えた。
ただし、ネアは当然ながら1人だけだ。
対する女性は、手にした杖を天高く掲げた。
「一か八か、全魔力を使ってやるわ! ライゾッ!」
魔法使いというのは魔導具を使うことで、通常の魔法よりも威力を底上げできる。
彼女が放ったのは、自分自身まで巻き込む広範囲かつ高火力の雷魔法だった。
勝ち筋が見えない相手に対し、文字通り一か八かの賭けに出たのだ。
「マズいッ!」
那由多は咄嗟に2本の魔剣をクロスさせ、頭上から降り注ぐ雷撃を防いだ。
そして、雷が収まって前を向くと……
女性は自分の魔法に巻き込まれ、その場に倒れていた。
『おっと!? まさかの自滅だぁー!! 守護者の魔剣は防御力にも長けている! その性質を知らなかったのが仇となりましたー!!』
「えっ……」
那由多は思わずポカンとしてしまった。
「まあ、彼女は一か八かに賭けなければならないほど、勝ち筋がないと判断したのでしょう」
ネアが冷静に分析する。
「なんかズルした気分……」
実際、那由多の戦い方はルール上問題がなくとも、アンフェアに感じる部分が多い。
もっとも、相手も固有スキルや装備を自由に使える以上、文句を言う筋合いはないのだが。
そして、次の試合が始まった。
相手は剣士の男。
那由多は開始直後、即座に変身と分身を行い、6人で男を取り囲んだ。
「なっ! 速いっ!」
「じゃあ、ドッジボールしようか」
そう言うと、那由多は両手に持った2本の魔剣を男に向けて投げつけた。
もちろん、分身たちも同時に魔剣を投げる。
投げられた魔剣は、持ち主のもとへと戻っていく。
それが何度も繰り返されるのだ。
これだけで男がどれほど酷い目に遭うか、察せられるだろう。
「くっ! 避けても弾いても魔剣が戻って迫ってくるっ! ぐぁっ!!!」
四方八方から飛んでくる魔剣を回避しきれず、男は左足などに攻撃を受けてしまう。
『なんということでしょうか! まさに蹂躙をしています!』
〈えぐくて草〉
〈ナユタンそのままやっちゃえー!!〉
〈もう美琴がいるのはいつものこと〉
〈ひっでぇなこれ〉
「ネア! 相手を拘束してくれ!」
「はい!」
浮遊しているネアは、必死に魔剣を避けようとする男の動きを妨害した。
「ズルいぞーっ!! うわああああ!!!」
男は逃げ場を失い、次々と迫る魔剣に翻弄される。
まるで黒ひげ危機一発のような状態になり、ついに強制ログアウトとなった。
『脳内に感情のある人工知能を入れているのは、人類で彼しかいませんがぁー!! これがデフォルトになると恐ろしいですねー!!』
〈これルール的に良いんだ……〉
〈武器の持ち込みは許可されている。その上で実際に外骨格や補助AI搭載兵器の使用は許可されているしね〉
〈確かに自立する武器もOKだし、そうだね〉
〈この前なんて自動で弾丸を撃つボットを何台も持ち込んで勝った奴いるし、ナユタンのこれはOKでしょ〉
コメント欄でも長文で物議を醸している。
だが、結論としては、ルール上認められてもいいだろうという雰囲気で落ち着いた。
そもそも、全員が固有スキルを持ち、武器や装備も自由に使える試験なのだ。
那由多だけが特別に禁止される理由はない。
そして、この調子で那由多は次々と相手を倒し、ベスト4進出まであと1勝というところまで勝ち進んだ。
圧倒的な力を見せつける那由多。
そして、圧倒的な可愛さを見せつけるネア。
2人は周囲の注目を集めながら、ベスト4まで一直線に進んでいくのであった。




